10話 心の支え
「ゆ、夢で見たんです」
「夢?」
我ながら苦し紛れの言い訳だ。けどここで本当のことを言って興味を持たれるわけにはいかない。
「以前、イーギス様のことをお見かけして。それで夢の中に出てきて助けてくれたんです」
「ぷっ。何それ夢って」
イーギス様が笑う。イーギス様は身を乗り出して、私の顎を掴んだ。イーギス様の紺色の瞳が私を映す。美しくて吸い込まれてしまいそう。
「夢に出てくるほど僕のこと好きなんだ」
至近距離に顔がボッと熱くなる。
「そうだと言ったらどうなんですか!」
思わず叫んで失敗したと気づいた。私がイーギス様を好きだと言ってたら、イーギス様は私を見てしまうではないか。いや、そうだとしてもフローラは可愛いからフローラを好きになるに違いない。うん、心配しなくても大丈夫だ。
「可愛い」
ひぇ〜!!イーギス様の言葉に固まる。か、可愛いって……。はっ。
「ナターシャの顔だから当然ですわ!」
「顔?」
危ない。鵜呑みにするところだった。推しに可愛いなんて言われたら、きっと空だって飛べちゃう。
「ねぇナターシャ」
「はい」
イーギス様に名前を呼ばれて、平常心を取り戻す。
「僕の婚約者になれたこと、光栄に思うといいよ」
「は、はぁ」
……それはそうなんだけど、私はどちらかというと侍女になりたかった。幼少期のイーギス様のお世話をして、大人になったらフローラとの愛を見守って。断罪されることが決まってる悪役令嬢なんかじゃなく……。
「ナターシャ、何してるの?」
「え、あ」
イーギス様に聞かれて手元を見る。そこに紙があったからつい鶴を折っていた。
「折り紙ですわ。ほら、鶴」
頬杖をつくイーギス様に鶴を見せる。
「器用だね、ナターシャ」
「はっ、そうですわ!イーギス様も鶴を折りましょう。お母様が元気になるように」
我ながら良い案だ。私の言葉にイーギス様は首を傾げる。
「何で?」
「私の世界では、病気の人のお見舞いの品として千羽鶴を折るんです。病気が治るようにとのおまじないですわ。どうですか?」
願掛けみたいなもので、千羽鶴自体に病気を治す効果はない。けどやらないやりはずっといい。
「教えて」
「はい」
私はゆっくり、イーギス様な説明しながら鶴を折っていく。イーギス様は1回見せただけで覚えたのか、次から次へと量産していく。
「イーギス様上手ですわ」
「これくらい簡単だよ」
ふふん、と得意げに笑うイーギス様が可愛くてテーブルを叩きそうになるのを我慢する。
「お母様、よくなるといいですわね」
「うん……」
私もイーギス様に負けないようにせっせと鶴を折る。お菓子を食べる時間以外はずっと鶴を折ってたし、お互い離れても千羽を目指してせっせと折っていた。
「イーギス様!調子はどうですか?」
それから2回会う機会があって、2回目の時に千羽が完成した。
「すごいね……」
「イーギス様が頑張ったからですわ」
使用人に頼むことも出来たけど、願掛けのためにたった2人で完成させた。私は紐を通して千羽鶴を繋げていく。
「出来ましたわ」
「ありがとう。お母様に渡してくる」
イーギス様に渡すと、目を輝かせてイーギス様は千羽鶴を優しく抱きしめる。
「いってらっしゃいませ」
「イーギス様!」
イーギス様が部屋を出ようとすると、執事が駆け込んできた。
「どうした?セバスチャン」
「坊ちゃま、お母上が……」
その言葉にイーギス様は走り出す。私も後を追いかけた。




