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バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件  作者: 沢田美


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13/30

ケバブと嫉妬

 僕こと有馬蓮は、白瀬さん達と共にカラオケに入店し、そのままなるべく広い部屋に案内された。

 カラオケ……今日こそリベンジするぞ、あの日の失態は犯さないように。

 前回のカラオケで途中退室してしまった自分を思い出し、胸が少しチクリと痛む。でも、今日は違う。そんなことを思いながら、僕はドリンクバーで飲み物を注ぐ。

 プシュッと炭酸の弾ける音が心地よく響く。コーラを注ぎ終えた僕が個室に戻る頃には、既に司くんと須藤さんがデュエットをしていた。

 

「有馬、ここ座りなよ!」

 

 光くんに誘導されるように、僕は彼の隣に座った。ふかふかのソファが体を包み込む。

 リベンジするとは思ったものの……何を歌えばいいんだろう。

 僕は頭をフル回転させながら、タッチパネルの画面をスクロールし、この場にあった陽キャラのみんなに合うような曲を探す。

 ――いや、違う。

 

『だから、もっと自信持って。有馬っちは、有馬っちのままでいいんだよ』

 

 白瀬さんの言葉がふと脳裏を過ぎる。

 僕は僕のままでいい……。

 スクロールする指が、ピタリと止まった。持っていたタッチパッドを強く握る。

 

「次は有馬だよな! ほら!」

 

 司くんからマイクを渡され、それを受け取る。

 ずっしりとした重み。

 

 周りの視線が集中する。

 

 ――そして、白瀬さんの視線も。

 

 彼女の青灰色の瞳が、僕を見つめている。


あの時、僕は逃げた。

 白瀬さんを悲しませた。

 

 でも今は――違う。

 

 僕は、タッチパネルを操作して、ある曲を選んだ。

 

 『ヒーリング』のケンヤのキャラクターソング。

 

 白瀬さんと初めて盛り上がった話題。

 一緒に新刊を買いに行った思い出。

 彼女の部屋で語り合った物語。

 

 ――この曲なら、僕の想いが届く気がする。

 

「この曲なに?」

 

 須藤さんが不思議そうに呟く。

 

 僕は、白瀬さんを見た。

 

 彼女も――僕を見つめ返している。

 

 そして、小さく微笑んだ。

 

 ――分かってくれた。

 

 この曲の意味を。

 

 流れ始めるメロディー。

 

 僕は、深く息を吸い込んで――

 

 白瀬さんに向けて、歌い始めた。

  

 最初は声が震えた。

 でも、サビに入る頃には――不思議と、自然に声が出ていた。

 

 『ヒーリング』のケンヤが、敵に立ち向かう時に歌うあの曲。

 僕の"推し"の、魂の叫びを込めた一曲。

 

「お、有馬、いいじゃん!」

 

 司くんの声援が飛ぶ。

 光くんがタンバリンを叩いてリズムを取ってくれている。

 海斗くんも、軽く手拍子をしてくれていた。

 

 そして――白瀬さんが、じっと僕を見ていた。

 

 いつもの明るい笑顔じゃない。

 どこか真剣な、優しい眼差しで。

 

 その視線に背中を押されるように、僕は最後まで歌い切った。

 

「――ッ!」

 

 曲が終わった瞬間、拍手が起こる。

 

「有馬、めっちゃ良かったよ!」

「声、意外といいね!」

「アニソン、初めてちゃんと聴いたけど、かっこよかった!」

 

 みんなの言葉が、胸に染み込んでくる。

 

 ――ああ、歌って良かった。

 

「有馬っち、すごい...」

 

 白瀬さんが、小さく呟いた。

 

 その声は、誰にも聞こえないくらい小さかったけれど――

 

 僕には、はっきりと届いた。


 ※

 自分の選んだ曲が終演し、僕はそのまま逃げるように個室を出た。

 廊下に出た途端、熱気から解放されたような感覚に包まれる。部屋から離れる度、足取りが早くなる。

 恥ずかしい! 恥ずかしい! 人前で歌った! 人前で僕は歌ったんだ! 初めて!

