12話 愛おしさ
ひとしきり泣いた後、イーギス様は恥ずかしそうに顔を隠す。
「こんな姿見れるの僕の婚約者だからだよ。特別なんだよ」
耳まで真っ赤にして言うイーギス様が可愛くて、笑いそうになるのを堪える。
「はい」
「だから今のこと全部忘れて!」
私の頬を掴んでイーギス様が命令する。彼は本当にイーギス様なのだろうか。可愛くて、儚くてそんなイーギス様のことが転生前よりずっと好きで。
「はい、イーギス様の望みとあらば何でも聞きますわ」
ぷっくりした頬に大きくて丸い紺色の瞳、短い首に小さな手。その全てが愛おしいと思う。
「ナターシャ、何でそんな顔してるの?」
不満げに口を尖らせるイーギス様の手に、自分の手を重ねる。
「イーギス様が大切だからですわ」
「大切ならそんな顔するんだ」
不思議そうなイーギス様。もしかしたら彼は私が産んだのかも?!なんて錯覚を起こしそうになる。ええ、と笑えば尖っていた口が弧を描く。
「じゃあいっか」
「はい」
この先、イーギス様に何も不幸なことが起こらないでほしいと思う。フローラと出会うのも大事だけど、その前にグランドル公爵の再婚を阻止しよう。イーギス様の幸せのために。
「イーギス様、お母様のところに戻りましょう。きっと寂しがってますわ」
「……うん」
イーギス様の手を引いて、公爵邸に戻ろうとした。
「待って」
イーギス様が私の手を引っ張る。振り向くと、イーギス様は花畑を指差した。
「ナターシャ、花冠作ってよ。お母様にあげるから」
「名案ですわ」
イーギス様と一緒に花畑に戻ってシロツメクサの花を摘んでいく。
「イーギス様、作り方お教えしますからイーギス様が作ってあげてください」
「わかった」
鶴だって器用に折れたんだ。花冠だってイーギス様には簡単なはず。一つ一つ教えながら進めてくと、イーギス様の手が止まる。
「イーギス様……」
「お母様に会いたい……」
ゴシゴシと涙を拭うイーギス様の頭を撫でる。私が出来ることはただそばにいるだけだ。それでも、フローラほどの癒しはないけれど。
「イーギス様、転生って知ってますか?」
「てんせい?」
イーギス様の手を握って私は問いかける。
「はい。1度死んでしまっても、また別の命に生まれ変わるんです。記憶を持ったままの人もいるし、新しい記憶を持つ人もいる。生まれ変わるのは別世界かもしれないし同じ世界かもしれない。そうやって巡り巡って、命は紡がれるんです。私がイーギス様に出会えたように、お母様にもいつかきっと……出会えますよ」
私は死んで、転生した。イーギス様のお母様だってどこかに転生しててくれるといい。そしてそれが、イーギス様の近くであってほしい。
「だから、この先のイーギス様のこともお母様は見ててくれてます。そう思うと、寂しさが少し紛れる気がしませんか?」
「見ててくれてるといいな……」
イーギス様は涙を拭いて、花冠作りを再開する。私のよりも数段綺麗で、少し嫉妬するくらいの出来だ。
「お母様喜びますね」
「ううん」
イーギス様が首を横に振る。納得いかなかったのかな?と思うと、イーギス様は手を伸ばして私の頭に花冠を乗せた。
「これはナターシャの分」
「イーギス様……」
ああ、なんて良い子なんでしょう。イーギス様の微笑みに、私の体は傾きポスッと花畑に倒れた。
「推しが可愛すぎて困る」
それが遺言となり、私は意識を手放した。




