表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/30

第22話 時は残酷に廻る

海面を照らすは、月明かり。

既に夜の帳が下りた後。

呑み込まれ意識は、漂い。

望むは、安息の地であったーー。


気づけば海に落ちていたのだ。

浮遊できない、息もできない、水面が揺れて、海上に刺した月光からどんどん遠ざかっていく。

あるのは深海の闇のみだーー。

肌に触れる水温は異常なまでに冷たい。


死ぬのか。

死んだのか。

生きているのか。

生きたいのか。


そんな事さえもわからない。


このまま、沈んでしまいたい。



そんな事を願った罰か。

身体が渦に呑まれていく。

激しい渦の回転に、ままならぬ呼吸は塞がれた。

ただ廻る。

ただ苦しい。


これが、エリスの言っていた贖罪なのだろうか。


私は、それを許容する。

享受する。


苦しみを望めば、

解放するように渦が一瞬であわぶくに転じていく。

そのあわぶくは、意識を攫うように勢い良く流れていく。


次の瞬間には、別の場所にいた。

見慣れない一室。

窓も扉もなく、一面は白い壁、その壁を支配する数多の鏡。

天井にはシャンデリア。


部屋の中央には、一つの椅子。

気づけば、そこに座っている。


目の前の鏡を覗いた。

自分は映らない。


けれど、映されていた内室が歪んで

そこに映像が流れていく。


幸せそうな自分だ。

仲間とこの世界で、幸せに旅をする自分。

最初は一つの鏡にそれが映し出されているだけだった。


それなのに、一面にある数多の鏡全てに

自分の記憶にはない仲間と人々の軌跡。

そして幸福な自分が映し出されていった。


灯されていたシャンデリアの光のみが頼りだった。

それは、嘲笑うみたいに暗がりへ葬り

私に落ちてきて椅子ごと赤く染めた。


飛んだ赤は、鏡も穢す。

そこに映るのは、全て死にいく自分だ。

そんな事、私は知らないのに。


赤の水と化した形を持たない私は、

ぼんやりとそんな事を思う。


「これがお前の全て。

ちゃーんと見よーぜ、まだ気が遠くなるには早いからよ?」


軽い口調で、形を無くした私を見下ろす。

白髪に純黒のスーツに身を纏う、ツギハギのエリス。

もちろん、瞼も縫い付けられていて

何を考えているのか読み取れない。


「あーーー。血み泥のお前は滑稽でいいけど。

こっちのが、様になるかも……な?」


嬉しいそうに口角を上げて、不気味に鼻歌なんて歌う男は指を鳴らす。


一瞬で、私は人の形を取り戻した。

しかし服装が、どう考えても着ていたものではない。

まるで白装束、亡くなった人に着せる衣ではないのかこれは。


「……こうしねーと、今までのお前は報われない」


軽快さを無くしてボソッと喋られるものだから、聞き取れない。

全く、何がしたいのかも理解不能だ。

男は少しイライラしながら、ぶっきらぼうに先頭を歩く。


「時間軸を、また彷徨うんだ。

いい加減慣れろ。何度繰り返してると思ってやがる……たく、俺はここの案内人じゃねえってのに」


「……ごめん。私、よくわからない。

今の状況も、自分のことも」


男はバツが悪そうに、舌打ちを鳴らす。

機嫌が悪そうなのに、これでもかと縫われた瞼を吊り上げてまるで笑顔を作る。

そして、こちらに振り返る。

これでもかと、グイグイ顔を寄せて。


「儀式。お前がちゃーんと、贖う為の……なッ?

ハハハ。

ほーら、アテシーが繰り返してきたお前の為の歴史だぞ。これ全部な」


「……?!!

