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ペン回し部は廃部です!  作者: 中二病でも小説が書きたい!
第三章 遊仁或波の野望
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6.3 遊仁或波VSオメガマン③

お待たせしてすみません。展開に行き詰まったため、生意気にも1ヶ月以上投稿を休んでしまいました。完結までの大まかな流れは考えているのでネタ切れではないです。時間ができたので投稿を再開していきますが、不定期になりそうなのでブックマーク登録を推奨します。

 

「同好会潰し……」


 俺はその言葉を繰り返した。この高校で同好会を作ろうとするとクラスで孤立させられる。兎澤先輩の唱えた陰謀論が、まさか実在するなんて。多数の運動部風の男子どもを従えたリーダー格のそいつは、あざけるような表情で俺たちを挑発していた。冷たい沈黙が流れる。


「――なんつって! 冗談冗談! そんな大昔の伝統興味ねーから!」


 そいつは、シリアスな雰囲気から様子をパッと一変させて明るいトーンで言った。人なつこそうに笑うと、作り物みたいに真っ白な歯がのぞき、途端に場の空気が弛緩する。背が高くガタイがいい。健康的に日焼けした肌に運動部特有の精悍な顔つき。きついパーマをあてたツーブロック。その前髪の毛先やしゃんとした背筋、使い込まれているが決して汚れてはいないシューズの爪先に至るまで全身からみなぎる堂々とした雰囲気が、やつがクラスの一軍の人間だと物語っていた。


 よく見たら俺たちを囲んでいる取り巻きたちも、ただ近くにいるだけで特に威圧もしていない。……ところで、今大事なことを聞いたような?


「伝統?」


 違和感の正体を口に出す。独り言のていでそれとなく訊くと、そいつは俺の方を見た。……が、無視される。まあいい。


「それより俺はユニスケクンと勝負したいんだ!」


 そいつは人の良い笑顔をまっすぐユニ助に向けた。おぉ、俺がつけたあだ名が別のクラスの陽キャにまで浸透してる。


「俺?」


 ユニ助はアホ面で自分の顔を指差す。


「そう! あぁ俺、芽ヶ崎(めがさき)な! 俺サッカー部だけどペン回しが大の得意で、中学じゃ無敵だったんだ! だからユニスケクンみたいなペン回し上手いやつ見るとワクワクしちゃってよ! 自分の力試したいっつーか!」


 芽ヶ崎はブレザーの内ポケットからペンを取り出して、無造作にハーモニカルフルーエントソニックを繰り出した。ペン先がリズミカルに滑らかな軌道を描く。それはありふれたDr.グリップで、持ち手がほどよく色褪せている。よく見るとクリップ部分がなくなっていた。なるほど、これは手強いかもしれない。


 クリップ欠損カスタム。お目にかかるのはこれが初めてだが、機能を犠牲にしてペンの操作性を高める流派がいることは知っていた。その様子ではフリシャー機構を司る鉄芯も当然抜いてあるだろう。重い鉄芯は重心を制御する上でノイズになる。諸説あるだろうが、俺はこの2点を省いたドクグリこそがペン回し用ペンの最適解だと思っている。


「うおおおおっ! すばらしい情熱だっ! いいぜっ! 受けて立つ!」


 ユニ助は椅子から立ち上がった。受けて立つったってお前……。


「おいアホ、突き指はどうした」


「だーいじょぶだよこんくらい! それに、ここで受けなきゃペン回し部やってる意味がねえよ!」


 振り返ったユニ助の顔はとても嬉しそうで、水を差すのも野暮な気がした。それに、ペン回しに限ってコイツは俺の手に負えない天才なのであまり強く出られない。


「よっしゃ! さすがユニスケクン! じゃあ勝負だ!」


 芽ヶ崎は素敵な笑顔でパチンと指を鳴らす。わざとらしい仕草も、コイツがするとなぜか絵になる。爽やかなヤローだ。


 すると、周りが騒がしくなる。学年中の生徒を収容してあまりあるだだっ広い宴会場の一角にいる俺たちを中心にして人が集まり出した。 


「あれ芽ヶ崎じゃね、何の騒ぎ?」


「芽ヶ崎がペン回し部の部長とバトルするらしいぜ!」


「なんだよペン回し部って」


「ヤバいな芽ヶ崎」


「相手誰? チビすぎん?」


 人が人を呼び、ちょっとした祭りの様相を呈していく。集まった連中が口々に芽ヶ崎の名を呼ぶので、やつの顔の広さが分かる。当然ペン回し部の知名度など比にならない。完全にアウェーだ。その騒ぎの中でこんな台詞が聞こえた。


「芽ヶ崎対ペン回し部、存亡をかけた大勝負!」


「おいそれは――」


 話が大きくなっている。反論しかけたユニ助の肩を芽ヶ崎が掴んで座らせる。


「い〜んだよ言わせときゃ! 注目されたぶん人増えて部員獲得のチャンス上がんぜ!?」


「なるほど!」


 周囲に野次馬が集まり、俺たちというかユニ助が座るテーブルを中心にしてドーナツ状の人だかりができる。俺はその最前列からかろうじて一歩前に出る。暇を持て余した男子どものざわざわとした話し声や、好奇の目が向けられる。それを見回して満足そうな芽ヶ崎は、やはり作り物みたいに真っ白な歯を見せてユニ助に笑いかける。


