ごめんのあと、好きがこぼれた
翌朝。午前4時。
僕はいつもより早く目を覚ましていた。
昨日の件で一睡もできず、どう謝ればいいか頭を巡らせる。
――『白瀬さんが楽しそうにお前のことを話している』
海斗くんの言葉が、何度も頭の中で反復した。
「どうすれば……」
ベッドから起き上がり、机に向かう。
ノートを開いて、謝罪の言葉を書いてみる。
「白瀬さん、昨日はすみませんでした」
違う。こんな形式的な言葉じゃダメだ。
「白瀬さん、本当にごめんなさい。僕が全部悪かったです」
いや、言い訳がましい。
何度も書いては消し、書いては消しを繰り返す。
気づけば、ノートは消しゴムの跡だらけになっていた。
登校時間まで、あと3時間。
謝罪の言葉を、考え続けた。
※
朝食を食べながら、母さんが話しかけてくる。
「蓮、最近元気ないわね。何かあった?」
「……ううん、なんでもない」
嘘だ。すごく何かある。
でも、これは僕が解決しなきゃいけないことだ。
学校へ向かう道すがら、何度も謝罪の言葉を練習する。
「白瀬さん、昨日はすみませんでした」
違う、もっと誠意を込めて。
「白瀬さん、本当にごめんなさい。僕が悪かったです」
いや、やっぱり言い訳がましい。
「白瀬さん――」
言葉が、出てこない。
でも、会えば分かるはずだ。
僕の気持ちは、きっと伝わる。
※
教室の前で立ち尽くす。
どういう心持ちで入ろうか迷ったまま。
意を決してドアを開けると――そこに白瀬さん達の姿はなかった。
安堵と落胆が同時に胸を満たす。
――謝らなきゃ。
そう思い扉の方へ振り返ると。
「あ、有馬っち……」
「し、白瀬さん……!」
そこに立っていたのは、1人の白瀬さんだった。
須藤さんや有村さんの姿はなく、ただ彼女だけが。
白瀬さんの表情は、いつもの明るさがない。
少し、寂しそうに見えた。
「あの……」
僕が口を開こうとすると、白瀬さんが先に言った。
「有馬っち、昨日のこと、気にしてないから」
「え……」
「私も、無理やり連れて行っちゃって。ごめんね」
――違う。
謝るのは、僕の方だ。
考えるより早く、僕の口は動いていた。
「あの……大切な話があるので、放課後、校舎裏まで来てもらえませんか?」
声が、少し震えた。
けれど、ちゃんと言えた。
「た、大切な話……」
白瀬さんは少し驚いた顔をして、それから小さく頷いた。
「わ、分かった。……私も答えを言うから」
答え――。
その言葉の意味が、まだ僕には分からなかった。
「じゃあ、放課後に」
「はい」
白瀬さんは教室に入っていった。
僕も後を追う。
――放課後。
ちゃんと謝ろう。
そう決意して、僕は席についた。
※
昼休み。
下駄箱で上履きに履き替えていると、神楽坂くんが声をかけてきた。
「よぉ、有馬!」
「あ……おはようございます」
気まずい。昨日のこと、怒ってるかもしれない。
「昨日はごめんな。お前、ああいう場所苦手だったんだな」
「い、いえ……僕の方こそ」
「次はさ、もっと落ち着いた場所にしようぜ。ファミレスとか、それかリベンジでもっかいカラオケとか!」
神楽坂くんは、いつもの明るい笑顔だった。
「それでさ、『ヒーリング』、昨日の夜から見始めたんだよ。お前の言ってた通り、マジで面白いな!」
「――ッ! 本当ですか!?」
「おう! ケンヤがかっこよすぎてやばいわ! あの必殺技のシーン、鳥肌立った! もう3話まで見ちゃったよ」
「ですよね! 僕もケンヤ推しなんです! 特に第5話の――」
気づけば、僕は夢中で語っていた。
神楽坂くんも、真剣に聞いてくれている。
「有馬、お前と話してると楽しいわ」
「え……」
「また色々教えてくれよな! あ、次の話も見るから、ネタバレなしでな!」
神楽坂くんは、僕の肩を軽く叩いた。
――この人は、本当に優しい。
