16話 グランドル公爵
今日も夕方まで遊んで、迎えが来たことでイーギス様の部屋を出る。
「イーギス様、グランドル公爵はどこにいらっしゃいますか?」
お葬式の時は不謹慎だと思ったからやめたけど、やっぱり早めに釘刺しておかないといけないと思う。
「お父様?」
イーギス様は首を傾げてセバスチャンに聞いてくれる。
「お忙しい方なので、挨拶なら結構ですよ」
「急ぎで大事な話があって」
両手を合わせてセバスチャンに懇願する。
「イーギス様の人生がかかってるの!」
「僕の話?なら僕が聞くよ」
不思議そうに言うイーギス様に首を横に振る。再婚を止めるのはグランドル公爵に言わないと意味がない。
「これは大事な話なのです!」
「セバスチャン、取り次いであげて」
真剣な私に、イーギス様がセバスチャンにお願いしてくれる。セバスチャンは困った顔をしながら、応接室に通してくれた。緊張で太ももに手を置きながらグランドル公爵を待つ。
「お父様に話ってどんな話?」
「まだ言えませんわ」
お母様を亡くされたばかりのイーギス様にとって、お父様の再婚話は信じられないと思いますから。そっか、とイーギス様は深く聞かず私の隣に座る。
「どうしたんだい?ナターシャ。私に大事な話って」
グランドル公爵が部屋に入ってきて、私はグランドル公爵に駆け寄った。
「グランドル公爵、ちょっと……屈んでください」
「なんだね?」
私の言葉に不思議そうな顔をして、グランドル公爵が目線を合わせてくれる。私はグランドル公爵に耳打ちをした。
「イーギス様のために、今後再婚なんて考えないでください」
「ナターシャ……」
グランドル公爵が顔を上げ、眉を顰める。
「いいかい?妻を亡くした夫に冗談でもそんなこと言うんじゃないよ」
「冗談じゃありませんわ」
厳しい口調で窘められるけど、私には真剣な話で。イーギス様の立場が悪くなるってことは、きっとそう遠くない未来グランドル公爵は再婚相手と出会う。
「ナターシャ。大人のことに口を挟んではいけないよ」
「グランドル公爵、絶対約束してくださいませ。イーギス様のお父様なら絶対」
話を信じてくれなくて、頷くことも否定することもしないグランドル公爵。もしかしたらもう再婚を考え始めてるかもしれない。そんな焦りが頭によぎる。
「私は、イーギス様に幸せになってほしいんですわ」
グランドル公爵の目を見てまっすぐ言うと、グランドル公爵は私の頭に手を置いた。
「イーギスは、ナターシャが居てくれたら幸せだよ。ずっと一緒にいてくれるね?」
諭すように言われ、私は俯く。嘘をつかないと約束したから、その話に頷けない。グランドル公爵はため息を吐いて、部屋を出ていく。
「ナターシャ様、旦那様の手を煩わせないでください。坊ちゃんも」
セバスチャンに言われ、私は拳を握る。やっぱり、グランドル公爵は信用できない。イーギス様が辛くなる前に、フローラと会わせなきゃいけないかも。
「ナターシャ、お父様に何を言ったの?」
「ちょっとしたお願いですわ」
イーギス様が隣に来て、私は笑顔で顔を上げる。心配そうな顔で見るイーギス様を、私は抱きしめた。
「大丈夫。私が絶対、幸せにしますわ」
「ナターシャ……」
私は強く、強くイーギス様を抱きしめて心に誓った。




