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13話 推しと馬鹿


 目が覚めると見慣れない天井が見えた。豪華なシャンデリアが眩しくて再び目を閉じる。ナターシャの部屋でも、もちろん私の部屋でもない。あと数秒でいびきをかけるという時に、パンッと布団を叩かれた。


「寝ないで、ナターシャ」

「えっと、イーギス様……」


 ああ、思い出すのが少し遅れた。彼は【麗しの花姫】の攻略対象の1人、イーギス・グランドル様……の幼少期。可愛いお顔にハッとして、私は瞬きをする。


「イーギス様、ここは?」

「僕の家だよ。ナターシャいきなり倒れたんだ。ごめんね、無理させたよね」


 しょぼんとするイーギス様に首を横に振る。


「無理なんてしてませんわ。ちょっと、刺激が強すぎただけで」


 相手は子供なのに、アラサーの私がときめくなんてどうかしてる。とはいえ、彼は私の最推しのイーギス様本人なのだ。倒れるのも無理はない。


「ナターシャもショックだよね、お母様が亡くなって」

「え、ええ。でもイーギス様が我慢する必要はないですわ。どんな思いでも受け止めますから」


 何せ私は大人なのだ。ドンッと胸を叩くと思ったより強くて、胸を抑える。


「ナターシャ、今日は帰りなさい。馬車で送るから」

「グランドル公爵……」


 窓の外を見ると、日が暮れ始めていてもうそんな時間が経ったのかと驚く。私はベッドから降りて、グランドル公爵の後に続く。


「ナターシャ、また来てね」

「ええ、いつでも会いに来ますわ」


 次はきっとイーギス様のお母様のお葬式だろうけど。私の言葉にホッとしたようにイーギス様が笑う。イーギス様の笑顔に、私の方が癒されてしまった。


♢♢♢♢♢♢♢


 イーギス様のお母様のお葬式に、エイシアも含めた4人で参列する。日本のお葬式とはまた違うからマナーがわからなくて、お母様に教えてもらいながら見様見真似で頑張る。


「イーギス様」

「ナターシャ、来てくれてありがとう」


 この前泣いていたのは嘘みたいに、笑顔でイーギス様が挨拶をする。でも、無理してるのがわかるくらいなぎこちない笑顔。


「イーギス様、無理なさらないで」

「このくらい当然だよ。公爵子息だから」


 イーギス様の手に触れて声を掛けると、イーギス様が貼り付けた笑顔のまま言う。昔も今も上流階級のことはわからないけど無理しないでほしいと思う。とはいえ、公爵子息のイーギス様に惚れたのは変えられない事実だけど。


「お姉さまの婚約者も大したことないのね」

「エイシア」


 イーギス様と離れ、エイシアが憎まれ口を叩く。お父様が咎めるが、フンッとエイシアは不機嫌な顔で。イーギス様と会うのは初めてか、と思ったと同時に私はともかくイーギス様を悪く言うのは許せなくてエイシアの服を掴む。


「撤回して」

「な、何よ」


 いつも反論しない私がエイシアを見たからエイシアが狼狽える。


「イーギス様は誰よりも素敵な方よ」

「お姉様を選ぶなんてどうかしてるわ」


 こらこら、とお父様とお母様が私たちを止めに入る。まぁエイシアが興味を示さないでくれる方が、今後の未来的にいいけど。私が悪役令嬢にならない代わりにエイシアがイーギス様と婚約したら困る。


「怖っ」


 そんなのイーギス様の幸せのために絶対ダメだわ。私は両腕を掴んで体を震わせる。そんな私をエイシアが不思議そうな顔して見ていた。

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