18話 婚約者は楽じゃない
お父様に泣きついてエイシアを部屋に戻し、私は部屋でイーギス様とお茶をする。
「大丈夫だよ、ナターシャ。僕の婚約者はナターシャだけだ」
「そういうことじゃないんですわ……」
エイシアがイーギス様にロックオンしたのが問題で、エイシアはわからないけど他の小説の性格の悪い妹はどんな手を使ってでも姉の婚約者を奪う。エイシアが私の代わりにイーギス様の婚約者になったら、シナリオ通りになってしまう。それだけは阻止しなければ。私はがしっと両手でイーギス様の手を掴む。
「大人に何を言われても、婚約者は絶対私だけにしてください。間違ってもエイシアを受け入れないで」
「うん、絶対ナターシャだけだ」
手を引き寄せ、キスをするイーギス様。心配だけど、私の方からもお父様にお願いするしかない。イーギス様の婚約者は私しかいないのだと。それには今まで気の進まなかった花嫁修業もしなきゃいけないだろうし、ああ、頭が痛い。
「ナターシャが強く言ってくれるの嬉しい」
「イーギス様の幸せのためですもの」
転生者の私が婚約者のままでいれば、イーギス様の苦しみを少しは減らしてあげられるし。
「ねぇ、ナターシャ。第三王子の誕生パーティーにはどのドレスを着ていくの?」
「どれって、まだ決めてないですわ」
私は立ち上がって、クローゼットを開ける。今までの私では考えられない大きさのクローゼットに大量のドレス。いつ見たって見慣れない。
「多分この中からキャシーが選んでくれますわ」
「んー、じゃあこれにして」
イーギス様がドレスを見て、1つのスカートを引っ張る。黄色の派手なドレスに、えぇ……と私の顔が引きつる。
「派手過ぎませんか?」
「ナターシャによく似合うと思うよ」
そりゃ、ナターシャの顔なら何でも似合うと思うけど。イーギス様が正面を向いて、私の手を取る。
「お揃いにしよ、ね?」
なんてそんな可愛い顔で言われたら断れない。私はこくこくと頷いて、イーギス様の言う通りにする。イーギス様の手が離れて、私は顔を抑えた。まだチャラくないのに、何でそんなに小悪魔なの……。このままじゃ私の体が持ちませんわ……。
「イーギス様」
私が名前を呼ぶと、イーギス様は笑顔で振り向く。その顔が天使すぎて、胸を抑える。
「なんだか、最近楽しそうですね」
「そう?……まぁ、そうかも。ナターシャといるからかな?」
ふふっ、と笑うイーギス様。これからさらに魔性の男になっていくのが末恐ろしい。
「ナターシャも僕といると楽しいでしょ?」
「ええ、もちろん」
イーギス様に確認されて、私も頷く。少しでも、私と居る時間を楽しいと思ってくれるなら嬉しい。グランドル公爵の再婚はきっと変えられない。ただその日が少しでも遅くなることを、願ってる。
「ナターシャ、パーティーでは僕のそばを離れないでね」
「ええ、そうしますわ」
マナーも何もわからないもの。イーギス様から離れることなんてしない。攻略対象同士なら自然と会話も生まれるだろうし、不安だらけの幼少期の中で唯一楽しみにしてるパートかもしれない。




