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第29話 仲間(記憶無し)との再会は危険である、何故ならば狂妹愛者(シスコン)だからだ

この兄ーー。狂人であった。

村人同等の能力値であるニアが、その背後の影に気づける訳もなくーー。

気づいた時には、ダガーが頸動脈けいどうみゃくに狙いを定められていた。


「動けば殺す。

お前が出来る事は二つだけだ。

一つ、カイルはどうした。答え様によっては殺す。

二つ、お前は誰だ。知る事洗いざらい話せ」


少しでも動けば確実に切先が血肉を抉られる恐怖に、唇と足が震えて止まらない。

耳元に落ちる声は、ドスが効いたように低い。

相手の息遣いが、耳を掠めることすら恐ろしく感じた。


「………ッ答えろ!!!!

言葉を話す魔物と一緒に、こちらに向かった筈なんだ!」


「わ!私もよく分からなくて!!

カイルも、魔物……アテシーも!昨夜一緒に居たんです!でもッ……!!」



言い終える前に、声の主は私を地面に組み敷いた。

片手は後頭部、もう一方の片手で両腕を押さえつけられてしまう。


「……うぅ」


「痛いだろ?骨と筋が悲鳴をあげる感覚が、よーくわかるだろう?

なぁ?どこまでお前は耐えられるんだろうな」


「っあああぁぁあ!」


腕の関節がまるで逆方向に締め上げられる。

肩が外れるギリギリのラインを責められてしまえば、痛みに耐性がないニアは苦痛に泣く事でしか対応できない。


「女お得意の嘘泣きか?

泣いてる暇があるなら、答えればいいものの…。次は、しっかり関節を確実に外すぞ。さぁ、歯を食いしばれお嬢さん?」


何か言わないと。

何か、何か、何か、何か、何か!!!!!


違う。

違うだろ!!

死に恐怖してしまえば、恐怖に呑み込まれれば

また何も救えない!


私は、また無能のまま誰も救えない。

何も成せない。

それが嫌だから、だから!ようやく、普通になれた今こそ踏ん張り時じゃないのか。


「……私を!!強くしてください!!!

お願いします。

何でもします、カイルをっアテシーを助けるためなら何でも!!

今度こそ、守らなきゃならないだ……。

もう二度と、失わないために誰も苦しませないために……ッ強くならなきゃいけないんだ!」



ニアを組み敷く男は驚く。

拷問紛いな事をされている筈なのに、誰かを守る意思がそこには確かにあった。

自分との力量さも、逃げられない事もきっとこの女はわかりきっているだろう。


しかし、諦めていないのだ。

殺されるかもしれない。

死ぬかもしれない。

そんな恐怖が伴いながらも、何故他者を守ることを優先できるのだろうか。

ーー興味が湧いた。


「………お前。

面白い女だな!!いやー、悪かった!

痛かったよな、女子供を痛ぶる趣味はないんだが……緊急事態なもんでな」



解放されて、若干痛む関節を摩りながら

目の前に差し出された手と相手をニアは見上げた。

聞いたことがある声だとは思っていた。

その男は、申し訳なさそうに眉を下げつつ

にへへと微笑む。


アレン……。

アレンだ。

錯乱しすぎて、全く気づけなかった。


「アレ……」


名前が出かかるも、寸前でそれをやめた。

彼に前回の記憶は無いだろう。

妹のカイルも、悲惨に殺された素振りが一切なかった。


下手に前回の事を喋れば、むしろ怪しまれるだけだろう。

そうすれば、逆に命が危ういことになりかねない。


アレンの手を取って、立ち上がる。

よそよそしく振る舞うも、ぎこちない。


「……あ、ありがとうございます。

私の名前は、ニアと言います。

は!話を聞き入れてもらい、感謝します」


……心がズキっとする。

前回、ずっと一緒に居た訳ではなかった。

それでもほんの少しの間、時間を共にした大切な仲間に変わりはない。

何より、前回より以前の記憶が私に無くとも

何十回も繰り返されてきた《私の心》が覚えている証なのだろう。


けれど、干渉に浸っている暇はない。


「アテシーと、カイルを助けたいです。

ここに住んでいた巨人達も見当たらないし、何かに巻き込まれた可能性が高いと思います」


「なるほどな。ニアを強くすることは後になるかもしれんが…まずは、辺りを詮索してみるか。あ!俺はアレンだ、よろしく頼むぞ……っ!ンンンン?!!!!」


「……肩痛たたたたたたた!

なんか顔が近い!!!?」


まだ少し痛む肩を鷲掴みにされて、鼻息を荒げて鼻と鼻がぶつかるほど接近してくる。


だから、鼻息がめっちゃ顔にかかるんだが……!


しかも、血眼になってこれでもかと目をかっぴらいてガン見。

組み敷かれた時より恐怖が大きい。

無言で、鼻息荒くガン飛ばされた経験など今日が初めてだ。


「ふー!ふー!な、何で!!

カイル!!!!少し服装が違うが……!

もしや、俺が頭を押さえつけた衝動で変な所を打ったのか?!お兄ちゃん心配で心配で……!うぁああん!何はともあれ、無事でよかったぁ!すーはーすーはー」


「いや!私、ニアだから!!

って、変な所触るな嗅ぐな!!いーーーーやー!!」


「ン〜」


そうだった……。

アレンは、狂が付くほどの妹愛シスコンだ。

しかも、私とカイルは顔が瓜二つーー。


弁明してくれる者は誰も居ない。

まずい、どう収集付ければいいんだ。

アレンの妹カイルへの心配と妹愛シスコンが大爆発、大暴走。

もう誰も止められないーー。


「カイル。そう恥ずかしがるな、お兄ちゃんはいつだって可愛いカイルのあーんな姿やこーんな姿を見た……見る心の準備は出来ているんだ。ん〜〜〜〜!」


「ドン引きだわ!てかチューしようとすんな!離れろ!本当にやめろ!!はーーーー!!誰か助けてぇえええええ!」


私の叫びは、こだまして反響する。

こんなアホみたいな叫びに、そりゃ反応する者なんている訳ない。

しかし、アレンはこうなると自身が納得するまで止まらないだろう。


……そう諦めていた時だったーー。

この兄ーー。

とっても狂人(色んな意味を含む)であった。

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