ジャンケンで決める恋の行先
朝、鏡の前で何度も服を着替えた。
姉さんに選んでもらった服――オシャレで、少し派手な色。
でも、結局いつもの服を選んでしまった。
無地の黒ズボンに灰色のシャツ。
「変に気取って笑われたくない」
そう言い訳しながら、でも本当は――
白瀬さんに会えるのが嬉しくて、同時に怖くて。
複雑な気持ちを抱えたまま、僕は家を出た。
※
白瀬さんへの想いを自覚してから、一週間が経った。
学校では普通に接しているつもりだけど、白瀬さんの顔を見るたびに胸が苦しくなる。
そして今日――土曜日、みんなで遊びに行く約束の日だ。
やっぱり早く家を出すぎたかな……。
でも、みんなとの待ち合わせに遅刻するわけにはいかない。
週末の土曜日、少し暑い夏のはじまりを感じる中、僕はただひたすらに駅前の待ち合わせ場所に向かっていた。
※
待ち合わせ場所の駅前広場に着くと、ベンチに一人、スマホをいじっている人影が見えた。
「有馬じゃん」
聞き覚えのある落ち着いた声。
視線を上げると、そこにはスマホを片手に持った完全私服姿の海斗くんがいた。
ガーン、僕より先客がいた……。
「こ、こんにちは……海斗くん」
「おっす」
「「……」」
数秒の沈黙。海斗くんはベンチに座りながら、スマホをいじっている。
なんだこの気まずい空気は!? な、何か話題を……何も思いつかない! ど、どうすれば……。
「有馬も座れよ。立ってちゃ足痛いだろ?」
「あ、う、うん」
海斗くんに言われるがまま、僕は彼の隣に座る。
なんだこの謎の緊張感……話題も何も思い浮かばない。
「有馬ってさ」
「は、はい!」
「なんでそんな緊張してんの? まぁいいや。有馬はさ、今日どこに行きたいとかある?」
「どこに行きたい……」
書店、アニメイト……ダメだ! どれも陽キャのみんなが行くようなところじゃない! もっと、みんなが楽しめそうな場所……!
「ぼ、ボウリング……とか?」
「……そうか。なんか有馬、お前無理してないか?」
「む、無理? 無理なんてしてない……かな」
「無理してるだろ。みんなに合わせようとしてるのが分かりやすい。司でも分かるくらい」
「そ、そんなに?!」
「自分の行きたいところを言えよ。別に俺たちに合わせる必要はない」
……ふと脳裏をよぎったのは、過去の亡霊たちが放つ言霊。
『有馬くん、こういうの好きなんだ。なんかキモい』
『もっとみんなに合わせなよ。ノリ悪い』
『有馬くんってホント空気読めないよね』
小中の頃に言われてきた言葉。それらが僕の足に絡みついて、足枷になる。
この足枷は、どれだけ生きても、どれだけ頑張っても外れない気がした。
一度傷ついた心は修復できない――僕もきっと同じだ。
誰にも迷惑をかけたくない。独りで生きてきた僕には、この空気は合わない。
ネガティブな思考が巡る中、僕は言葉を振り絞った。
「あ、アニメイトとか行ってみたい……です」
「……有馬」
海斗くんの真っすぐな視線が僕を捕える。
「――ッ!」
「そういうのでいいんだよ」
そう言った海斗くんは、優しく笑っていた。
「有馬、お前さ――白瀬さんのこと、どう思ってんの?」
「――ッ!」
突然の質問に、心臓が跳ねる。
「い、いや、別に深い意味はないけど。ただ、お前が白瀬さんと話してる時、すごく楽しそうだからさ」
「そ、そうですか……?」
「ああ。だからさ、もっと素直になれよ。自分の気持ちに」
海斗くんの言葉が、胸に刺さる。
――素直に、か。
僕は、素直になれているんだろうか。
白瀬さんへの、この気持ちに――
「う、うん」
そんなぎこちない――けれど、心が少しあたたかくなる感覚がした時、遠くから僕たちに手を振りながら向かってくる人がいた。
「有村さんと白瀬さんだな」
海斗くんがそう言う。視線の先には、ヘトヘトになっている有村さんの手を引いて走ってくる白瀬さんの姿があった。
「お待たー! よ! 海斗! 有馬っち!」
白瀬さんがそう言って海斗くんにハイタッチし、僕の方にも手を差し出す。
