第11話 砂漠に埋もれた男
失った仲間。忍び寄る厄災。
それでも彼女達は歩みを止めない。
救うべきものがある限り――。
拒絶された救世主一行、王と覇剣四従徒へ挑む。
《リリーが、捕えられた。お前達にしか頼めない。王都へ急げ。》
それだけが綴られた、不穏な内容の手紙。
送り主は冥王ハデスからだった。
ハデスの遣い魔【デュラハン】とその黒馬がエルフの集落まで送達してきたのだ。
黒馬の鬣を、ルフェリアが労るように撫でる。
「……厄災の穢れを感じるわね。ハデス様に何かあったみたい。」
「なるほど。リリーが、捕らえられたのか。
ついに、【神託議連団】も動いたのか?僕らにしか頼めないと言うことは、かなりマズイことになったようだね。」
不穏な空気を、ルフェリアの一言が
さらに重さを与える。
「王都。もしかすると、厄災を収める鍵をお兄様。…王ゾディアスが詳しいかもしれない。
厄災の研究をしていると、噂で聞いたことがあるの。だから……」
「…王が?!マディスと関わりがあるとは、思っていたが……。そんな直接的に?
と言うかルフェリア!何故そんな大事なことを今まで黙っていたんだ。」
レシウスの問いに、申し訳なく俯く。
理由がある事を悟ったニアは、
ルフェリアに寄り添う様にその手を握る。
そっと、ルフェリアもその手を握り返した。
「怖かったの…、もし信じてもらえなかったらと思うと。でも、信じてほしいの。ニアを思う気持ちに、
嘘は一つもないから。」
「うん。ルフェリアは、私の命の恩人だよ。
信じるに決まってるよ…!
だけど、今それを打ち明けてくれて、よかった!」
「ニア……。ありがとう。
私は、どんな事があっても貴女を守り抜くわ。」
「ほっほっほ。
良き良き、そうしたらニア殿達の新たな目的が決まった様じゃなぁ。
わしらは、王都へ向けて馬を貸すくらいしか出来ぬでな、旅の行く末が良いものであることを祈っておる。」
「ニア、私もこのエルフの集落を厄災から守らねばならない。
これより先は助太刀できぬが、心は共に在らんことを。」
「ありがとうございます、長老。スフィアも、短い間だけど、助けてくれてありがとう。
……そしたら、私達は王都へ向かおう、みんないいよね……?」
「娘の目的は、我の目的である。
無論だ。」
「僕もさ!まさかまた、王都に戻るとはね?
バアルにだけは会いたくないな!」
「もちろん、私もよ。
迷惑をかけてしまった分も含めて、ニアのために、必ず役に立ってみせるわ。」
捕らわれた聖女リリーの奪還。
そして、厄災の研究をしていると言う王ゾディアス達の真偽を確かめるため王都潜入を目指し
集落を後にした。
* * * * * * * * *
王都へ向かう道中、
砂漠までの道のりをひたすら馬に乗り進んでいるとどこからか力無い声が聞こえてくる。
「………何か、声が聞こえない?」
ニアは、耳を澄ましてその声の正体を探る。
「アッハハ。こんな砂漠地帯を渡り歩く人など、珍しいんだよ?
普通は、馬とかに乗って移動するものだからね!人なんて、そこら辺に歩いてるわけ……」
「うわ、上半身埋まってる!!!
た、助けないとッ!!!」
なんと、砂漠に身体半分頭の方から突き刺さったかの様な体勢で埋まる男性が出現した。
声の主は、恐らく彼だろう。
少し面倒くさそうに、シーザがその両足を引っ張り上げる。
流石、神竜。全ての力は戻らずとも
その腕力は、人間離れしていた。
「フン。寛大な、我が娘に感謝するのだな。
……おい貴様、何故外套の内側に大量に刃物を仕込んでいるのだ。」
「う、うぅ……ハッ!