 顔が火照って、耳まで熱い。でも――悪くない。むしろ、胸の奥が温かい。

 そんな思いを巡らせていた時、気づけば僕の目の前にはドリンクサーバーが並んでいた。

 何か飲まないと、このドキドキが収まらない。無作為にコーラを注ぐ。

 

「さっきめちゃくちゃ良かったよ、有馬っち!」

 

 そう言って僕の隣にいつの間にか立っていたのは、柔らかく微笑んでいる白瀬さんだった。

 僕の体が思わずビクついた。

 

「し、白瀬さんッ!?」

「何ビクッてんのー? てかさ、有馬っちがさっき歌った歌って『ヒーリング』の原作PVで流れたケンヤのキャラソンだよね?」

 

 さすが白瀬さんだ、あのPVを知っているなんて……。いや、白瀬さんだからこそ、だ。

 

「はい、僕初めてカラオケで人前で歌いました」

「そうなんだ。でも楽しかったんじゃない?」

「うん、これも全部白瀬さんのおかげだと思う」

 

 その言葉を聞いた白瀬さんは「なんで?」と小首を傾げる。仕草一つ一つが可愛くて、視線が釘付けになる。

 

「だって、白瀬さんが僕に言ってくれましたよね。僕は僕のままでいいって。それが僕に勇気をくれた――単純でありきたりな理由かもしれないけど、でも僕は前に進めたんです。ありがとうございます、白瀬さん」

「――そ、そうかな?」

 

 僕の言葉に白瀬さんの頬がふわりと赤く染まる。

 彼女は銀色の長い髪をクルクルと弄りながら、視線を少し逸らして、

 

「そう言われると……なんか……恥ずいかも」

「ッ! なんか僕まで恥ずかしくなってきました……」

 

 なんとも言えない空気が数秒過ぎる。

 カラオケなのに、色々な個室から声や音楽が漏れてるのに、妙にそれが遠くに感じる。まるで世界に僕たち二人だけしかいないような錯覚。

 それらより遥かに大きく聞こえるのは、早く脈打つ僕の心臓の鼓動だけだ。

 数秒が数分に感じるほどの、ゆっくりとした時間の流れ。

 

「ねぇ有馬っち」

 

 そんな沈黙を先に破ったのは、白瀬さんの少し震える声だった。

 ふと視線を彼女に向けた時、白瀬さんは優しく――本当に優しく笑っていた。

 

「私、やっぱり有馬っちのそういう所、気に入ってる」

「――ありがとうございます……」


 言葉が、それ以上続かなかった。

 白瀬さんの青灰色の瞳が、真っ直ぐ僕を見つめている。

 視線を逸らせない。いや、逸らしたくない。


「...ねぇ、有馬っち」

「は、はい」

「また、一緒に『ヒーリング』の話、したいな」


 白瀬さんは、少し照れたように笑った。


「もちろんです。いつでも」

「本当? じゃあ、今度の休み――」


「紗良ー! 有馬っちー! 何してんのー?」


 須藤さんの声が、廊下に響く。

 二人の世界が、一気に現実に引き戻される。


「あ、今行くー!」


 白瀬さんが手を振り返すと、僕の方を見て小さく笑った。


「それじゃ、戻ろっか」

「はい」


 二人で個室に戻る時、白瀬さんの手が――一瞬だけ、僕の手に触れた気がした。

 気のせい、だろうか。


 ※


 それから、僕たちはみんなでもう数曲歌った。

 白瀬さんが選んだのは、明るいポップソング。

 有村さんと須藤さんが一緒に歌い、みんなで盛り上がる。


 でも、時々――白瀬さんと目が合う。

 その度に、さっきのドリンクバーでのやり取りが蘇って、胸がドキドキする。


「有馬、楽しそうだな」


 海斗くんが、隣でニヤリと笑った。


「え、あ、そうですか?」

「ああ。良かったな、前回のリベンジできて」

「...はい。みんなのおかげです」


「いや、お前が頑張ったからだよ」


 海斗くんは、そう言って僕の肩を軽く叩いた。


 ――変わった。

 僕は、少しずつだけど、確かに変わっている。


 ※

 

 カラオケが終わり、外に出ると、外はまだ明るくて強い日差しが僕たちを照らしていた。

 夏の陽射しが、アスファルトを白く輝かせている。

 

「次どこだっけ?」

 

 ふと、司くんが僕らを見てそう言う。

 

「司、何忘れてんの? ケバブ屋でしょ?」

 

 光くんが呆れたように微笑みながら言うと、僕たちの前を先導するように歩き出す。

 ケバブか、何気に食べたことないな。

 そんなことを考えていたら、意外と直ぐにケバブ屋に着いた。

 

「うげ、結構並んでるな!」

「仕方ないよ、人気店で、最近バズったお店だもん」

 

