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2.1 部員獲得大作戦!①


 俺の名は黒崎シロー。ペン回しが得意な、ちょっと異端な高校一年生だ。


 翌日の放課後、破天荒ギャルの(いぬい) 涼夏(すずか)が部室の空き教室に顔を出した。ペン回し部念願の部員獲得に、ユニ助は大変喜んでいた。


 乾はとても背が高く、金色に染めたふわふわのショートボブが大型犬を連想させる美少女だ。中学時代はバレー部に所属しており、持ち前の運動神経もあっていろんな部活の助っ人として活躍していたらしい。それを、ギャルやりたいから辞めるという恵まれた才能をドブに捨てるイカレた決断をした上に、何を血迷ったか現在ペン回し部に所属している。


 乾もといパー子は空き教室の机に数種類のお菓子を広げていた。ガラクタだらけで薄暗い部室に、甘い香りが漂う。その通学鞄には教科書よりもお菓子の方が多く入っているんじゃないか?


「結局、何で公認されてないんだっけ?」


 俺たちが抱えている直近の課題をパー子が訊ねた。ミニドーナツをつまむと、午後の紅茶無糖で流し込んだ。


「一番は部員がいないからだな! 昨日オニヅカのヤローに『2人だけの部活など、存在する価値がない』って言われてよ! ムカつくぜ!」


 ユニ助は声が低いだけの下手な物真似をした。とても背が低いので、パー子と並ぶと歳の離れたきょうだいに見える。ユニ助はポテチを無遠慮にわしづかみしてバリバリとむさぼっている。


「あははっ、似てねー! え、何人足りてないの?」


「5人必要だから、あと2人だな!」


「なんだ、そんなことでいいの? ちょっと待ってて!」


 パー子はスマホを取り出して軽く操作したと思うと、スピーカーを耳に当てた。誰かに電話をかけているらしい。


「――おっすー、今どこ? ……あーはいはい、今菓子パしてんだけど来る? いやー、めっちゃいい場所見つけてさ! そそ、学校で! おお! おっけー詳しくは後でねー!」


 通話を終えた乾は優雅にスマホを置くと、仕事ができるオンナみたいな風情でふわふわのショートボブを手で払った。微妙に腹立つキメ顔をしている。


「ツレに連絡したから、もうすぐ来ると思うよっ」


「どこに集まるか言ってなくね?」


 俺はそう言って新しいじゃがりこをくわえた。ふん、ココアシガレットはどこだ?


「しまったー! ナイスシロー!」


 シローって呼ぶな。


 パー子は再び電話をかけてこの空き教室の場所を教えている。頭がパー子。


 数分も経たないうちにドアがガラリと開き、二人組の女子生徒が入ってきた。クラスは違うがどちらも見覚えがある。廊下でパー子と歩いている女子だ。


「すごー、ここって空いてたんだ」


 そう言って入ってきた女子は、栗色の髪を肩まで伸ばして二つに結んでいる。袖を余らせたクリーム色のカーディガンから、つやつやとした爪がのぞく。近づくとふわっとした洗剤のいい匂いがする。おさげ髪があざとく、順当に男受けするタイプだ。


「よーすずー、それ誰? 彼氏?」


 後に入ってきたもう1人は黒髪のウルフヘアで、なぜかブレザーの代わりにウインドブレーカーを羽織っている。解禁したシャツの首元に、銀色に光るネックレスがちらりと見える。普段は隠しているのだろう。


「あははっ、ないない! ほら昼に言ったじゃん、例のペン回し部!」


「あー、彼氏ね」


「だから違うってばぁ!」


 俺の知らないところで俺たちの存在がなんだかくだらない話のネタに使われている。ダル絡みを続けるそいつを振り切って、パー子は強引にご友人の紹介を始めた。


「これがミヨで、こっちがシズカ! どっちも私のマブダチ!」


 ウインドブレーカーがミヨで、おさげ髪がシズカ。


「シロー、マブダチってなんだ?」


「私は頭がパーですってことだ」


「はあ? うっざこのロン毛。そんなわけないじゃん」


 パー子はこちらをひと睨みすると、友達に向き直った。


「ここペン回し部の部室らしくてさ、部員になったらいつでも使えるってわけ! どう、ペン回し部入らん?」


「あ、どうも! ペン回し部部長の遊任ゆに 或波あるはです! ようこそペン回し部へ! このロン毛も一応部員で黒崎シローってーんだけどもよ、もしキモいからヤダとかいうんならいつでも追い出す準備できてるから遠慮なく言ってくれ!」


 さすが単細胞。可愛い子が絡むとこれだ。追い出すのはもちろんギャル連中でいいんだよな、相棒?


「めっちゃいいじゃん。え、どうするミヨ?」


「やろうよ。うちペン回しとかめっちゃ得意だし」


 ギャル連中も乗り気でユニ助が出した申請書に名前を書いている。ぐぬぬ……このままではこの部室がギャルのたまり場になってしまう。


 部員5名の枠を埋めた申請書を持って、職員室に向かう。大塚先生は今にも湯呑みを握りつぶしそうなおっかないしかめ面をして小テストの採点をしていた。例によって俺たちが姿を現すと、大塚先生は大きなため息をついた。


「却下だ」


 大塚先生は申請書をチラリと見て言い捨てた。赤ペンを置き、湯呑みを煽ると大きく伸びをした。肩や背中の関節がパキパキとくたびれた音を鳴らす。筋肉質で大柄な体が一層膨らんで見えた。赤く日焼けした肌に、いかつい顎髭とパンチパーマ。人間と鬼のハーフだと言われたら疑いもせずに信じるだろう。


「なっ、なんでですか! ちゃんと部員集めたでしょうが!」


「名前を貸しているだけの部員など、数に入らん」


「そんな! みんな本気でやりたいって思ってますよ!」


 すると、大塚先生はパー子の影に隠れるようにしているシズカを見た。


みなもと。この部活の存在意義を言ってみろ」


 シズカの苗字は源というらしい。名指しされたシズカは困ったように視線をさまよわせた。シズカは両手の指先を合わせながら、控えめな笑顔をして言った。


「……絆、的な?」


 大塚先生がどんな顔をしたか、説明するまでもないだろう。


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