あれ、俺の妹は!?何なんだ!アンタら!
……!!!カイル!!!無事だったのかぁ…っ!良かったぁ、お兄ちゃんはてっきり捕まったんだとばかり……で、この人達は一体?」
シーザに足を掴まれていたはずの男は、その手をかい潜る。
するとニアを誰と勘違いしているのか、身体の隅々をくまなくチェックし始めた。
シーザと、ルフェリアの殺気の眼差しの的だった。
そんな事にすらお構いなしで、ニアにベタベタと触りまくる。
「おい、貴様………。
我が娘にベタベタと触れおって。
タダで済むと思うなよ。」
「ええ、神竜様の言う通りよ。
勝手にニアの身体に触らないで。
消し炭にされたくなければ………。」
シーザは、その男の頭を鷲掴み
ルフェリアは杖で威嚇した。
しかし、当の本人は全く悪気のない態度である。
けれど、男からは本当に慈愛の籠った眼差しがニアに向けられていた。
つまり、本気で妹であると勘違いしている。
そして、本気で妹のことが心配であることが理解できる。
「お、お前こそ!
俺の妹の名は、カ・イ・ルだ!!
このクールな顔立ちと、芯の強さを感じる眼差し。間違いない、俺の妹だー!」
(だから他人の空似だよッ!)
「アハハ!申し訳ないけど、彼女は君の妹ではないよ。
世界を救うために別世界からやってきた、救世主だ。」
「ははは!俺の妹も大したもんだな!」
(おい、全く話が通じないよ!この人!)
「あの、というかなんで貴方は
こんな所に埋まってたんですか?」
そもそもニアは、埋まっていた事に疑問を抱いていた。
普通に歩いているだけでは
まず埋まることなどないのだから。
「あ、あぁ。それは、
お前が王の仲間に捕まったから、助けに行こうとしていたらな!
王都に着いた瞬間、機嫌の悪い少女が
"ワシちゃんイライラするー!えーい!"…と、爆発に巻き込まれてな!」
(多分それ私らのせいかも。
なんか、ごめん……。)
「ハハ!つまりは、君の本当の妹は
まだ王都で捕まっているんだね。」
「…魔術師。冗談でも笑えないぞ。
訂正しろ、俺の妹はここに居る。」
「だーかーら!!私は妹さんじゃないんだって!!!シャラープッ!!!」
「へ?で、でも。
え、これマジ。」
ここに居る皆が、頷く。
「………。待っていろカイル!
今すぐお兄ちゃんが助けてやるからな!!」
などと、意気込んで王都に向かおうとする
男を止めるようにレシウスが外套の裾を足で踏みつける。
「ハハハ、どこに居るともわからない妹さんを、1人で危険を冒して探すより
ここは一つ、僕達と協力しないかい?」
「何故?
俺は、強い!1人でも十分だ。
さよーなら!!」
今度は、4人でその外套の裾を踏みつける。
「お、お願いします!
私達の仲間も、捕らわれているんです!
協力して、もらえないでしょーか!!」
「………、それなら仕方ないな。
妹……、のためだからな。
うん、その顔に免じて協力しよう。」
シーザと、ルフェリアの殺気が倍に増した。
気のせいであるといい、とニアは思った。
「……おっほん!
俺の名前は。アレンだ!25歳の槍使いだが、ナイフを扱うのも得意だ!
妹のために、王を打倒しようではないか。」
その瞳に嘘偽りは無い。
砂に焼かれた黒い虹彩が、王都に捕らわれた
ただ一人の家族の姿を映している。
そして、行動を共にする仲間が1人増えたことはありがたい。
王が従える【覇剣四従徒】は、手強いだろう。
そして一行は砂の稜線を越えた。
王が従える覇剣四従徒。
大剣のバアル、月下美人、そしてまだ名も知らぬ2人の影が、王都のどこかで息を潜めている。
ーー神に抗うため、王都へと進んだ。




