23話 セリとフローラ
バームズ家に到着し、バームズ家の執事に挨拶する。
「ナターシャ様、坊ちゃんはこちらに」
「セリ様~」
裏庭の方に案内され、私はセリの名前を呼ぶ。馬の手入れをしていた少年が振り向いた。
「おう、ナターシャ。久しぶりだな」
「久しぶり。会えて嬉しいわ」
セリに警戒されないように、慎重に手紙のやりとりをしていたから会うのが遅くなってしまった。そんなセリは最近手紙で幼馴染の話をしてくれるようになり、幼馴染含めて会いたいと言ったのだ。それなら婚約者がいる私でもセリとも会いやすいと思った。まぁ、目当ては最初からフローラなんだけど。ひょこっとセリの後ろから、ピンク髪の美少女が現れる。
「可愛い!」
さすが乙女ゲームのヒロイン。大きな声を出した私にびくっと肩を震わせる。
「おいおい、俺はおまけかよ」
「そんなことないわ。セリにもセリの幼馴染にも会いたかったわ」
呆れるセリにウインクして、私はフローラに近づく。
「初めまして。ナターシャ・ユーリティスです。仲良くしていただけると嬉しいわ」
「ナターシャ様……、私はフローラ・キュロスですわ」
馬の後ろから少し顔を見せ、フローラが挨拶をしてくれる。
「こいつ、良いとこのお嬢さん見るの初めてだから緊張してんだよ。でも手紙でも聞いたけどいいのか?侯爵令嬢が侍女の娘と友達になって」
「身分は関係ないわよ。セリだってそうでしょ?」
そう、フローラはお嬢様ではなくバームズ家に使える侍女の娘でセリの家に住み込みで働いている。そんな彼女が、バームズ侯爵のご厚意で学園に入学したのがゲームの始まりだった。
「セリから聞きました。ナターシャ様が私に会いたがってると……。本当ですか?」
「ええ、だって女の子のお友達いないんだもの。令嬢同士だと色々複雑ですし」
イーギス様の婚約者の座を狙ってる女子はたくさんいる。常に比較される空気が耐えられなくて、そんなことより私はフローラを愛でたい。
「だから仲良くしてください」
「私で良ければ、ぜひ」
手を差し出すとフローラが目を輝かせて、私の手を握る。小さくて柔らかな手に、私はきゅんとした。セリが案内してくれて、テラスに向かう。3つ置かれた椅子の一つにセリが座って、私は正面に座った。
「セリ様からよくフローラ様のことを聞きますの。可愛らしい方だって」
「可愛いなんて言ってないだろ」
セリが頬杖をついて否定する。頬は少し赤く染まってて、周りから見たらきっとフローラを好きなのがバレバレ。
「あら、でも今日フローラが何をしたこうしたって話が全部可愛くて興味を持ちましたのよ」
「恥ずかしいです」
まぁセリから聞かなくてもフローラが天然で可愛いのは知ってるけど。
「フローラ様と恋バナしたくて、なかなか出来る相手がいないんですのよ」
「恋バナですか?」
不思議そうに聞き返すフローラと、セリは嫌そうな顔をする。悪いけど今日はフローラに未来のイーギス様を好きになるための布石を打つ日でセリの気持ちは二の次だ。
「私ね、この小説にはまってるの。フローラ様がもし読書嫌いでなければ、読んでみてくださらない?」
「いいんですか?」
取り出した本をフローラの前に置くと、小さな手でフローラが本に触れる。
「ええ。ぜひ感想を聞かせて」
「わかりました」
フローラの趣味は読書だから、きっとすぐに読んでくれるはず。ひとまずミッションが終わったことにほっとした。




