第4話 断罪執行人
大剣から解き放たれた赤い稲妻の閃光は
エリスと私に目掛けて放たれたーーー。
「……剣士の癖に、魔術師の真似事とは感心できないなぁ。
それと、僕の仲間に手を出すとどうなるか、しっかり叩き込んでやろうな?
………大胆不敵なる反撃 (アウダキア・カウンター)。」
ーーーその刹那、コンマ数秒の出来事だ。
彗星の如く空を滑空し現れた魔術師レシウスが
2人を守るようにバアルの攻撃を杖一つでかき消したーー。
否。
レシウスは、バアルの攻撃を全て吸収していた。
バアルとの魔力量の差を活かし、その差が大きければ大きい程………。
相手の技の質量の倍の大きさで反撃するーーーー。
レシウスのみが習得し扱える、彼の人となりをまるで表すような技だ。
赤い稲妻の閃光は、その質量を
本来の3倍増大させバアルを襲ったーーー。
ズゴオオオオオオオン!!!
凄まじい、破壊力に
地面は広範囲に抉り削られ、一直線状にその威力の痕跡が露わとなった。
「わかったかー?
………って、生きてるかい?ハハ。」
「クソ魔術師風情がッ!!!!!
ッコロス、コロス、コロス!!!!」
しかし、赤髪の少年は倒れるどころか片膝すらついてはいなかった。
勿論、全くの無傷ではない。
バアルの鎧は所々が剥がれ落ち、負傷していながらも
大剣とその頑丈な身一つで攻撃を真っ向から受け止めたのだ。
それでも、攻撃を受けた衝撃で立っているのがやっとの様でバアル本人が弱まったことにより
荒れ狂うように発生していた竜巻も収まっていく。
「お前達!!今のうちだ、撤退命令だ!!
撤退するのです……ッ!!!
殿は、バアル殿が務めてくれることでしょう…。」
あろうことか、兵士達と神父アスナデはルフェリアを掻っ攫い
太刀打ちできないと理解したのか撤退しようとしていた。
「ルフェリアッ!!!」
(クソ!!ルフェリアがあいつらに………!)
「救世主。
君は、魔女から祝福を授かっている。
祝福について知る者は、とても貴重であり
ましてや、それを授けられる者は国や世界総出で実験対象にされる程稀な存在だ。
この先、君の人生は過酷を伴い僕達のように追われる身になるだろう……
それでも魔女を助けたいんだね?」
レシウスの顔は見えない。
ローブで覆われていてその表情までは分からないが
それでも先ほどと打って変わって真剣であることは声音から理解できた。
「は、はい……!!!
もちろん。
私を救ってくれたのはルフェリアだから…!」
「うん、君のその気持ち受け取った。
その決意は、君を勝利へと導く事だろうね。
ならば、その覚悟を示せ!!救世主よ!!!」
「ごちゃごちゃウルセェ!!
せめて、救世主の首は貰ってくぜ!
今度こそくたばれ!!!救世主!!」
怪我を負いながらも殺気溢れるバアルが
今度こそはと、私の首に狙いを定めて斬り込んでくる。
ーー目前に切先がくるよりも先に
レシウスに首根っこを掴まれて身体が反転した。
ガギィン!!!
私を庇いレシウスの立ち位置が私と入れ替わると、彼は瞬時に目の前にバリアを張りバアルの攻撃から身を守った。
「ハハハ!バアルは、僕が引き受ける!
君は魔女様を頼んだよ。
さあ、バアルよ。この攻撃どこまで君は耐えられるかな。」
一方リリーと、エリスは
大量の兵士達を相手にしている。
私が見据える先には、ルフェリアを抱えて逃げるアスナデの後ろ姿。
無機質な"声"が脳内に響く。
【魔女の祝福 (ミゼリア・ベネディクトィオ)の使用可能な残り時間………1分。】
また、恩恵として魔女の厄災の力を行使可能です。
使用した場合、対象者の不幸を確立させます。
業が深い者であれば
その者の抱える罪の重さの分、威力を発揮します。
つまり、罪に見合った罰を与えられるということか……。
まるで、断罪だな。
やれるか?たぶん、やれなくても、やるんだ。
祝福が使えるから、敵を倒すという理由だけではない。
純粋に今度は自分が誰かを助けたい…という気持ちの芽生えが、弱々しい背中を後押ししていた。
やらねばならないのだと。
「厄災の力、行使する!!」
【厄災の力の行使、許可します。】
一歩、また一歩、アスナデとの距離を詰めていく。
体感として、ものの数秒で既にアスナデの背後に到達ーーー。
【厄災行使】
【神父アスナデの業を測定】
【分類化、貪欲。
その貪欲さを罪とみなし、不幸を確立。断罪可能。】
【因果律に干渉、完了】
【断罪を完遂してください。】
「……了解。
断罪執行人。
我、汝を断罪する執行人である!!
