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第30話 祝福は突然に


アレンの接触は、度を越して何の躊躇ためらいもなく私の身体のあちこちをサワサワしてくる。

こうなった彼は、もう誰にも止められない。

この妹愛シスコン野郎は、瓜二つの私と妹のカイルを間違えている。


際どい触り方に、諦めて鞘に手を掛けたその時だったーー。


「うるぁああ!クソアニキ!!!」


アレンの背後には、般若はんにゃのような形相で棍棒を兄の後頭部目掛けて振り翳す妹ご本人が私の窮地を救ってくれた。


「はぁ、悪かったね。ウチの兄貴が迷惑かけて……。というか、そもそも置いて行ってしまって……」


「そんな事ない!!あちこちに血が飛んでるし、不安だったけど。………兎に角生きててくれてよかったぁ!!」


安心感に、膝から崩れ落ちてカイルの足元に縋り付くように擦り寄っていた。

生きている事を確かめるみたいに、体温を感じるように。


もう、誰もいなくならないで欲しい。

もう誰も、傷ついて欲しくない。

もう、あんな惨劇繰り返したくないーー。


カイルは呆れながらも、泣いている私を受け入れてくれた。

頭をそっと優しく撫でてくれた。

それが余計に心に響いて、涙が滞ることを知らない。


「ニア、落ち着いたか?きっと辛い事があったんでしょ。泣きたい時は、泣けば良い。

そして、また立ち上がれば良いのよ」


「うん、ありがとう………!もう、大丈夫。

………ところで、他のみんなは?」


「……そうだよな、結論から言えばウチらは襲われた」


「………!!?」


「血を見たんでしょ?なら争った形跡がある事は理解したわね?」


ゆっくり頷いて見せる。

自分以外の誰もが居なくなっていた事を思うに、拉致されたとも考えた。

けれど、自分だけが置いて行った事には何か違和感がある。


「その顔。ニアだけが置いて行かれた理由が何かを考えているんでしょ?

………あえて、置いて行ったの」


「あえて?」


「そう。あえてね。

マディスの奴が来た。しかも、かなりの腕前のが三人。何が目的かと思えば、ど深夜に仲間を差し出せって………指名手配中の少女ニアを」


「私が、指名手配………」


「やっぱり、心当たりがないよね。

だって、ニアが悪事に手を染めるような人間じゃ無い事くらいわかるし。それで、ウチの魔術でニアを一時的に透明化して、巨人と結託してムカつくアイツら全員洞窟に縛り付けて放置してやったって訳」


カイルに申し訳ないが、心当たりはある。

私の代わりに救世主となったエリスなら、そうするかもしれない……と。

何故ならば、あの男は私を呪う程の恨みや妬みで生きているから。


私を助ける者が居るならば、私諸共殺すとも言われた。

だから、エリスならやりかねない。

まだマディスとの繋がりがあるかわからないが、可能性として否定は出来ない。


「マディスの思惑はわからないけど、とりあえず今はみんなと合流したいね」


「賛成。ここに居たら帰還しない仲間に痺れ切らしていつやって来るかわからないし……さ、ウチについてきな?」


気絶したアレンを引き摺りながら、先行するカイルと共に森を抜けて見晴らしの良い山脈に出た。


* * *


岩肌の道を抜ければ、また森が広がっていた。

青空が広がる自然の絶景は、初めて心からこの異世界も息をしている事。

同時に、現実として自分が異世界を生きている事も実感した。


そして、森と山脈の間には大きな湖畔が青空を反射させて青々と彩り、その周りには色とりどりの花が咲き誇る。

息を呑むほどの美しい情景に、呆然と立ち尽くす。


「こんな綺麗な所……生まれて初めて見た」


つい、そんな事を口走っていた。

カイルは私の肩に腕を回して、アレンに似た晴々とした笑顔を向ける。


「だろ?だから少し遠回りした。

人生は、遠回りの連続でしょ?でも、たまに神様がウチら人間にご褒美を用意していてくれてる。それに、少し救われる」


「神様か………そうだね。

愛するが故に、やり過ぎてしまう時もあるんだけどさ。それでも、その慈愛は本物だよね」


アテシーはこの世界を、私を。

心の底から愛してくれていたんだろう。

だから、どんな方法でもきっと守り抜こうと必死だったんだ。

今なら、心の底から理解できる。


ーー願わくば、アテシーを元に戻してやりたいと思うくらいに。




名残惜しみながら、山脈を下り上から見えていた湖畔へと足を運んだーー。

到着して早々、カイルは氷結魔法で作った氷柱を持ってそれをアレンの頭上で粉々にしてみせた。

まさかとは思ったが、氷柱で頭をかち割ると思ったので、良心的(?)な方法で肩を撫で下ろす。


「とっと起きろ、変態兄貴!」


「ひゃッ!つめひゃぁい!!」


「起きんのが遅い!」


「え、あれ?カイルが二人?!」


状況を飲み込めないアレンに事の顛末てんまつを説明すると納得したみたいに土下座をされた。


「す、すまなかった!!!!

まさか、本当に瓜二つなだけだったなんて……。あ、あと、これ金品だ!アテシーに頼まれてな、お前を救うために必要なんだろ?」


「いやいや!むしろ、ありがとうございます。

でも、多分もう必要無いんじゃないかな…」


「…………お?

ぉぉおおおお!我が後継者よ!無事であったのだな!よかったよかった!アテシー!

お主の思い人が帰還したぞ」


湖畔を挟んだ先の森の中から巨人の長と、その後ろからひょっこりとアテシーが顔を覗かせていた。

私だと気づくや否や、120kmの投球が如く速さで顔面に飛んできた。


「アテシー!!!」


「ニアッ!!!!良かった!!!ごめんよッ、頭を打ち過ぎて気絶していたんだ……もう一人にはしないからね」


ふわふわのアテシーを受け止めるように、その身を力強く抱きしめた。

互いに身を寄せ合って、まるで生きている事を噛み締め歓喜する。


地獄を味わったからこそ、大切な相手が生きている事は当たり前では無いことを実感していた。

そこへ、アレンが涙ぐみながら告げる。



「ぅうう、良かったなぁ……!

アテシー、ニア。これを売って美味いもんを食うんだぞォォォォォォ!」


差し出された金品。

それは、オパールの白の中に虹の輝きを放つ宝石だった。

それを見て、アテシーは目ん玉が飛び出るくらい目をかっぴらいて叫んだ。


「なんで祝福を持ってるんだァァァアア!!!?!!」


「しゅくふく…?」


ハテ?みたいな顔をしたままのアレンから宝石を奪い取って、真剣そのものの形相でアテシーは言い放つーー。


「………これは、ニアにとって。

救世主にとって、この世界にとっての勝ち筋になるかもしれない代物だ。つまり……アレンのお手柄だ!」


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