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第27話 巨人の思惑


地面にめり込む程に、アテシーは小さな額を何度も何度も叩きつけるように懇願する。

魔物のどこか常軌を逸している必死加減に、アレンもカイルも承諾せざるを得ない。


「おい、それ以上は脳を傷つけかねない!

もういい!わかった!俺たちはお前に協力する。

……俺はアレン、こっちの美人で可憐な女の子は俺の大事な妹のカイルだ!しっかりと導いてくれよな!」


こうべを上げて、2人の顔を涙ながらに見た。

血が額に滲むも、こんなものニアの命に比べれば幾らでも流したとて安いものだ。

そうアテシーが思う程、ニアはかけがえのない人間。


それが、狂気纏う程の必死さの所以ゆえんである。


「ありがとう。この出会いに心から感謝しよう。ワタシの名前は、アテシー。

君たちを必ず導くよ!さあ、着いてきて」



2人の兄妹と一匹の魔物は、難易度SSSトリプルエスメデューサの攻略とニアを救うために必要な金品財宝を目指しダンジョン内へ踏み入れるのだったーー。



ダンジョンへ入場してから、ものの2時間が経過。

アテシーは、絶句した。

顎が地面に落ちそうな程あんぐりと開いた口が塞がらない。


懸念していた、自分が創造した世界と現創造神エリスの世界のものとダンジョンの構成が全く別物であったからではない。

むしろ、幸いな事に一つも変化はない。


つまり、アレン達の目的もアテシー自身の目的も達成は叶えられる。

後は、制限時間の問題のみだ。


そんな不安は、無意味であった。

何故ならば、アレンはいとも簡単に魔物をバッタバッタとその槍捌きで圧倒的力量差で撃破していくからだ。


階層の上位魔物が、瞬く間に攻略成し遂げられていく様に爽快感に、胸が躍る。

アレンの流星が如く身のこなしは、熟練の戦士さながらだ。


そう言う意味で、口が塞がらないアテシー。

前回のアレンからも、もちろんその頭角を感じていたがこれ程までに柔軟さとスピード、そして深手を確実に負わす人体構造への理解力。


驚異的であることは、まず間違いなく

敵には回したくないと、アテシーは心の底から思った。


思いに耽っているうちに、第40層へと到達していたーー。


現刻、昼九つ。

正午頃になっていた。

残り猶予は、6時間を切ったーー。



* * *


バシャァン


冷たい水圧が、身体に鞭を打たれたようにニアを襲う。

あまりに急な出来事に順応できず、頭から掛けられた大量の水を鼻で吸ってしまいそれが肺に入ってむせ返る。


「ガハッ!ゴホッ、ゴホ!」


何が起きたか理解するために、揺らぐ意識に集中する。


目の前には、自分を襲った巨人。

そして、にわかには信じたくない光景に、体が震える。

同じ図体の巨体が、目の前で自分より小さい魚を器用に捌いていた。

恐らく、その魚はマグロ程の大きさだろうか。


固唾を飲んだーー。

自分も魚の様に内臓を抉られて煮るなり焼くなりされてしまうのだろうか。


しかし、逃げられる訳もなく。

手足も丸太に括り付けられており、その丸太は地面に突き刺さっているように思う。

怪力の持ち主であったなら、すぐにでも抜け出せるかもしれないが今の自分には出来そうにない。


脳裏には、どうする。どうやって抜け出すか。

そんな事ばかりが頭を巡った。

何より、アテシーの姿が見当たらないことが最大の不安要素となりニアの心をより追い詰める。


(クソ!こんな所で、終わってたまるか……!!こちとら、後にも先にも辛さしかないんだよ)



しかし、ニアの諦めの悪さとこの先の残虐さの恐怖心がこの状況に抗おうとする。


(絶対に!!生きる!!!)


「…ほぉ?絶対的不利の最中も、生き残る事を精神的支柱にするとは…ははは!見事!ほら、これを食うといい」


命のやり取りを予想していたニアの目前に巨人が差し出したのは焼き魚だった。


「私を殺さないのか?」


混乱するニアは、思わず敵相手にそんな事を口走る。

てっきり、エリスの差金とばかり思っていた。


呆れた様な顔つきで、巨人はすぐ横に座す。


「お主、ワシを殺戮魔とでも思っておろう?

真逆である。お主は、強い。否、強くなる。

ならば、ワシが契りを果たすまで…鍛錬しようぞ!鍛錬だ!ガハハ」


「……は?

いやいやいや!言ってる意味の半分もわからなよ!!」


「そうであろう、そうであろう!

しかしな、夕刻までにワシに片膝を付かせられなければ殺すがな!!

何、殺戮は好まないが、死闘の中にこそ答えは見出せるものなのでな!……ゆくぞー?」


 

あろうことか、両手に焼き魚を持ったまま

巨人は足を使ってニアが拘束されている丸太をひっくり返したーー。

地に叩きつけられたまま、2撃目がニアの真上から振り下ろされる。



ズドォォオン



砂埃が舞って視界が塞がれる。

しかし、巨人からの足攻撃はギリギリ避けられていた。


(正気か?!!こんな巨体怪力相手に、武器もなく拘束状態でどうすれば?!!)