その罪を贖わせるために、ここに真の鉄槌を下さん!!
制裁オオオオオオ!!!」
「ひぃいいいいいい…ッ!!!!
お、お許しをッ!!!……ッグハ!!!!!!」
アスナデの顔面に怒りの鉄拳を食らわすーー。
たった一発の拳で、数十メートル先まで吹っ飛んでいく。
(な、なんか咄嗟に決め台詞言えたんだがッ!雰囲気に流されるとつい口走ってしまうものなのか?!
…………………ふ、ふふ…嬉しい。でも拳が血だらけで凄く痛い!生まれてこの方、人を殴ったことなんてなかったからな………。)
【断罪完了】
【魔女の祝福 (ミゼリア・ベネディクトィオ)
の使用時間に達しました。】
瞳の色が、ルフェリアと同じ琥珀色だったのが
元の色に戻る。
しかし、ルフェリアの姿が見当たらず焦る。
「ま、まさか……。神父と一緒にル、ルフェリアも吹っ飛んだんじゃ……!!!」
「その心配の必要はねぇよ。
あのクソ神父、我先に逃げようと
魔女様を途中で放り投げやがったからな。
アタシがギリギリ受け止めた。感謝しろよ?」
ルフェリアを背負った、傷だらけでもどこか嬉しそうなリリーに
頭を力いっぱいにわしゃわしゃと撫でられる。
「それはそうとよく頑張ったな、救世主!!見直しだぜ!」
「あ、あわわわわわ…。」
(生まれてこの方、人に褒められたことなんてなかったから………、
う、嬉しい。嬉しすぎる………。)
そこに、エリスとレシウスの2人も少しボロボロになりながら合流する。
「ウハハハハハハハ!皆ボロボロだなぁ!
残った兵士達とバアルは、転移石を使って逃げてった!アハハハハハ。」
「クソレシウス!ったく、遅く来やがって……笑ってる場合か!」
聖女リリーがレシウスをポコスカ殴る。
すると、顔全体を覆っていたローブがフワリと外れ彼の顔が現れる。
瞳はマグマのように赤々しく、しかし優艶で女性のように美しい顔立ちと白金髪の髪色。
疲れ果てていたが、レシウスの美しさに空いた口が塞がらず眺めているしか無い。
「痛い、やめてっ!
民達を避難させていたんだ!
ヴィヴィアンと、ハデスが今も避難の手伝いをしてるだろうよッ。」
「ならば、2人にわかる様に撤退時に焚く狼煙を上げて我々は早々に移動しましょう。
あの2人なら上手く切り抜けるだろうし、留まり続けるのは危険ですから。」
(この世界でも狼煙は、情報伝達の手段に使われているんだ……。念話とかそう言うのはあるのかな?
落ち着いたら、今度聞いてみよう…。 )
「…エリスの言う通りだ!
救世主は、祝福の代償か呪いみたいなものにかかっているし……。魔女は、昏睡状態。
砂漠を抜けた先の山岳地帯に住むエルフ族なら、何か知っているかもしれないな。
よし、そこを目指そうか!ガハハハハ!」
「ところで、救世主。
アンタ、名はなんて言うんだよ?」
リリーは、とても興味深そうに
そして何故かジリジリと距離感を詰めるよう迫り来る。
ルフェリアの時は思わなかったが、緊張すると人見知りが出てしまう。
人とのコミュニケーションに努力値を振らなかった自業自得の結果ではあるものの
こう、陽キャにグイグイ来られると、つい逃げたくなってしまうのだ。
ここでは絶対に、コミュ力も付けようと心に決めた。
「……ええっと、その……!
……白川仁明です!
不束者ですが、よ!よろしくです!!!」
こうして救世主ニアの最弱で不遇ではあるが、
自分を助けてくれた人達に報いるため
世界を救うため、そして拒絶してくるこの世界を覆すための冒険が始まるーーー。




