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バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件  作者: 沢田美


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8/30

ごめんのあと、好きがこぼれた

 翌朝。午前4時。

 僕はいつもより早く目を覚ましていた。

 昨日の件で一睡もできず、どう謝ればいいか頭を巡らせる。

 ――『白瀬さんが楽しそうにお前のことを話している』

 海斗くんの言葉が、何度も頭の中で反復した。

 

「どうすれば……」

 

 ベッドから起き上がり、机に向かう。

 ノートを開いて、謝罪の言葉を書いてみる。

 

「白瀬さん、昨日はすみませんでした」

 

 違う。こんな形式的な言葉じゃダメだ。

 

「白瀬さん、本当にごめんなさい。僕が全部悪かったです」

 

 いや、言い訳がましい。

 何度も書いては消し、書いては消しを繰り返す。

 気づけば、ノートは消しゴムの跡だらけになっていた。

 登校時間まで、あと3時間。

 謝罪の言葉を、考え続けた。

 

 ※

 朝食を食べながら、母さんが話しかけてくる。

 

「蓮、最近元気ないわね。何かあった?」

「……ううん、なんでもない」

 

 嘘だ。すごく何かある。

 でも、これは僕が解決しなきゃいけないことだ。

 学校へ向かう道すがら、何度も謝罪の言葉を練習する。

 

「白瀬さん、昨日はすみませんでした」

 

 違う、もっと誠意を込めて。

 

「白瀬さん、本当にごめんなさい。僕が悪かったです」

 

 いや、やっぱり言い訳がましい。

 

「白瀬さん――」

 

 言葉が、出てこない。

 でも、会えば分かるはずだ。

 僕の気持ちは、きっと伝わる。

 

 ※

 教室の前で立ち尽くす。

 どういう心持ちで入ろうか迷ったまま。

 意を決してドアを開けると――そこに白瀬さん達の姿はなかった。

 安堵と落胆が同時に胸を満たす。

 ――謝らなきゃ。

 そう思い扉の方へ振り返ると。

 

「あ、有馬っち……」

「し、白瀬さん……!」

 

 そこに立っていたのは、1人の白瀬さんだった。

 須藤さんや有村さんの姿はなく、ただ彼女だけが。

 白瀬さんの表情は、いつもの明るさがない。

 少し、寂しそうに見えた。

 

「あの……」

 

 僕が口を開こうとすると、白瀬さんが先に言った。

 

「有馬っち、昨日のこと、気にしてないから」

「え……」

「私も、無理やり連れて行っちゃって。ごめんね」

 

 ――違う。

 謝るのは、僕の方だ。

 考えるより早く、僕の口は動いていた。

 

「あの……大切な話があるので、放課後、校舎裏まで来てもらえませんか?」

 

 声が、少し震えた。

 けれど、ちゃんと言えた。

 

「た、大切な話……」

 

 白瀬さんは少し驚いた顔をして、それから小さく頷いた。

 

「わ、分かった。……私も答えを言うから」

 

 答え――。

 その言葉の意味が、まだ僕には分からなかった。

 

「じゃあ、放課後に」

「はい」

 

 白瀬さんは教室に入っていった。

 僕も後を追う。

 ――放課後。

 ちゃんと謝ろう。

 そう決意して、僕は席についた。

 

 ※

 

 昼休み。

 下駄箱で上履きに履き替えていると、神楽坂くんが声をかけてきた。

 

「よぉ、有馬!」

「あ……おはようございます」

 

 気まずい。昨日のこと、怒ってるかもしれない。

 

「昨日はごめんな。お前、ああいう場所苦手だったんだな」

「い、いえ……僕の方こそ」

「次はさ、もっと落ち着いた場所にしようぜ。ファミレスとか、それかリベンジでもっかいカラオケとか!」

 

 神楽坂くんは、いつもの明るい笑顔だった。

 

「それでさ、『ヒーリング』、昨日の夜から見始めたんだよ。お前の言ってた通り、マジで面白いな!」

「――ッ! 本当ですか!?」

「おう! ケンヤがかっこよすぎてやばいわ! あの必殺技のシーン、鳥肌立った! もう3話まで見ちゃったよ」

「ですよね! 僕もケンヤ推しなんです! 特に第5話の――」

 

 気づけば、僕は夢中で語っていた。

 神楽坂くんも、真剣に聞いてくれている。

 

