眠井静かは静かに眠りたい
「此処にいたか……」
宮田勇斗は彼女を見つめて大きなため息を吐いた。
5階建て校舎の屋上。そこに設置された日当たりの良いベンチに眠井静はいた。横たわって気持ち良さそうに寝た状態で。勇斗が体を揺さぶりながら静に声をかける。
「お〜い、起きてるか?」
「う〜ん……あと46おくねん……」
「地球がもう一個出来上がるわ!!」
勇斗の軽い手刀が静の頭にヒットする。苦しそうに呻きながら静がゆっくりと瞼を開け、恨めしそうな目で勇斗の事を見つめた。
「頭痛い……慰謝料を請求する……」
「あぁ?お前が起きないのが悪いんだろうが」
「一生私を養って」
「一撃に対しての罪が重過ぎるだろ」
「むぅ、ゆうちゃんの分からず屋……」
「そんなの分かってたまるかよ」
軽快な言葉のやり取りをする彼らだったが、その姿を第三者が見た場合それはイジメか脅迫かのどちらかにしか見えないだろう。
187㎝の巨体に、人を射殺すかのような目つき。オマケに骨付き肉を皿まで食べてしまいそうなギザついた歯を持つ勇斗と、容姿端麗でその艶やかな黒の長髪を持つが、149㎝と女子の中でも小柄な身長と両胸にあるたわわに実った果実のせいで、小さくて可愛いというイメージが強い静では、凸凹コンビというには凸り過ぎているし凹み過ぎている。
「そもそも、お前が一緒に帰ろうって言ったんじゃねぇか。その癖何処にいるかは教えないとか……毎回お前を探すのも楽じゃねぇんだぞ」
「ゆうちゃんなら見つけてくれるって信じてる」
「俺はお前の忠犬か」
「ううん、私たちが幼馴染だから」
勇斗の口から短い笑いが漏れた。
勇斗と静は幼稚園からの幼馴染である。顔の怖いせいで友達が出来ない勇斗とマイペース過ぎる静だが不思議と相性が良く、今でも仲の良い関係を保っている。
「もしくは私がゆうちゃんの愛犬だから」
「そんな『もしくは』はねぇ」
「お手とおすわりまでは出来るよ?」
「人間だったら普通だろ」
「でも待ては出来ない」
「駄犬じゃねぇか。……て言うか此処でずっと駄弁ってて良いのか?もう結構な時間だぞ」
勇斗が静を探し回っていた時間も含めてもう結構な時間が経っている。
「ん、起き上がらせて」
「……お前なぁ。普段どうやって生活してるんだよ」
「他の人にやってもらってる」
勇斗の表情がピタリと固まる。そんな勇斗に様子を見て、静は密かに笑みを浮かべた。
「冗談。本気にした?」
「………お前に友達がいたのかと驚いたんだよ」
「ゆうちゃんだって友達いないのに」
「うるせぇ!!さっさと起き上がれ!!」
勇斗が静の両脇に手を突っ込み、そのまま子猫を扱うように持ち上げる。身長差のある2人が今だけは視線に高さは同じだった。
「……降ろして」
「嫌だ、降ろさねぇ」
「なんで?」
「いや、お前の顔久しぶりに見たな〜って思って」
勇斗の言葉に静が顔を赤くするが、勇斗は更に言葉を重ねる。
「普段お前のつむじばっか見てるからなぁ。そうそう、こんな顔だった」
「……私の顔なんか見ていて楽しいの?」
「おう、綺麗な顔見たくないやつなんて居ないだろ」
「〜〜〜〜///1秒見たら千円払って!」
「なんでお前はそんなに俺から金を巻き上げたいんだよ……。ハイハイ、降ろしますよ」
勇斗が腰を屈めてゆっくりと静を降ろす。
「ほれ、これで大丈夫か?」
「……ゆうちゃん嫌い」
「おいおい拗ねんなって。悪かったよ、子供扱いして」
「どうせ私なんて一生中学生だと思ってるんでしょ」
「ちゃんと高校生だと思ってるよ」
「ワンチャン小学生だと思ってない?」
「今の態度の方がよっぽど小学s———」
勇斗の鳩尾にアッパーカットがクリーンヒットする。身長差を活かした攻撃だった。
あまりのダメージに勇斗が少し咳き込む。
「……やっぱり嫌い」
「一回殴られたら許されるルールじゃねぇのかよ……」
「私に常識は通用しない」
「かっこいいだけの台詞を言うな!」
そう言って勇斗が再び掴もうとしたが、今度は華麗に躱されてしまった。
「私は現在進行形で成長中」
「カッ。そりゃ結構なこった」
「だから身長も伸びる」
「それとこれとは別m———そう何度も喰らうかよ!!」
勇斗が静の拳を避けてそのまま抱き止める。ハグをすると言うよりは、押さえ込むと言う意味合いが強い抱擁だった。
「ったく。一旦落ち着けよ」
「ス———」
「人の匂いを嗅いで落ち着くな」
「良い匂い……良く眠れそう……」
「そう言えば、お前がそんなに眠るようになったの結構最近だよな。昔は煩いくらいに暴れ回ってたのに」
「……ゆうちゃんが急に身長伸ばしたから」
「ん?お前が眠るのと何が関係あるんだ?」
「何でもない……」
静が上を見上げると下を向いた勇斗と目があった。鋭い目つきの中にある優しい瞳。それが今ではタイミングが重ならないと見ることが出来ない。
「今のままじゃ勝てない」
「お前が逆立ちしたって俺には勝てねぇよ」
「ゆうちゃんが逆立ちすれば良い」
「逆立ちをハンデとして扱うな」
勇斗がキザ歯を出しながら楽しそうに笑う。絶対に負けないと言う自信からくる笑いに静は頬を膨らませる。
「後23㎝……」
「あ?なんか言ったか?」
「ううん、何でもない。早く帰ろ。もうこんな時間」
「お前のせいだろうが……。ハイハイ、仰せのままに」
夕陽に照らされた帰り道に今日も不揃いな足音が鳴る。