僕なんかに、こんなに優しくしてくれる。
「ありがとうございます、神楽坂くん」
「おう! それじゃ、また後でな!」
手を振って去っていく神楽坂くん。
その背中を見て、胸が温かくなった。
※
放課後。
僕はひとり早めに教室を出て、校舎裏へと向かった。
そこにはすでに白瀬さんが立っていた。
「有馬っち、今度は私の方が早かったね」
「白瀬さん……」
僕は彼女へ歩み寄る。
胸の奥に妙な緊張が走る。それでも足を止めることはなかった。
「白瀬さん、昨日は……すみませんでした。白瀬さんの気持ちも考えず、あんなことを言って……本当にすみません」
深く頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。
しばしの沈黙。怒られるか、軽蔑されるか――そう覚悟していた。
だが、返ってきたのは意外な反応だった。
「なぁんだ〜。てっきり告白されるのかと思っちゃったじゃんかよ〜」
そう言って彼女はクスッと笑い、浮かんだ涙を指で拭った。
「え……告白? 僕が……白瀬さんに?」
「だってさ、あんな真剣な顔で『校舎裏に来てください』なんて言われたら、どう考えても告白だと思うでしょ!」
「は、はは……」
「私、有馬っちのそういうところ……やっぱり好きだよ」
「――ッ! か、からかわないでください!」
僕が慌ててそう言うと、白瀬さんはまた楽しそうに笑った。
「からかってないよ。本当のこと」
「え……」
「有馬っちは、素直で、真っ直ぐで。自分の好きなものを隠さない。そういうところが、私は好き」
白瀬さんの青灰色の瞳が、真っ直ぐ僕を見つめる。
「だから、もっと自信持って。有馬っちは、有馬っちのままでいいんだよ」
胸が、熱くなる。
目頭が、じんわり熱くなる。
「私ね、ずっと周りに合わせて生きてきたの。みんなが好きそうな話題、みんなが好きそうな服、みんなが好きそうな趣味。本当の自分を出すのが、怖かった」
白瀬さんは空を見上げた。
「でも、有馬っちは違った。初めて会った時から、自分の好きなものを堂々と語ってた。『ヒーリング』のこと、アニメのこと、ラノベのこと。キラキラした目で話すの」
「そ、そんな……恥ずかしいだけで……」
「恥ずかしくなんかないよ。すごく、かっこよかった」
白瀬さんが微笑む。
「有馬っちといると、私も本当の自分でいられる。だから――」
一瞬の間。
「だから、もう離れないでね」
その言葉に、涙が溢れそうになった。
「……ありがとうございます」
それだけしか、言えなかった。
けれど、白瀬さんは優しく微笑んだ。
校舎裏で白瀬さんに謝罪した後、それからしばらく沈黙の空気の中にいた。
白瀬さんはニコッとした表情のままだ。
僕はといえば、この空気の中で何を言えばいいのか分からない。
しかし、その沈黙を破るように白瀬さんが口を開いた。
「ねぇ、有馬っち。今週の土日、暇〜?」
白瀬さんはそう言って、僕に歩み寄る。
彼女の放つ良い匂いが鼻をくすぐる。
思わず僕は白瀬さんから距離を取った。
それを見た白瀬さんは「ん?」とした顔になるが、何かを察したのかニヤリと笑った。
――次の瞬間、僕をまるで獲物のように捉えて、こちらへ向かってくる。
「ちょ! なんで追いかけてくるんですか?!」
白瀬さんに追われながら、僕は校舎裏から出て自分の教室まで走る。
いつも運動をしなくて運動音痴な僕なのに、この時だけ白瀬さんからは上手く逃げられた。
――しかし、教室の扉のところで立ち止まった瞬間、白瀬さんに背後から抱きつかれ、押し倒された。
「おーい、紗良〜帰るよー」
その時、遠くから有村さんたちの声が聞こえた。
僕は彼女たちに合わせる顔がないと思い、どこかへ隠れようとした――が、そんな僕の気持ちに気づかない白瀬さんは僕を押し倒したままだ。
「し、白瀬さん! ――ッ!」