「有馬、お前と話してると楽しいわ」

「え……」

「また色々教えてくれよな! あ、次の話も見るから、ネタバレなしでな!」

 

 神楽坂くんは、僕の肩を軽く叩いた。

 ――この人は、本当に優しい。

 僕なんかに、こんなに優しくしてくれる。

 

「ありがとうございます、神楽坂くん」

「おう! それじゃ、また後でな!」

 

 手を振って去っていく神楽坂くん。

 その背中を見て、胸が温かくなった。

 

 ※

 

 放課後。

 僕はひとり早めに教室を出て、校舎裏へと向かった。

 そこにはすでに白瀬さんが立っていた。

 

「有馬っち、今度は私の方が早かったね」

「白瀬さん……」

 

 僕は彼女へ歩み寄る。

 胸の奥に妙な緊張が走る。それでも足を止めることはなかった。

 

「白瀬さん、昨日は……すみませんでした。白瀬さんの気持ちも考えず、あんなことを言って……本当にすみません」

 

 深く頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。

 しばしの沈黙。怒られるか、軽蔑されるか――そう覚悟していた。

 だが、返ってきたのは意外な反応だった。

 

「なぁんだ〜。てっきり告白されるのかと思っちゃったじゃんかよ〜」

 

 そう言って彼女はクスッと笑い、浮かんだ涙を指で拭った。

 

「え……告白? 僕が……白瀬さんに?」

「だってさ、あんな真剣な顔で『校舎裏に来てください』なんて言われたら、どう考えても告白だと思うでしょ!」

「は、はは……」

「私、有馬っちのそういうところ……やっぱり好きだよ」

「――ッ! か、からかわないでください!」

 

 僕が慌ててそう言うと、白瀬さんはまた楽しそうに笑った。

 

「からかってないよ。本当のこと」

「え……」

「有馬っちは、素直で、真っ直ぐで。自分の好きなものを隠さない。そういうところが、私は好き」

 

 白瀬さんの青灰色の瞳が、真っ直ぐ僕を見つめる。

 

「だから、もっと自信持って。有馬っちは、有馬っちのままでいいんだよ」

 

 胸が、熱くなる。

 目頭が、じんわり熱くなる。

 

「私ね、ずっと周りに合わせて生きてきたの。みんなが好きそうな話題、みんなが好きそうな服、みんなが好きそうな趣味。本当の自分を出すのが、怖かった」

 

 白瀬さんは空を見上げた。

 

「でも、有馬っちは違った。初めて会った時から、自分の好きなものを堂々と語ってた。『ヒーリング』のこと、アニメのこと、ラノベのこと。キラキラした目で話すの」

「そ、そんな……恥ずかしいだけで……」

「恥ずかしくなんかないよ。すごく、かっこよかった」

 

 白瀬さんが微笑む。

 

「有馬っちといると、私も本当の自分でいられる。だから――」

 

 一瞬の間。

 

「だから、もう離れないでね」

 

 その言葉に、涙が溢れそうになった。

 

「……ありがとうございます」

 

