第19話 創造神への叛逆
創造神とのファーストコンタクト。
正確には脳内会話であるが、
こんな最悪な状況にさえ、ソレは嬉々としていた。
私への悪意と明確な××ーー。
加えて、頭痛と、錯乱する意識は
自我を保つので精一杯だ。
体が震えた。
ただの寒さからくる、鳥肌ではない。
相容れない同士の接触に対して、嫌悪感の現れだろうか。
自分の全てが
創造神を拒絶している。
創造神もまた
私の全てを、存在自体を拒絶している。
【はぁ、はぁ、はぁ…さすがニアちゃん。
…ワタシを、心身全てで拒絶してくるね。
やっぱり、世界に1人だけのワタシの………】
何、少し嬉しそうに言ってるんだ。
それを企てたのは、そちらだろ。
一方的に、拒絶しておいて
されないとでも思ったのか?
【………………。
…うふふ。その体質、気に入ってくれたかな?
世界で一番役立たずなんだから、もう諦めて隠居してなよ!】
人が一番気にしてる事を、ズケズケと………。
本当に神様なの?
まだ、レシウスの方が真っ当だ。
【カッチーン!誰が、あの悪魔野郎以下だって?
ワタシはアイツよりも、もっと……もーーーっと!偉大な存在だから。】
痴話喧嘩紛いの会話を
脳内でやり取りするのは極めて危険である。
そんな当たり前の事さえ
言いたい事が山程溜まっていたニアは忘却してしまう。
それもそうだ。
何せ、自分を拒絶しておいて
いけしゃあしゃあと話しかけてきたのだから。
まるで親しい者同士のように、当たり前みたいに。
しかし、双蒼竜ゾディアスだけは
怒り心頭に発するのだ。
尋常じゃない、殺意は
全てニアへぶつけられる。
「何故ッ!神アテシーが救世主の味方をするのだ?!
拒絶すら、偽りであったのか?
………いや、どうであれ。
もう、後戻りはできぬ」
一瞬その瞳が、陰る。
悲しみ、苦しみ、孤独。
何かを背負った、孤高の王は
その重積を自らに課すのだーー。
「我、汝へ叛逆せし厄災其の物。
名を、双蒼竜ゾディアスなり!!!
世界を再建すべく、神をも討ち砕く者である!」
その体の大きさに似つかわない素早さで
尾を振り回す。
冷気が込み上げ、自らの姿ごと飲み込めば
ニア達の視界も再び塞がれてしまう。
背後から聞こえる、アレンの声だけが頼りとなる。
「ニアッ!大丈夫かッ?!」
「ッ!だ、大丈夫!!
その、実は………。
脳内に……っ創造神が話しかけてきて。
そのせいで、頭が痛くて……」
「………は?
な、何で今?!」
……普通その反応だろう。
この最悪なタイミングをあえて見計らったのなら
とんだ神様だよ、ホント。
しかし、容赦なく荒れ狂うゾディアスは、攻撃を休めることはない。
冷霧で視界を遮られ、ニア達は思うように動けず
冷気によって体力が奪われていく。
【ニアッ!!……このままじゃ死んじゃうよ!
何躊躇ってんの!とっとと、祝福を使って。
…あんなの簡単に殺せるでしょ。】
違う……。
ゾディアスを殺したい訳じゃない。
言葉に言い表せない、この胸のざわめきが
そうするべきではないと警鐘を鳴らす。
まず、アテシーの言う事を信じてはいけない気がする。
けれど、ゾディアスの攻撃を今食らえば私も世界も本当に終わるだろう。
祝福を行使する以外に、抗う術がないーー。
【…君は、優しいから。
相手が悪でも、その行動原理を理解しようとしてしまう。
良いところでもあり、悪いところでもあるよね。だから………】
なら、少しはどうにかしてよ。
神なんでしょ?
【………。
…………、ッごめんなさい!お願いします!
ワタシを助けてえええええ!】
創造神から返ってきた返事は、
こちらの想像の斜め上を過ぎていった。
助けて?