僕が白瀬さんに声をかけた時、彼女はどこか驚いたような顔をしていた。
そして、白瀬さんはニヤリと微笑む。
「有馬っちって、男なのに力ないんだね〜」
「――クッ!」
「あ、いたいた。って、有馬もいんのかよ」
僕と白瀬さんが妙な雰囲気になっていると、有村さんたちが僕たちを見つけた。
須藤さんは気まずい顔をし、有村さんは僕を敵視したままの顔をしていた。
「紗良、そんな奴おいてさっさと帰ろ」
有村さんは冷たくそう言い放ち、白瀬さんの横を通り過ぎる。
それを見た僕と白瀬さん。
そして、白瀬さんは僕の耳元でこう呟いた。
「ねぇ、有馬っち。私に謝った時みたいに香澄にも謝った方がいいよ」
「……そ、そうですね――それなら早く退いてもらっていいですか?」
僕は自分の上に馬乗りになっている白瀬さんに言った。
「あ、ごめんごめん」
白瀬さんは頬を少し赤くしながら、僕の上から離れた。
――そして僕は立ち上がり、決意を固めた。
「有村さん」
「……なに?」
ギロッとこちらを睨みつける有村さんに、心のどこかがビクつく。
もう僕は逃げない。悪いことをしてしまったのは僕だ。
あの時、白瀬さんを傷つけ、場の空気を壊して帰った――だから謝らないと。
「昨日はごめんなさい。僕が無神経なことを言って場の空気を壊したりして……」
「――私が怒ったのはそこじゃない。紗良にあんなことを言ったことだよ」
「香澄……」
「私は昔から友達の悪口を聞くのが嫌だった。有馬くんがどれだけいい人で、どれだけ聖人だとしても、私は友達の悪口を言われるのが大嫌い――だから謝るのは私じゃなくて紗良に――」
有村さんがそう言った時、白瀬さんがケロッとした顔で言った。
「謝ってもらったよ! 許したよ!」
「「は?」」
有村さんと須藤さんの声が重なる。
僕はキョトンとした顔をしていたのかもしれない。
それを聞いた有村さんは白瀬さんの所へ駆け寄る。
「おい! 私聞いてないぞ! いつ謝られた!? あれか? 電話か? それともLINEか?! 言っとくが私は直接以外の謝罪は謝罪じゃないと思ってるからな!」
「直接謝られたよ」
「え……そうなん……だ」
「うん、皆は昨日の有馬っちを見て印象最悪になったのかもしれないけど、有馬っちは恥ずかしがり屋なだけなんだよ」
白瀬さんは優しく微笑みながら有村さんと須藤さんに言った。
そんな彼女を見た僕の心の奥底で、何かが落ちる音がした。
そして白瀬さんの言葉を聞いた有村さんはため息をついて、僕の前に立った。
「紗良がそう言うなら私も許す!」
「はーい! 私も賛成!」
有村さんの言葉に続き、須藤さんも手を挙げながら言う。
それを聞いた僕はホッと胸を撫で下ろした。
すると、遠くの方から神楽坂くん、光くん、海斗くん達がこちらに気づいた。
「おーい! 今日もカラオケ行かね?」
「あれ? 有馬もいんじゃん!」
神楽坂くんと光くんは昨日と変わらない様子でいた。
一方で海斗くんは僕の周りを見て何かを察して、軽く笑った。
「おっす! 司!」
「おっす!」
そう言って、須藤さんが神楽坂くんにハイタッチすると、僕と白瀬さん以外のメンバーは昇降口の方へ向かっていった。
そんな彼らの後ろ姿を見た僕と白瀬さんは、お互い顔を見合わせて、クスッと笑った。
「じゃあさ、また一緒に『ヒーリング』の話しよ? 実は最新話、まだ見てないんだ」
「え、僕もまだです!」
「じゃあ、今度一緒に見る?」
「いいんですか!?」
「うん! 一緒に見たら、もっと楽しいと思うから」
「はい! ぜひお願いします!」
そう答えると、白瀬さんは少し真面目な顔になった。
「あ、そうだ。私の答えもね、言わせて」
「え?」
「今朝、『私も答えを言う』って言ったでしょ」
「あ……はい」
そういえば、そう言っていた。
「私の答えは――」