 それだけしか、言えなかった。

 けれど、白瀬さんは優しく微笑んだ。


 校舎裏で白瀬さんに謝罪した後、それからしばらく沈黙の空気の中にいた。

 白瀬さんはニコッとした表情のままだ。

 僕はといえば、この空気の中で何を言えばいいのか分からない。

 しかし、その沈黙を破るように白瀬さんが口を開いた。


「ねぇ、有馬っち。今週の土日、暇〜?」


 白瀬さんはそう言って、僕に歩み寄る。

 彼女の放つ良い匂いが鼻をくすぐる。

 思わず僕は白瀬さんから距離を取った。

 それを見た白瀬さんは「ん?」とした顔になるが、何かを察したのかニヤリと笑った。

 ――次の瞬間、僕をまるで獲物のように捉えて、こちらへ向かってくる。


「ちょ! なんで追いかけてくるんですか?!」


 白瀬さんに追われながら、僕は校舎裏から出て自分の教室まで走る。

 いつも運動をしなくて運動音痴な僕なのに、この時だけ白瀬さんからは上手く逃げられた。

 ――しかし、教室の扉のところで立ち止まった瞬間、白瀬さんに背後から抱きつかれ、押し倒された。


「おーい、紗良〜帰るよー」


 その時、遠くから有村さんたちの声が聞こえた。

 僕は彼女たちに合わせる顔がないと思い、どこかへ隠れようとした――が、そんな僕の気持ちに気づかない白瀬さんは僕を押し倒したままだ。


「し、白瀬さん! ――ッ!」


 僕が白瀬さんに声をかけた時、彼女はどこか驚いたような顔をしていた。

 そして、白瀬さんはニヤリと微笑む。


「有馬っちって、男なのに力ないんだね〜」


「――クッ!」


「あ、いたいた。って、有馬もいんのかよ」


 僕と白瀬さんが妙な雰囲気になっていると、有村さんたちが僕たちを見つけた。

 須藤さんは気まずい顔をし、有村さんは僕を敵視したままの顔をしていた。


「紗良、そんな奴おいてさっさと帰ろ」


 有村さんは冷たくそう言い放ち、白瀬さんの横を通り過ぎる。

 それを見た僕と白瀬さん。

 そして、白瀬さんは僕の耳元でこう呟いた。


「ねぇ、有馬っち。私に謝った時みたいに香澄にも謝った方がいいよ」


「……そ、そうですね――それなら早く退いてもらっていいですか?」


 僕は自分の上に馬乗りになっている白瀬さんに言った。


「あ、ごめんごめん」


 白瀬さんは頬を少し赤くしながら、僕の上から離れた。

 ――そして僕は立ち上がり、決意を固めた。


「有村さん」


「……なに?」


 ギロッとこちらを睨みつける有村さんに、心のどこかがビクつく。

 もう僕は逃げない。悪いことをしてしまったのは僕だ。

 あの時、白瀬さんを傷つけ、場の空気を壊して帰った――だから謝らないと。


「昨日はごめんなさい。僕が無神経なことを言って場の空気を壊したりして……」


「――私が怒ったのはそこじゃない。紗良にあんなことを言ったことだよ」


「香澄……」


「私は昔から友達の悪口を聞くのが嫌だった。有馬くんがどれだけいい人で、どれだけ聖人だとしても、私は友達の悪口を言われるのが大嫌い――だから謝るのは私じゃなくて紗良に――」


 有村さんがそう言った時、白瀬さんがケロッとした顔で言った。


「謝ってもらったよ! 許したよ!」


「「は?」」


 有村さんと須藤さんの声が重なる。

 僕はキョトンとした顔をしていたのかもしれない。

 それを聞いた有村さんは白瀬さんの所へ駆け寄る。


「おい! 私聞いてないぞ! いつ謝られた!? あれか? 電話か? それともLINEか?! 言っとくが私は直接以外の謝罪は謝罪じゃないと思ってるからな!」


「直接謝られたよ」


「え……そうなん……だ」


「うん、皆は昨日の有馬っちを見て印象最悪になったのかもしれないけど、有馬っちは恥ずかしがり屋なだけなんだよ」


 白瀬さんは優しく微笑みながら有村さんと須藤さんに言った。

 そんな彼女を見た僕の心の奥底で、何かが落ちる音がした。

 そして白瀬さんの言葉を聞いた有村さんはため息をついて、僕の前に立った。


「紗良がそう言うなら私も許す!」


「はーい! 私も賛成!」


 有村さんの言葉に続き、須藤さんも手を挙げながら言う。

 それを聞いた僕はホッと胸を撫で下ろした。

 すると、遠くの方から神楽坂くん、光くん、海斗くん達がこちらに気づいた。


「おーい! 今日もカラオケ行かね?」


「あれ? 有馬もいんじゃん!」


 神楽坂くんと光くんは昨日と変わらない様子でいた。

 一方で海斗くんは僕の周りを見て何かを察して、軽く笑った。


「おっす! 司!」


「おっす!」


 そう言って、須藤さんが神楽坂くんにハイタッチすると、僕と白瀬さん以外のメンバーは昇降口の方へ向かっていった。

 そんな彼らの後ろ姿を見た僕と白瀬さんは、お互い顔を見合わせて、クスッと笑った。

 

「じゃあさ、また一緒に『ヒーリング』の話しよ? 実は最新話、まだ見てないんだ」

「え、僕もまだです!」

「じゃあ、今度一緒に見る?」

「いいんですか!?」

「うん! 一緒に見たら、もっと楽しいと思うから」

「はい! ぜひお願いします!」

 

 そう答えると、白瀬さんは少し真面目な顔になった。

 

「あ、そうだ。私の答えもね、言わせて」

「え?」

「今朝、『私も答えを言う』って言ったでしょ」

「あ……はい」

 

