第2話 異世界は救世主に優しくない
いくら夢の中とは言え美女と一番最初に訪れたのがトイレとか本当あり得ない。
トイレで用を足し終え、手洗い場で思わず涙ぐむ。
洗面台に映る自分の姿を見ると、やはり寝巻き姿だ。
これじゃ、かっこつかないなぁ。
と言うか、これ本当に夢の中なんだよな。
一つ、頬を試しにつねってみる。
痛たたた。は、痛いのだが………。
木々が生い茂る森の一角に聳える教会で、罰が当たりそうなことを悶々(もんもん)と考えるがやる気を出すために両頬に喝をいれ外へ出た。
「……あのー。これって私の夢の中だよね?」
教会の外には、私の恩人?魔女ルフェリアと
教会の神父ぽい男が私のトイレからの帰還を待ってましたと言わんばかりに歓迎する。
「おおおお、この者が……。
……かの、救世主………?ですか?
お言葉ですが、ルフェリア様。
本当にこの者が………?
…とても言い難いのですが、この私アスナデ以下の脆弱者であると見受けますが…、はぁ。」
あれ、さっきの歓迎ムードは何処に?
ねえ、あからさまに残念そうにするなよ!
嫌悪感増し増しの眼差しで見てくるな!
この神父!すごく失礼だ!!
てか、私の質問には無視かよ!
「あの!だから、いくらなんでも私の夢の中でそう言うのはやめて!可愛いルフェリアだけで十分だからッ!」
落ちつけ、落ちつけニア。
笑顔を保つんだ!そう、ここは夢。
「そうね。説明不足でごめんなさいね。
うふふ、でもその前に、えい…!」
何処からともなく、魔法の杖を
出現させ私目掛けてそれを振り翳すルフェリアーーー。
思わず攻撃されたと思い、目を瞑るが、全く痛くない。
なんか、しゃわわわわーんみたいな効果音が聞こえた気がする。気のせいか。
「救世主、目を開けてご覧なさいな。
貴女の門出のお祝いよ。夢何かじゃ無いわ、これは現実。紛れもなく貴女は、この世界の救世主なのだから」
ゆっくり目を開けると、ただの寝巻きにスリッパ装備が
まるでゲームの主人公の初期装備にランクアップしていたーーー。
もちろん、見た目だけだが。
それでも、少し勇敢な気持ちが宿るような気がして心は浮き足立つ。
「え、な、何、何事………?
え、ええと、これが現実?!そ、そんな訳……」
「困った、救世主様ね?
貴女は、紛れもなく救世主。
………でもね、驚かないで聞いて欲しいの」
少し改まり、真剣かつ複雑そうな表情でルフェリアは続けた。
「……………ニア、貴女はこの世界から拒絶されている。
だからか、貴女は全く魔法が使えない体質みたいなの。
でも、一つだけ貴女が生き抜く方法があるわ。
祝福を集めなさい。確証は、ないに等しく
この世界を生き抜くのは残酷な選択であると思うわ。
でも、どうか希望を捨てないで」
絶句した。
ええと、ここは現実でなおかつ私は役立たずの救世主って事か。
言葉が思うように口から出てこない。
え、そんなことあるのか。
……………だって、どうやって生きれば。
まあ、でも。魔法ばかりが、ファンタジーの醍醐味じゃないしね。
うん、たぶん、大丈夫でしょ。
なんて、楽観的に捉えてみる。
だって、慌てても仕方ないもんね。
意味はわからないけど、百歩譲っても自分が主人公である世界線にやってこられたことは
そりゃもう、光栄極まれりなのだからーー。
願ったり叶ったりさ、生粋の厨二病からすればね。
「……えっと、ルフェリア?
でも、剣技とか他にさ。私が極められそうなことは流石にあるもんね!