「う、うん!」
僕は慣れない手つきで白瀬さんとハイタッチを交わした。
「アハハ! 有馬っち、ハイタッチ下手くそー!」
「白瀬さん!?」
白瀬さんはお腹を押さえながら笑っていた。
その笑顔を見て――また、胸が苦しくなる。
――好きだ。
やっぱり、僕は白瀬さんのことが好きだ。
「ごめーん、みんな! お待たせー!」
すぐ側から光くんが現れる。
手にはソフトクリーム。服装はめちゃくちゃオシャレだ。
「光、お前なんでソフトクリーム食ってんだよ」
海斗くんがツッコむ。
それを機に有村さんが金髪のポニーテールを揺らしながら、
「うわマジじゃん! めっちゃ美味しそう!」
「このソフトクリームどこで買ったん?」
白瀬さんも食いつくように光くんに聞く。
すると光くんは頭を掻きながら、
「行く途中で美味しそうだったからさ、つい!」
「お、みんな来てるな」
そう言って現れたのは、茶髪の私服姿の司くんと、黒髪ショートのオシャレ姿の須藤さん。
「おっす! 司!」
「司、待ってたよー!」
海斗くんと光くんが司くんの元へ向かう。
「奏! めっちゃ今日可愛いじゃん!」
「マジじゃん! そのネイルどこの!? マジイケてる!」
有村さんと白瀬さんが須藤さんに話しかける。
みんなオシャレだ。太陽よりも輝いてる……。
一方の僕は――自分の服装に目をやる。
無地の黒ズボンに灰色のシャツ。なんだこのパッとしない格好は!?
てか、姉さんにオススメされた服着るの忘れてた。
「どしたん、有馬っち?」
不思議そうな顔で白瀬さんが声をかけてくれる。
僕はあたふたしながら、
「あ、いや、その、変じゃないですかね? この格好」
「ん? 普通にイケてるよ? 私は好きだよ?」
「す、好き!?」
――ッ!
心臓が、バクバクと音を立てる。
白瀬さんが、今、『好き』って……!
は、初めて女子に言われた……『好き』って。
服装の話だって分かってる。分かってるけど、でも――
胸が、苦しい。
顔が、熱い。
あたふたして処理が追いつかない僕を囲むように、司くんたちが集まり、僕の服装を見る。
「別に変じゃないぞ」
「まぁ普通だな」
「普通だね!」
司くん、海斗くん、光くんがそう言うと、有村さんや須藤さんも「変じゃなくね?」「似合ってるよ!」と声をかけてくれた。
「ほらね? 全然変じゃないよ!」
白瀬さんは優しい微笑みを浮かべながら言った。
その笑顔を見て、胸が、また苦しくなる。
――好き、か。
僕も、白瀬さんのこと――
「有馬っち? どうしたの? 顔赤いよ?」
「な、なんでもないです!」
慌てて視線を逸らす。
白瀬さんは不思議そうな顔をしていた。
「それで? みんな行きたいところとかある?」
「カラオケ!」
「服!」
「ケバブ屋!」
「ゲーセン!」
「私はみんなが行きたいところ!」
司くんの問いに、有村さん、須藤さん、光くん、海斗くん、白瀬さんが順に答える。
「有馬はどうしたい?」
司くんがスマホでみんなの意見をメモしながら、僕に視線を向ける。
みんなの視線が集まり、僕は完全に固まった。
何を言えばいいのか、分からない。
そんな時、海斗くんが真顔で言った。
「それなら俺が先に聞いといた。アニメイトだって」
「OK! アニメイトね。それじゃ――ジャンケンで行く順決めるか! ちなみに俺はボウリング!」
司くんがそう言うと、僕を含めた七人は司くんの合図でジャンケンを開始した。
「「「「「「「ジャンケン!」」」」」」」
「「「「「「「ポンッ!」」」」」」」
※
結果、アニメイトは4番目。
まずはカラオケから始まった。
――今日は、楽しもう。
みんなと、白瀬さんと。
そう思いながら、僕は笑顔でカラオケ店に入った。
有馬も成長してきたなぁー、うーん、感慨深い!
明日はもしかしたら昼頃に投稿するかもなのでよろしくお願いします!
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