28話 シナリオ改変
今日はお休みをもらって、フローラに会いに行く準備をしていた。ドアをノックされて返事をすると、イーギス様がドアを開ける。
「どこ行くの?」
「フローラのところですわ」
1度会ってる以上誤魔化す意味もないし、今のイーギス様ならフローラも好きになる可能性が高い。イーギス様が私の後ろに回り込んで抱きしめる。
「俺も行く」
「もちろん、いいですわよ」
この家に居ても辛いだけだろうし、私は二つ返事で了承する。するとイーギス様は驚いた顔をした。
「いいの?前は内緒にしてたのに」
「バレてしまった以上内緒にする必要ないですわ」
行かないんですの?と聞くと、イーギス様は首を横に振る。私は支度をして、イーギス様と一緒に馬車に乗り込んだ。
「何でナターシャはフローラ嬢と仲良くしようと思ったの?」
馬車に揺られながら、イーギス様が私に質問する。
「とても可愛らしい方ですもの、気になるのも当然ですわ」
「でも令嬢でもないのに」
令嬢だとか令嬢じゃないとかよりも、私にはヒロインであることが大事で。
「イーギス様もそのうちわかりますわ」
イーギス様だってきっと自然に惹かれていく。それが自然なのに、なぜか少しだけ胸が痛んだ。
「イーギス様、大切な人は何があっても手放したり諦めてはダメですよ。イーギス様は優しいところがあるから、我慢してしまうでしょう」
「……わかった」
まっすぐイーギス様を見て告げると、イーギス様は少し考えてから頷く。それから立ち上がって、私の隣に座った。
「絶対離さないから、ナターシャはずっとそばにいてくれる?」
「わ、私ですか?」
予想してないことを言われて驚く。イーギス様は私を見て頷いた。
「わ、私はイーギス様のファンで……。イーギス様と結ばれるのは別の方ですわ」
「俺の大切な人はナターシャだよ」
イーギス様の体が近づいてきて、馬車の中で押し倒される。昨日も、こんな展開になったような……。
「ナターシャのこと、絶対離さないから。覚悟して」
そう言って額にキスを落として、イーギス様は反対の席に座る。私は自分の額に触れた。熱い。こんなまっすぐに好意を伝えられるのは恥ずかしくて、だけど嬉しい。自惚れそうになるけど、イーギス様の幸せのためには絶対にフローラと結ばれないといけないのだ。私は悪役令嬢なんだと、今一度思い出す。
「イーギス様は小悪魔ですね」
「ならナターシャは悪魔だよ」
フフッと笑うイーギス様。なんて失礼なことを言うんだ。だけど、楽しそうに笑うイーギス様に私の文句はどうでもよくなる。やっぱり私が幸せになる以上に、推しには幸せにいてほしいんだ。
「イーギス様、絶対ぜーったい幸せになってください」
「……ナターシャ次第だよ」
私の思いはイーギス様に届くのだろうか。イレギュラーな私の存在で、シナリオがどんどん変わっていってる気がする。王子ルートを回避するにはそれでいいのかもしれないが、イーギス様の矢印の行方が心配だ。でもこの世界はしょせんゲームの中で、シナリオの強制力には逆らえないだろう。だから、今は心配でもイーギス様は絶対フローラを好きになる。それだけは確信していた。