 そういえば、そう言っていた。

 

「私の答えは――」

 

 白瀬さんは、真っ直ぐ僕を見つめた。

 

「有馬っちのこと、大切な友達だと思ってる。だから、これからもずっと一緒にいたい」

「――ッ」

「だから、もう一人で抱え込まないで。辛いことがあったら、私に話して」

 

 胸が、熱くなる。

 

「……ありがとうございます」

「ううん。こちらこそ、ありがとう」

 

 白瀬さんは優しく微笑んだ。

 

 ※

 

 それから、二人で夢中になって『ヒーリング』の話をした。

 

「ねぇねぇ、ケンヤとスズミ、どっちが先に告白すると思う?」

「絶対スズミですよ! ケンヤは不器用だから」

「でしょー! わかる〜!」

 

 白瀬さんが楽しそうに笑う。

 その笑顔を見て、僕も笑顔になる。

 夕日が、二人を照らしている。

 この瞬間が、ずっと続けばいいのに――

 そんなことを、思った。

 

 ※

 

 その日の帰り道、僕は空を見上げた。

 オレンジ色の空が、どこまでも広がっている。

 ――変わった。

 僕は、確かに変われた。

 白瀬さんが、僕の背中を押してくれたから。

 海斗くんが、僕に気づかせてくれたから。

 神楽坂くんが、僕を受け入れてくれたから。

 光くんが、優しく寄り添ってくれたから。

 有村さんが、白瀬さんを想って怒ってくれたから。

 明日からは、もっと前を向いて歩ける気がする。

 

 ※

 

 それから1週間後の朝。

「おはよう、有馬っち」

「おはようございます、白瀬さん」

 

 いつもの挨拶。

 けれど、何かが変わった気がする。

 

「ねぇ、『ヒーリング』の最新話、いつ見る?」

「今日の夜とかどうですか?」

「いいね! じゃあ決まり! 楽しみ!」

「僕も楽しみです!」

 

 白瀬さんが目を輝かせる。

 その笑顔を見て、僕も笑顔になる。

 

「有馬ー!」

 

 遠くから神楽坂くんが手を振る。

 

「昨日はごめんな! 今度、リベンジしようぜ!」

「り、リベンジ……」

「今度は有馬が歌いたい曲、選んでいいからさ! あ、アニソンでもいいぞ!」

 

 神楽坂くんの明るい笑顔。

 その隣には、海斗くんと光くんもいる。

 

「有馬、よろしくな」

 

 海斗くんが軽く手を上げた。

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

 僕も、手を上げ返す。

 

「有馬くん、この前話してたアニメ、教えてね!」

 

 光くんが嬉しそうに言う。

 

「あ、はい! 喜んで!」

 

 そこに須藤さんと有村さんもやってくる。

 

「おはよ、有馬っち!」

「おはようございます、須藤さん」

「……おはよ」

 

 有村さんは少しだけ気まずそうに挨拶した。

 

「有村さん、この前は……」

「もういいよ。紗良が許したなら、私も許す」

 

 有村さんは小さく笑った。

 

「でも、また紗良を傷つけたら許さないからね」

「は、はい! 気をつけます!」

 

 僕が慌てて答えると、有村さんはクスッと笑った。

 

「……まぁ、有馬くんも反省してるみたいだし。それに、紗良が嬉しそうだから」

 

 有村さんは白瀬さんを見て、優しく微笑んだ。

 

「香澄、ありがとね」

 

 白瀬さんが言うと、有村さんは照れたように首を振った。

 

「当たり前でしょ。親友なんだから……でも有馬、次紗良にあんなことしたら――分かるよね?」


 有村さんのぎろっとした目が僕を捕える。


「ヒッ!」

 

 しかし、彼女は数秒で軽く微笑む。

 

「冗談だよ。……でも、ちょっとだけ本気」

「香澄〜、有馬っち困ってるじゃん」

「いいのいいの。これくらい言っておかないと」

 

 二人の掛け合いを見て、みんなが笑う。

 

「あ、そうだ。司」

 

 須藤さんが神楽坂くんに声をかけた。

 

「ん? どうした?」

「この前言ってた、新しいゲームセンター。今度みんなで行かない?」

「お、いいな! 有馬も来るだろ?」

 

 神楽坂くんが僕を見る。

 

