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第21話 数多なる成れの果て


孤高なる王の大罪の名は

【怠惰】であったーー。


分かりあう事、分かち合うことを怠り、

周りを傷つけたくないとはばかるだけ。

己が全てを背負い込んだ孤高の氷王。

それはまさしく、怠惰じこぎせいであった。


ニアは王と共に歩めるように

彼を竜化から解き放つーー。


竜とニアの間に聖なる光が集いゆく。

陽だまりのような温かい粒子は、凍えた世界を優しく溶かしていく。

それは、癒しや解呪の類ではない。

ーー悪いものを取り込み、吸収する。

救世主の力が戻り、それがゾディアスを救う鍵になれたのだ。


「………………。

礼を言う、救世主。」


「いやいや!何となくそうしなきゃならない気がして、何とかなって良かったよ!

あとお礼なら、リリーに言ってあげて!

……ください!」


(そう言えば、勢いとは言えずっとタメ口だった………今更感が強いが……)


「………………ふっ。

今更であろう。気にせずとも良い」


ニアゾディアスとして、向き合い理解を示し合う。


時に傷つけ合うとしても、

根底に優しさがあるならば。

私は、分かり合えると信じたい。


それがどんなに、裏切られても。

それがどんなに困難な道でもーー。


傍観者であった創造神アテシーもまた、

想いに耽る。

彼女もまた、神でありながらも自らが刻んできた数多なる世界を憂い、後悔する一柱であった。


【ワタシも、そうしていたなら君を………。

……でも、もう遅い………よね】


後悔は、していた。

けれど、最後にまた彼女に教わったのだ。

それで良い。

最後の最後に、ようやく辿り着けた答えに、納得して創造神は独りその息を引き取った。



両手を取り合うニアと、人に戻った王ゾディアス。

分かり合う事を選んだ最弱の救世主。

自らもそうありたいと心から望む王様。

寄り添う事を選択した、2名の間には確かな希望と友情が芽生えていた。




瞬間ーー。

逃げる隙など、ありはせず。

ニアの視界が赤に染まった。

赤い。ただ赤い。温かい。ぬるい、滑りけ。


鉄の匂い。

洞窟の時と、同じ。

フラッシュバックーー。


背後の何者かの剣は、ゾディアスの心臓を抉り裂いたーー。


返り血に塗れた。

ポタ、ポタと、ニアの頬、顎に伝って

溢れ落ちる。


「カハ………」


ニアにもたれ掛かるように崩れたゾディアス。

その重さを感じるまで、ニアの脳も身体も、全く動けなかった。


(……、

………、

ハッ…………)



「ニアッ………!!!!」


アレンの声が響く。

しかし、激しい動悸と動揺する心が反応を鈍らせる。

荒く小刻みな呼吸を正常に戻すよう何度も肩を揺らす。


「は、は、は……」


全ての動き、時間がまるでスローモーションのように映る。

そんな錯覚に襲われる。


ゾディアスを何とか受け止める。

けれど、血が止まらない。

止血の仕方など知らなかった。


祝福の力で、癒せないかと試す。

無理だ。

ニアは、魔法の類が一切使えないからだ。

確実に左胸が裂けている。

もう、どうにもならない。


恐る恐るその犯人を眼球だけで追う。

妬みと憎悪を纏った白髪の男が居た。

その髪を赤く染め切った仮面の聖騎士は、口元に着いた血痕を舐め取る。


「っぺ。まっず。

はー。いい子ちゃん演じるの、流石にもうだり〜わ。」


首の骨を鳴らす仕草が、似つかわしくない目の前のエリス

彼はゆっくりと、その仮面を外す。


双瞼は、縫い合わされており

その肌は所々縫い目で繋ぎ合わされていた。

目が見えないだろうに、一体どうやってゾディアスを殺したのか。


「…ん」


何やら、自身の眼を指差している。


「だーかーら!