圧倒的不利。

こんな状況、誰がどう見てもわかりきっている。

そんな中幸いな事に、目の前の巨人以外はこちらに目もくれない様で助かった。

そうでないと、いよいよこちらに勝ち目はない。


「もしや、諦めている訳ではなかろうな?ん?」


「いや、それ以前の問題というか……!

せめて、丸太外して欲しいなー、なんて」


「ふん、仕方あるまい。刀を返してやろう、それでどうにか拘束を解いてみせるとよい!」


何処からともなく、ニアが持っていた聖刀が横へ転がり落ちた。

けれど容赦なく巨人は、ニヤリと口角を上げて一切の躊躇なくニアへ目掛けて足を振り下ろす。



* * *


目にも止まらぬ速さで、敵を穿つ槍捌きでアレンはどんな魔物も倒していった。

そして、気づけばアテシーたちは念願の第52層に到達目前。



「君たちは、すごいな……。普通、強者でも1週間前後かかる第52層までたった数時間で到達してしまうんだから…」


ふと、アテシーは疑問を口にする。


巨人族の住処、森と運河の境。

彼らは、一つの居場所に執着せずまた少数で群れを成し、各地に散らばる様ひっそりと暮らしている。


「……金品などを求める種族ではない筈なのに、何故あの巨人は要求してきたんだろう?」


アレンが、何か大事な事を思い出したかの様に告げる。


「あー!!

そう言えば、昔の人間との契りが何たらこうたらで…目をつけられたら最後。巨人が満足するまで一生、鍛錬の日々を送らせるつもりとか抜かしてた事を思い出したぞ!金品は、わからないな……」


「………え、つまりは解放するつもりは毛頭ない?!!ま、まずい。まずいまずいまずいまずいまずいまずい!馬鹿正直に要求を呑んでしまった……ニアは、弱いのに。また1人にしてしまった…」



目的を目前に、巨人の思惑を知ったアテシーは絶望した。

確かにニアは弱い。

ようやくスタートラインに立てただけで、驚異的な力がある訳じゃない。


共に一歩を進む筈だったその道を、また潰えることの悔しさに、1人にしてしまった不甲斐なさにアテシーは前に進めない。


そこに、冷静な声が洞窟内を包んだーー。


「なら、ウチとアテシーは今すぐ助けに向かえばいい。兄貴は、1人でもSSSトリプルエス

級は倒せるし、その後金目のものも持って来れるでしょ?」



「い、良いの?!!

ワタシを、信じてくれるの……?」


「信じるって言うか……。

何かそうしなくちゃならない気がして、心が、こう。ザワザワするって言うか……。

ってそんな事どーでも良いから行くよ!」



カイルは、頬を赤ながらぶっきらぼうに来た道を辿って行く。

アテシーは、涙で霞む瞳を擦りカイルの背後を一心で追いかけたーー。



そして、第52層内に残されたアレンは1人、メデューサと対峙。


「ッカイル!お兄ちゃんのお尻をわざわざ蹴り飛ばして行ったな!!……くそ、そんな天邪鬼な所も可愛いなー!コンチキショー」


メデューサは、その蛇頭を無数にうごめかせアレンを魔眼で狙い定める。


「ふふふ、久しぶりに人間がやってきたと思いきや……暑苦しい男が来たのね。

タイプでないから、とっとと石と成りなさいな?」



魔眼が、怪しく闇の中で一際、紫色しいろが輝く。

その先に、アレンの姿はないーー。

捉えた筈の獲物が見当たらず、メデューサは闇の中を必死に探る。

しかし、どこを見渡すも獲物の姿を捕捉出来ない。


「お前を片付けて妹たちの元へ向かわなきゃならないからな…。

悪いが、手っ取り早く済ませる」


「………!戯言を抜かせ!!!」


背後から聞こえた獲物の声を、掻っ切るように

無数の蛇がその毒牙で空を切り裂くーー。

しかし、獲物の肉質を牙が食らう事も叶わない。



えものが、お前の手に届く場所に居ると思うなよ?」



声は確かに聞こえるのだ。

けれどその姿を捕捉出来ないーー。


苛立ちが隠せないメデューサは、四方八方

怒りに身を任せて破壊の限りを尽くす。


「人間風情がッ!!!!このワタクシに叶う訳ない!!!!どうだ!恐れ慄くがいい!アハハハハハハハ!」


足場が揺れ、破壊された岩が散乱する。

しかし、アレンは一切動じる事なくその槍でメデューサを捉える。


「……妹へ捧げる愛は唯一無二 (ソロル・アモーレ)。………俺の妹への愛、あなどらない事だな」


マッハ猛スピード。

槍はメデューサのその心臓を穿つーー。


「な…………にぃ………ッ」


「俺はな、ずっと上に居たんだよ。

魔眼で有利になるために、辺りを暗くしていたことが運の尽きだな」


そして、メデューサは跡形もなくその姿を灰と化した。

アレンは槍を取りに行くと、その足元に一際輝きを放っている紫色の宝石も拾い上げた。


「……これなら、金品になるかもしれないな!ラッキー。よーし、今からお兄ちゃんも向かうからな!」


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