み、見たくない!」


何故かとても動悸がして、胸が苦しくなった。

鳥肌が全身止まずに、冷や汗まで出てくる始末。

憶えもないのに、心に刻まれているみたいで

それを思い出してはならないと頭の痛みに顔を歪めた。


「しっかり見んだよ。お前の為に用意されたんだろーが」


長い暗い廊下にずらっと並んだ鏡の一つ。

それに、無理やり見せつける様にエリスの手に顔を掴まれた。


そこには、創生と破壊が幾多ものこの世界で繰り返されてきた軌跡が映されていた。

何度も、何度も。

何度も何度も何度も何度も何度も……。


「繰り返、されてきたのッ…?!

私は!!!!!!そんな事、頼んでないのにッ!!!あああああぁぁぁぁぁあ!!!」


頭突きで鏡を破壊する。

白の衣は、また赤が滴る。


そのままズルズルと、崩れ落ちる。


それだけ、沢山の命が死んだのだろう。

それだけ沢山の仲間が死んだのだろう。

それだけ沢山の厄災が人々を苦しめた事だろう。


「アテシーは、私をどうしたかったの?!!!

苦しめたかったの?

何も出来ないと、絶望させて嗤いたかった?

こんな事を、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も?!

繰り返したの?!!」



エリスに思わず掴みかかる。

男は、宥めるでもなく怒るでもなく。

淡々と告げる。



「愛していたんだよ。お前を」



「は………?」



アイ?

愛しているだって?

沢山殺してきたくせに?

見殺しにしたくせに?

奪ったくせに………。



「良い顔してんね。

罪だよな、人間を……しかも死ぬ運命を背負う奴を愛しちまうなんてな。

…こうして、元創造神のせいで過去も未来も、

全てお前を軸に廻るようになったって訳!

OK?」



鷲掴んだ襟を、手放す。

わからない。

そこまでして、世界さえも巻き込んで。

それでも、愛していると言えるのだろうか。


答えは簡単にくれないこの男は、

容赦なく嬉々として続けるのだ。


「でも、アイツは元創造神だろ?

つまり?新しい神を世界は欲してる。

誰だと思う…?お前?いーや、違うね。

この俺だ」


私には、関係ない。

だってもう私は死んでいる。

そして私のことが嫌いらしいこの男が、本当に神になるならば。

私の事など、わざわざ自分の世界に引き入れる訳ないと踏んでいるからだ。


「だーかーら。自分は何一つ関係ねえみたいな面してんじゃねぇよ。

お前を憎んでるってんだろーが。

簡単に手放しになんて、してやんねーよ?」


首を鷲掴みにされて、そのまま問答無用で廊下を進む。

足が宙に浮いたまま、その手から逃れられずに

エリスを睨んだ。


「ハハッ、アテシーみたいな緩いやり方はやめやめ。

記憶の継承は必須と。それからー、お前がされたら嫌な事ぜーんぶしてやんねーと気が収まらねぇしなぁ」



「……ッ。や……め…ろ」


「もう遅いって。

また、バッドエンドで会おうーぜ?」


その廊下は、先がなかった。

具体的には、崩壊していて足場の先がなかった。

落下すれば奈落の底行きだろう。


エリスは、あろう事か

首を掴んだまま宙ぶらりんの私をそこへ連れて行く。


風が底から唸りを上げている。

落ちれば、どうなるかわからなかった。


「いってらっしゃい、救世主ぎぜんしゃ

この世界でも、お前が救世主たらん事を」


パッと、その手を離す。

奈落へと落ちるこの身は、風に身を預けるしかない。

見下ろすエリスの顔が、遠ざかっていく。


ーーついに、光が差し込まぬ暗闇に呑まれた。


奈落を覗く男は、その行く末を見届けた。


「編生を、始めよーか。

また、世界に創生と破滅をもたらす為にな」


男は、その手にいつの間にか持っていたものを見る。

それはドクドクと、脈打つ心臓。

生きる為に、生命の神秘を継続している。

温かくて、簡単にどうにかなりそうな心。


それをただジッと、見つめて男もまた歩き出したーー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