大丈夫、大丈夫!そっち極めるからさ!」
呆れたとでも言いたげに、神父は
ルフェリアよりも先に残酷に告げる。
「救世主よ。
私アスナデが、先程伝えたことは覚えているだろう。
…オブラートに包まず、正しく言うと
弱い魔物以下なのだ。そこら辺に生息しているゴブリンにもスライムにも敵わない。
なんなら毒草に触れただけで死に値する。この意味がわかるかな?」
「……は、え、」
鳩が豆鉄砲を食ったような私に、さらに追い討ちをかけるように、意地の悪さを顔に滲ませ神父は続ける。
「クク…ショックに決まっている。
つまり、どんなに努力したとて鍛錬を積み重ねようとも、攻撃すら通らないのだからな。
そう、スライムすら、倒せないのさ……。
今のままではな。
それ程までに拒絶されているのだ、君はな。」
ショックのあまり、気づいたら膝から崩れ落ちていた。
スライムにすら敵わない。成長し甲斐がまるでない。
なら、自分の救世主としての存在意義は一体何だ。
なら何故、ニアはこの世界に救世主として喚ばれたのか。
魔女が嘘をついているようにも、思えない。
まるで、天国から奈落の底に突き落とされたみたいだ。
ルフェリアは、ニアを励まそうと優しく背中を摩る。
「アスナデも言ったでしょう?
今のままではと。
だから、祝福を集めるの。
何もしないとただ殺されてしまうわ。そんなの、貴女も嫌でしょう?」
「…嫌だよ、でも例えその祝福ってのが
本当に効果があっても。それをどう集めろと……。」
「それは……」
「お…、見つけたぞー。
間違いない。アイツが救世主だな。随分探すのに苦労したぜ、全く。」
ルフェリアが言い切る前に
草の茂みから、大きな倒木を担いで現れたのは聖女リリーであった。
「へー。王様んところの魔女に、神父と来たか。
………ところでテメェら、救世主に何をしたんだ。
なんで、コイツはこんなポンコツ雑魚になってやがる?!」
綺麗な顔立ちを怪訝な顔で歪め
その華奢な細腕は簡単に倒木を高速回転させる。
こちらに迫りくる聖女は、
ニアをルフェリアとアスナデから庇うように飛び割って入る。
回転しながら倒木は、勢いを落とさぬまま二人を薙ぎ払う。
見ず知らずの聖女は、何を勘違いしているのか
攻撃する手を休めない。
「ルフェリア!神父さん!
な、なんで二人を攻撃するんですか?!
この二人は、私の恩人で……!」
「ッ何バカ抜かしてやがる!
テメェは、アタシが後一歩遅く来てたら
死んでたんだぞ!!」
「……は、?そんな訳…」
「事情は知らねーがなぁ、あのエセ神父は
少しずつオマエの生命力を身体から出してる根っこで吸い上げてたようだぞ。アタシが断ち切ったけど、足元見てみろ。
それでも、神父の肩を持つのか?」
足元を見れば、引きちぎれた根っこが散乱していた。まだ少し足首に纏わりついているのも確かにある。
顔や身体中から血の気が引いて、よろよろと倒れた。
「ッフハハハハハハハハハ。
流石は、聖女リリー!私の吸血根は、貴女の読み通り
生命力を吸い尽くす。
………だけではないのですよ?
ルフェリア様を独り占めするなど、到底許せませんから。
ましてや、我が王の計画の邪魔になるかもしれない。
ならば、早々に希望の芽は摘まねばなるまい。
ハハハハハハ、まんまと騙されて無様だなぁぁ、救世主よ!!!」
「救世主!!」
聖女リリーが、手を伸ばすより先に
魔女ルフェリアがその腕で抱き止めていた。
「……まだ、駄目よ。ニア。
諦めては、駄目。
大丈夫よ、私が必ず助けるから。」
私にしか聞こえない声で囁く。
素人の私にもわかる、これはたぶん毒の類いだろう。
吸引された時に、どさくさに紛れて毒を流し込んだのだろう。
クソ、悠々自適な異世界ライフがまだ始まったばかりなのに……。
けれど、不思議と痛みはなかった。
ルフェリアのお陰、なのかな………。
視界がぼやけて、プツンと意識が途切れたーーー。