 司くんに光くんがそう言うと、白瀬さんが風に髪をなびかせてケバブ屋に並ぶ。

 その後ろ姿が、妙に眩しく見えた。そんな無邪気そうな白瀬さんに続いて、僕たちはケバブ屋に並んだ。

 

 ※

 

 10分ほど並び、僕たちはケバブを買って外で食べていた。

 路地裏の小さなスペースに、僕たちは円陣を組むように立っている。 

 

「美味しい!」

「めちゃ美味いんだけど!」

 

 有村さんがそう言うと、光くんは「でしょー!」と得意げに微笑む。

 一方の須藤さんと司くんもケバブを無心で頬張っていた。

 あの二人……第三者から見たら完全にカップルだよな。

 

「司〜、私のやつ少しあげるからさ。司のもちょうだい?」

  

 須藤さんは甘えるような声でそう言って、食べかけのケバブを司くんに差し出している。

 それを見た司くんは「なんだよ〜」と優しく笑い、差し出されたケバブを何の躊躇もなく食べる。

 ――間接キス、とか、気にしないのかな。あれで付き合ってないなんて――おかしいだろ!

 

「ここのケバブ美味しいね!」


 そう言って、白瀬さんが僕の横顔を見る。


「本当ですね。初めて食べたけど、こんなに美味しいとは」


「有馬っち、口の周りにソースついてるよ」


「え、マジですか!?」


 慌ててナプキンで拭こうとすると、白瀬さんがクスッと笑った。


「もう、有馬っちってば」


「て、照れるからやめてください...」


「あはは、ごめんごめん」


 その時、有村さんが僕たちの方を見て、意味深にニヤリと笑った。


「紗良と有馬っち、仲良いね〜」

「な、仲良い...?」


 僕が慌てると、白瀬さんも少し頬を染めた。


「当たり前じゃん。友達だもん」

「友達ね〜」


 有村さんの「友達ね〜」という言い方が、どこか含みがある。


「香澄、何言ってんの!」


 白瀬さんが照れ隠しのように有村さんを軽く叩く。

 その様子を見て、みんなが笑った。


 ――こういう時間が、楽しい。

 前まで想像もできなかった、こんな時間。


「有馬、お前もケバブおかわりする?」


 司くんが声をかけてくる。


「あ、いや、僕は――」


 その時だった。


「あれ? 蓮くん?」

 

 人混みの中から聞こえてきた、懐かしい声に、僕の体が固まる。  

 そんなわけがないと思いながら、視線を白瀬さんからその声の方に向けた。

 

「あ、やっぱり蓮くんだ!」


 人混みが彼女に道を譲るように開け、そこに立っていたのは――中学の時に学校一可愛いと謳われていた水野愛莉みずの あいりさんだった。


 整った顔立ち、明るい茶色の髪、華やかな雰囲気。

 中学の時と変わらない、"誰もが振り返る"美少女。


「久しぶり! 蓮くん!」


 水野さんは、満面の笑みで僕に駆け寄ってくる。


「み、水野さん...」

「もう、久しぶりなのに、そんな他人行儀!」


 水野さんは、僕の腕に軽く触れた。


 ――その瞬間。


 僕の隣で、白瀬さんの笑顔が――一瞬、固まった気がした。

 いつもの柔らかい表情が、少しだけ強張っている。


「蓮くん、お友達?」


 水野さんが、白瀬さんたちを見る。


「あ、はい。これは――」


 僕が紹介しようとした時、白瀬さんがスッと前に出た。


「初めまして。有馬っちの友達の、白瀬です」


 いつもの明るい声。

 でも――どこか、トーンが低い気がした。


「へぇ、有馬っちって呼ぶんだ。可愛い」


 水野さんが、少し驚いたように笑う。


「蓮くん、高校で友達できたんだね。良かった」


「え...?」


「中学の時、あんまり友達いなかったから、心配してたんだ」


 ――その言葉に、白瀬さんの表情が、また微かに変わった。


「そう、なんだ...」


 白瀬さんの声が、小さい。


「あ、私、これから用事があるから! じゃあね! 蓮くん! LINE、また送るね!」


 そう言って、水野さんは手を振って去っていった。


 ――静寂。


「...有馬っち」


 白瀬さんが、僕を見る。

 その瞳は――いつもと違う、何かを秘めているように見えた。


「水野さんって、どういう人...?」


 その質問の意味が、僕にはまだ分からなかった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

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