「え、僕も……?」

「当たり前だろ! お前も仲間なんだから」

 

 ――仲間。 

 その言葉が、胸に温かく響いた。

 

「は、はい! 行きます!」

「よっしゃ! じゃあ今度の土曜な!」

「了解〜!」

 

 須藤さんが嬉しそうに手を上げる。

 

「あ、私も行く」

 

 有村さんも参加表明。

 

「じゃあ俺らも行くか」

 

 海斗くんと光くんも頷いた。

 

「有馬っち、一緒に楽しもうね」

 

 白瀬さんが微笑む。

 

「はい!」

 

 僕は力強く頷いた。

 

 ※

 

 授業が始まる前、僕は窓際の席で空を見ていた。

 ――変わった。

 僕は、少しだけ変われた気がする。

 もう、一人じゃない。

 白瀬さんがいる。

 神楽坂くんがいる。

 海斗くんがいる。

 光くんがいる。

 須藤さんがいる。

 有村さんがいる。

 みんなが、僕を受け入れてくれた。

 

「有馬っち、何見てるの?」

 

 白瀬さんが隣に座った。

 

「あ、いえ……空がきれいだなって」

「ほんとだ。青空、きれいだね」

 

 二人で空を見上げる。

 チャイムが鳴る。

 授業が始まる。

 でも、僕の心は温かかった。

 ――これからも、白瀬さんと一緒に。

 ――これからも、みんなと一緒に。

 少しずつ、前に進んでいける気がした。

 窓の外では、鳥が空を飛んでいた。

 自由に、のびのびと。

 僕も、あんなふうになれるかな――

 そんなことを思いながら、僕は教科書を開いた。

 新しい一日が、始まる。

 


 白瀬さん達と絡むようになり、僕はある程度は神楽坂くん達のように喋れるようになった。

 そして、夏の暑さが徐々に感じ始めた金曜日。

 放課後、僕は神楽坂くん達と共に廊下を歩いていた。


「そういえば、明日の土曜だけど」


 神楽坂くんが切り出した。


「ゲーセン行く予定だったけど、俺急用できちゃってさ」

「マジ?」


 須藤さんが残念そう顔をする。


「悪い。来週にしてもいい?」

「しょうがないね。じゃあ来週で」

「有馬っちは明日、予定ある?」


 白瀬さんがそう言って、僕の腕を突く。

 僕は必死に返答する言葉を探しながら、目を泳がせて言った。


「ひ、暇です……多分」


「多分て何! アハハ! ウケる〜」


「ぼ、僕にも色々と予定はあるんで!」


「予定って何〜? 他の女とか〜? まぁでも有馬っちに女の人なんて――」


 白瀬さんがからかうように視線を送る。


「そうです! 女の人とです!」


 僕がムキになってそう言った時、白瀬さんの足が止まった。


「え……それってマジ?」


 白瀬さんはどこか驚いた目をしていて、僕はその様子に困惑した。

 しかし、その雰囲気はどこか本気のようだった。


「そ、そっか……そうだよね、有馬っちにも彼女くらいはできるもんね〜……アハハ……」


 白瀬さんの笑顔が、どこか引きつっているように見えた。

 いつものふざけた感じじゃない。本当に――傷ついている?


 マズイ……すごく複雑な誤解をさせてしまった予感がする。

 しかし、僕の言った女の人とは姉さんの買い物に付き合わされることだ。

 そのことを当然知らない白瀬さんは、どこか落ち込んだ様子で僕の元を足早に去っていった。


「白瀬さん! 待って、違うんです――」


 慌てて追いかけようとしたが、もう彼女の姿は見えなくなっていた。


「最悪だ――何やってんだ僕はー!?」


 廊下で一人、頭を抱える。

 せっかく仲直りできたのに。

 せっかく、また笑い合えるようになったのに。

 また、僕の言葉で白瀬さんを傷つけてしまった。


 ※


 私は走って階段を駆け下りた。

 涙が出そうになるのを、必死にこらえる。


「……バカ、私のバカ」


 有馬っちに、彼女ができた。

 それは――嬉しいことのはずだ。

 だって、有馬っちが幸せになるなら。

 友達として、応援するべきだ。


 でも――


「なんで、こんなに……胸が痛いの」


 自分の気持ちが、分からない。

 いや――分かりたくない。

 この気持ちに、名前をつけたくない。


 だって、名前をつけたら――

 もう、友達には戻れなくなるから。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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