救世主が見てるもん。俺も全部見えてんの」


意味不明な発言をする聖騎士では無かった筈だ。

少なくとも、最初の印象とかけ離れすぎていて

本人であることすら疑わしい。


疑心暗鬼に、瞳孔が揺れた。

エリスの手がゆっくりこちらに伸ばされる。

咄嗟に動けないーー。


「…ずっとこーしてみたかったんだよなー?」


ゆっくりと、まるで、飴玉でも転がすようにニアの眼球を舌でねっとりとねぶる。

動揺しているニアよりも先にアレンが動く。


「ッ医者でも、そんな気持ち悪いことしないぞ!!」


槍の、素早い突きがエリスを狙う。

しかし頭を掻きながら、余裕たっぷりに避ける。


「…だるいって、そーゆーの。

嫌がらせだよ、イ・ヤ・ガ・ラ・セ」


アレンは、槍を捨て外套がいとうの内側に仕込んだダガーを両手に持ち替える。


「そうか。なら、俺も嫌がらせさせてもらおーかな」


一糸乱れぬエリスは、無言で剣を構えた。


キーンーー

ガキィンーー!


重い金属音が響いた時には既に、剣とダガーは高速で交じり合う。

目で追えぬ速さの死闘は、一瞬も油断できない。

一歩も譲らない両者の殺気に、背筋が凍る。

その緊張感に、固唾を飲んだ。


シュキーンーーー


呆気ないと、エリスわらうだろう。

血飛沫が、噴水さながら湧き上がる。


アレンからだ。致死量の血液は、ゆっくりニアの足元も濡らす。


息継ぎが困難を極めるーー。


エリスは、勝敗を決してもアレンの後頭部を鷲掴み

思い切り蹴り込んだーー。

どこまでアレンが飛んで行ったかわからない。

何も理解が追いつかない。


もう、辞めたい。何もかも。


違う……!!!!そんな事思ってなどない!



しかし、身体が言う事を聞かない。

経験不足のニアは、たちまち殺されると理解してしまえば使い物にならなかった。


役立たずと心で自分を罵倒する。

しかし、動けない。

いつまで経っても動けない。

ノロマでグズ。


純粋な悪意に対しての、免疫がまるでないーー。



「お前のそれは偽善だ。

あーやだやだ。演技とはいえ、お前の肩持った自分に嫌悪感やべーわ。きっも。うえぇ。

…あ、ほら、お迎えだ」



エリスの言っている意味は、これっぽっちもわからないままだ。

しかし、彼が指を刺す方向を見やる。


辺りに風を巻き起こしながら

景色を飲み込んでいく黒い球体のようなものを捉えた。

それは、徐々にこちらも呑み込むよう範囲を広げている。


お迎えとは何を意味するのか、わからない。

もう、何も理解したくない。


「ハハハハハハハハハハ。

アテシーも死んだ。終末装置も機能しない。

独りぼっちのお前は贖い続けるしかねぇんだな」


「………………?」


「とぼけんなよ。

お前は永遠に時間軸を彷徨うんだよ。よかったな?

俺はね、ずぅうううっとお前が嫌いだったよ。

そんでようやく、俺の番が来たって訳。

精々楽しもーぜ、なぁ?救世主」



黒い球体は、まるで底の見えない暗闇。


闇は怖い。

もう、いい。

来るな、来るな、来るな!!!!


せせら笑う声が、闇から聞こえる。

罵詈雑言が、聴覚を、脳神経を侵す。


やめろ…。


有象無象が、たった1人を標的にする。

身体は持たないそれらは、沢山の目を張り巡らせる。


悪意、憎悪。

いやらしさ、めざとさ。

そんな目で、こちらを見ている。


やめろ。


獲物を見つけたそれらは、一斉に取り囲む。


『みーつけた』



叫びも、悲痛も誰にも届かない。

あるのは有象無象の不幸を呪う喜びそれだけ。



あっという間に、呑み込んだ。




bad endingバッドエンドーー。


実に都合の良い物語。

ぶち壊さずにはいられないだろ?


まだだ。

まだ、こんなもんじゃないだろう。

また廻りだすんだ。

巡り、廻る。

……そう決まっている。

アイツがそう決めてしまった。

なら、愉しむ以外無い。



ーーそうだろ?いってらっしゃい、救世主ぎぜんしゃ



これは、都合の良い夢幻のような世界。

幸せだった。

ずっと醒めなければいいのに。


……それを赦さない男の憎悪と共に、また時を刻み出すのだーー。

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