白瀬さんは、真っ直ぐ僕を見つめた。
「有馬っちのこと、大切な友達だと思ってる。だから、これからもずっと一緒にいたい」
「――ッ」
「だから、もう一人で抱え込まないで。辛いことがあったら、私に話して」
胸が、熱くなる。
「……ありがとうございます」
「ううん。こちらこそ、ありがとう」
白瀬さんは優しく微笑んだ。
※
それから、二人で夢中になって『ヒーリング』の話をした。
「ねぇねぇ、ケンヤとスズミ、どっちが先に告白すると思う?」
「絶対スズミですよ! ケンヤは不器用だから」
「でしょー! わかる〜!」
白瀬さんが楽しそうに笑う。
その笑顔を見て、僕も笑顔になる。
夕日が、二人を照らしている。
この瞬間が、ずっと続けばいいのに――
そんなことを、思った。
※
その日の帰り道、僕は空を見上げた。
オレンジ色の空が、どこまでも広がっている。
――変わった。
僕は、確かに変われた。
白瀬さんが、僕の背中を押してくれたから。
海斗くんが、僕に気づかせてくれたから。
神楽坂くんが、僕を受け入れてくれたから。
光くんが、優しく寄り添ってくれたから。
有村さんが、白瀬さんを想って怒ってくれたから。
明日からは、もっと前を向いて歩ける気がする。
※
それから1週間後の朝。
「おはよう、有馬っち」
「おはようございます、白瀬さん」
いつもの挨拶。
けれど、何かが変わった気がする。
「ねぇ、『ヒーリング』の最新話、いつ見る?」
「今日の夜とかどうですか?」
「いいね! じゃあ決まり! 楽しみ!」
「僕も楽しみです!」
白瀬さんが目を輝かせる。
その笑顔を見て、僕も笑顔になる。
「有馬ー!」
遠くから神楽坂くんが手を振る。
「昨日はごめんな! 今度、リベンジしようぜ!」
「り、リベンジ……」
「今度は有馬が歌いたい曲、選んでいいからさ! あ、アニソンでもいいぞ!」
神楽坂くんの明るい笑顔。
その隣には、海斗くんと光くんもいる。
「有馬、よろしくな」
海斗くんが軽く手を上げた。
「はい! よろしくお願いします!」
僕も、手を上げ返す。
「有馬くん、この前話してたアニメ、教えてね!」
光くんが嬉しそうに言う。
「あ、はい! 喜んで!」
そこに須藤さんと有村さんもやってくる。
「おはよ、有馬っち!」
「おはようございます、須藤さん」
「……おはよ」
有村さんは少しだけ気まずそうに挨拶した。
「有村さん、この前は……」
「もういいよ。紗良が許したなら、私も許す」
有村さんは小さく笑った。
「でも、また紗良を傷つけたら許さないからね」
「は、はい! 気をつけます!」
僕が慌てて答えると、有村さんはクスッと笑った。
「……まぁ、有馬くんも反省してるみたいだし。それに、紗良が嬉しそうだから」
有村さんは白瀬さんを見て、優しく微笑んだ。
「香澄、ありがとね」
白瀬さんが言うと、有村さんは照れたように首を振った。
「当たり前でしょ。親友なんだから……でも有馬、次紗良にあんなことしたら――分かるよね?」
有村さんのぎろっとした目が僕を捕える。
「ヒッ!」
しかし、彼女は数秒で軽く微笑む。
「冗談だよ。……でも、ちょっとだけ本気」
「香澄〜、有馬っち困ってるじゃん」
「いいのいいの。これくらい言っておかないと」
二人の掛け合いを見て、みんなが笑う。
「あ、そうだ。司」
須藤さんが神楽坂くんに声をかけた。
「ん? どうした?」
「この前言ってた、新しいゲームセンター。今度みんなで行かない?」
「お、いいな! 有馬も来るだろ?」
神楽坂くんが僕を見る。
「え、僕も……?」
「当たり前だろ! お前も仲間なんだから」
――仲間。
その言葉が、胸に温かく響いた。
「は、はい! 行きます!」
「よっしゃ! じゃあ今度の土曜な!」
「了解〜!」
須藤さんが嬉しそうに手を上げる。
「あ、私も行く」