それは、こちらの台詞だ。
そのSOSは、流石にあり得ない。
というか、やっぱり上手い事利用されそうだったのか………?と呆れた。
手短に、話せば聞かない事もない……かも。
などと、可哀想だと思ってしまう己の甘さ加減には自分でも頭にきた。
けれど、同時に心に何かが引っかかる。
【……じっ、実は、君らが戦う数刻前の話だ。
ゾディアスにマディスを冷却されて、
ワタシごと血みどろ機能不全にされたんだ。
それだけじゃない。
ゾディアスは、あろう事か神竜になった。
君の推察通り、神に昇華したんだよ彼はね。
つまり、利用していた駒に
まんまと裏切られたんだ……。
可哀想でしょう?】
自業自得。
同情など一切ない。
なんなら、ゾディアスの肩を持つよ。
【……な、なら!交渉だ!
実はまだ、ゾディアスが凍らせた人々は
蘇ることが可能だ。
ワタシのことも助けてくれれば、君の仲間も人々さえも助けられる。
………その代わり、
ゾディアスを殺してくれ。どうかな?】
ようやくわかった気がする。
ゾディアスの行動理念を。
いずれ厄災で人々は苦しみ、この世界を保てないと思ったのではないか。
だから最悪を齎される前に、再建の道を選んだ。
それが、人類にとってより良い選択になると信じたから。
だから、ゾディアスはこの世界をやり直そうとしたんじゃないのか。
必要悪に、なることを選んだ。
仮に、神が先ほど言っていた通り
凍りついた人々が蘇るなら。
同じく神に至った、ゾディアスもそれが叶えられるだろう。
もしそこまで、計算してのことなら。
創造神に歯向かう理由に、成し得るのではないか。
ーー何故ならば、ゾディアスが明確に
殺意を露わにしたタイミング。
それは、アテシーが語りかけたその時からだ。
おかしいと思っていた。
これ程まで、強大な力を持ってしても
私は殺されずに今も生きている。
創造神に命じられていただろうに、
それでも結果として私は冷却されずに生きている。
ユムリが、言っていた言葉を思い出す。
「………簡単に殺してあげないよ」
いやいやいや。
私は、弱い。
誰よりも弱い。
スライムすら倒せない雑魚にされたのだから。
自負せざる得ないほど。
簡単に殺せる程弱いのに……?
何故?
簡単に殺せるからなら、痛ぶって弄んでやろうとかいう、サディスト思考だから?
あまりに脆くて、可哀想だから?
残虐に葬りさりたいから?
メインディッシュは最後に取っておく派だから?
どれも違う……と思うのだ。
わからない。
わからないことだらけだ。
でも、だからこそ。
やっぱり、ゾディアスとーー。
そのために、私はこの祝福を行使するーー。
【……ようやく祝福を行使してくれる気になったか!さっさと倒してよ!救世主ちゃん!】
あぁ、そうだね。
創造神。
私は、やらなきゃならない。
【聖女の祝福の行使を、
神アテシーの名の下に許諾します。
それに伴い……
一つ………制限時間は、設けないものとす。
二つ………二度目の使用は不可とする。
三つ…………一時的に、取り上げた救世主の力を解放するものとす。
……行使しますか?】
「………行使する」
【……行使を許可します。
祝福を以って義務を実行する(ベネディクトィオ・オッフィキウム)】
………ありがとう。アテシー。
お陰で、制限時間なく
この力を行使できるんだね。
ニアは、口元を手で覆った。
肩を震わせて、何かを堪えるように。
「…………ッふ」
一気に天を仰ぎ見た。
今までにない程、腹から声を出して笑っていた。
「ッアハハハハハハハハハハハ!!!」
寒気が、飛んだ。
自分でも、正気かと疑った。
けれど、これで良いと不思議と己を信じられた。
私は、私の心の向くまま。
自分を信じて、行動しようと決めた。
だからーー。
必ずゾディアスを正気に戻すーー!
創造神の思い通りになど、させるものか。
自分の意思を持って、
何を為すべきかを見極めるんだ。
それが、間違いだったとしても
そこに希望を見出すために。
今までにない嫌悪感を露わに
ゾディアスの爪は冷気を切り裂いた。
それは、ニアへ向けられたものではなく
神アテシーへの叛逆の一撃であったーー。
ニアは、逃げなかった。
再度、その刀を持ち直す。
息を吸って、吐いて。
ーー霧が晴れ、両者が向き合う。
「我は救世主!
この世界を救済するべく、召喚されし異邦人である。
双蒼竜ゾディアス!
……とことん、闘うぞ!!!」