有村さんも参加表明。
「じゃあ俺らも行くか」
海斗くんと光くんも頷いた。
「有馬っち、一緒に楽しもうね」
白瀬さんが微笑む。
「はい!」
僕は力強く頷いた。
※
授業が始まる前、僕は窓際の席で空を見ていた。
――変わった。
僕は、少しだけ変われた気がする。
もう、一人じゃない。
白瀬さんがいる。
神楽坂くんがいる。
海斗くんがいる。
光くんがいる。
須藤さんがいる。
有村さんがいる。
みんなが、僕を受け入れてくれた。
「有馬っち、何見てるの?」
白瀬さんが隣に座った。
「あ、いえ……空がきれいだなって」
「ほんとだ。青空、きれいだね」
二人で空を見上げる。
チャイムが鳴る。
授業が始まる。
でも、僕の心は温かかった。
――これからも、白瀬さんと一緒に。
――これからも、みんなと一緒に。
少しずつ、前に進んでいける気がした。
窓の外では、鳥が空を飛んでいた。
自由に、のびのびと。
僕も、あんなふうになれるかな――
そんなことを思いながら、僕は教科書を開いた。
新しい一日が、始まる。
※
白瀬さん達と絡むようになり、僕はある程度は神楽坂くん達のように喋れるようになった。
そして、夏の暑さが徐々に感じ始めた金曜日。
放課後、僕は神楽坂くん達と共に廊下を歩いていた。
「そういえば、明日の土曜だけど」
神楽坂くんが切り出した。
「ゲーセン行く予定だったけど、俺急用できちゃってさ」
「マジ?」
須藤さんが残念そう顔をする。
「悪い。来週にしてもいい?」
「しょうがないね。じゃあ来週で」
「有馬っちは明日、予定ある?」
白瀬さんがそう言って、僕の腕を突く。
僕は必死に返答する言葉を探しながら、目を泳がせて言った。
「ひ、暇です……多分」
「多分て何! アハハ! ウケる〜」
「ぼ、僕にも色々と予定はあるんで!」
「予定って何〜? 他の女とか〜? まぁでも有馬っちに女の人なんて――」
白瀬さんがからかうように視線を送る。
「そうです! 女の人とです!」
僕がムキになってそう言った時、白瀬さんの足が止まった。
「え……それってマジ?」
白瀬さんはどこか驚いた目をしていて、僕はその様子に困惑した。
しかし、その雰囲気はどこか本気のようだった。
「そ、そっか……そうだよね、有馬っちにも彼女くらいはできるもんね〜……アハハ……」
白瀬さんの笑顔が、どこか引きつっているように見えた。
いつものふざけた感じじゃない。本当に――傷ついている?
マズイ……すごく複雑な誤解をさせてしまった予感がする。
しかし、僕の言った女の人とは姉さんの買い物に付き合わされることだ。
そのことを当然知らない白瀬さんは、どこか落ち込んだ様子で僕の元を足早に去っていった。
「白瀬さん! 待って、違うんです――」
慌てて追いかけようとしたが、もう彼女の姿は見えなくなっていた。
「最悪だ――何やってんだ僕はー!?」
廊下で一人、頭を抱える。
せっかく仲直りできたのに。
せっかく、また笑い合えるようになったのに。
また、僕の言葉で白瀬さんを傷つけてしまった。
※
私は走って階段を駆け下りた。
涙が出そうになるのを、必死にこらえる。
「……バカ、私のバカ」
有馬っちに、彼女ができた。
それは――嬉しいことのはずだ。
だって、有馬っちが幸せになるなら。
友達として、応援するべきだ。
でも――
「なんで、こんなに……胸が痛いの」
自分の気持ちが、分からない。
いや――分かりたくない。
この気持ちに、名前をつけたくない。
だって、名前をつけたら――
もう、友達には戻れなくなるから。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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