「よーし、始めっか! まずはルール決めだな! 1分間でなんかの技を多く回した方が勝ち! 技はそうだなー、ダブルチャージでいいか!?」


「よかろう! なんでもかかってきなさい!」


「さすが! そんでユニスケクンが負けたらペン回し部は解散な!」


「よか……はああああ!?!?」


 景気良く頷きかけたユニ助は、すんでのところで踏みとどまる。綺麗な二度見。ユニ助が視線で訴えるが、芽ヶ崎はキョトンとした顔で左右を見た。


「え? だってそういう話だったよな皆?」


「あー俺はそんなふうに聞いたぜ」


「だから面白そうで集まったんだ」


「いいから早く戦ってくれ!」


 ……マズい、嵌められた。気づいたころにはもう遅く、場の空気が魔物のようにその姿を変えていく。逃げ場なく周囲を取り囲んだギャラリーが視界を狭め、勝負を煽る声が耳の中で反響して意味のない雑音を思考に流し込む。じりじりとした焦燥が俺の心臓に手をかける。遅刻しそうなのに間違えて別の電車に乗ったみたいに、取り返しのつかない、良くない方向に話が進んでいる。


「おい……おい芽ヶ崎? そりゃーひどくない?」


 ユニ助がひきつった苦笑いを向けると、芽ヶ崎も笑った。それは肉食獣の威嚇のような凶暴な笑みだった。


「どしたユニスケクン? 今さら逃げるんか? こんな大勢の前で? 部長がそんな腑抜けじゃそれこそペン回し部はオシマイだな」


「騙したな!?」


「はっきり言ったはずだぜ? 俺たちは同好会潰しだって。ペン回し部? ハッ、笑えるぜ。日陰モンがお遊びで部活ごっこやりやがって、目障りなんだよ」


 俺たちにだけ聞こえるような小声で芽ヶ崎が罵倒した。背が高くてサッカー部で頭が切れて友達も多い。ユニ助が持ってないものをこいつは全て持っていて、その上ペン回しまで達者と見える。世の中不公平だ。ついでのように巧みな話術に乗ってしまいそうなユニ助を止めるべく俺は2人の間に割って入る。


「なに1人で盛り上がってんだよ。そんな勝負知るか」


 俺は芽ヶ崎を見上げるようにして睨みつける。俺より背が高いし筋肉もあるから殴り合いになったら勝ち目はない。でもそれは退く理由にはならない。俺は人が好きなものをバカにする奴が嫌いだ。それがなんであれ本人にとっては大切なものなんだろうし……俺にはそれが何もないから。


「負けたら解散? 恥も外聞もないうちの部長がそんな口約束バカ正直に守ると思ってんなら傑作だぜ」


「シロー?」


 精一杯の虚勢を込めて挑発したつもりだが、芽ヶ崎は表情を変えない。それどころか「それはないな」と冷静に反論してきやがる。


「同好会潰しの力はお前の想像以上に強い。解散した部活に入ろうとする不届者には制裁が下される。それに、むしろお前らは感謝すべきだぜ、ペン回し部の社会的な死だけで済ませてやる俺のやり方にな。()はもっと過激って聞くからよ」


「昔?」


 ユニ助が訊く。芽ヶ崎はまるでそれを待っていたように語り出す。


「ああ、ちょうどお前らみたいに変な部活作ろうとしたやつらがいてな、その代の先輩はもう、シンプルにそいつらいじめたらしい。徹底的に孤立させて、最後は部長に申請書破らせたんだと。エグいよな。えーと何部っつったっけ、ペン回し部みたいなふざけた部活でな、あぁそう、ヨーヨー部だ! まぁ噂じゃほっといても普通の人生なんか送れなそうなヤツって聞いたしむしろラッキーじゃね? 高校生活諦める理由できて。ハハッ」


 かっと頭に血が上る。だが、ここで勝負を受けるとこいつの思う壺だ。普段のユニ助ならいざ知らず、指を負傷している今の状態では、負けたら解散なんて馬鹿げた勝負は絶対に受けるべきじゃない。芽ヶ崎は衆人環視の下でルールに基づいてユニ助を処刑しようとしている。だが、勝負に乗らない限りそれは成立しない。


「見え見えの挑発だ。行こうぜユニ助」


 自分に言い聞かせるようにして俺は芽ヶ崎に背を向けた。やつを視界に入れたままクールなキャラクターを保てる自信がない。


「シロー」


 ユニ助が俺を呼び止める。短い言葉だが、有無を言わせず俺の足を止めるほどの迫力があった。


「ケンカ売られるたんびに逃げてちゃ、やりたいことなんか一生やれねーぞ」


 背筋がぞくりとした。こいつは、俺がなりたかった何者かに一番近い形をしている。何者かになるようなヤツは、ここで逃げたりしないんだろう。それはメンツのためか、それとも俺には見えない何かを守っているように見える。


「それに、俺はあいつと戦ってみたい」


 ユニ助はニヤリと笑い、指のテーピングを剥がした。そして、やつの愛機であるuni α-gelを人差し指と中指の間に挟み、そのペン先を芽ヶ崎に突きつける。


「芽ヶ崎! 勝負受けるぜ! ただな、俺が勝ったら二度とちょっかいかけんなよ!?」


「いいぜ。そん時ゃはっきり手を引く」


 芽ヶ崎は余裕の笑みを浮かべる。不気味なまでの落ち着きようだ。ユニ助が突き指をしたのは偶然ではないのだろう。


「あとなぁ! 俺が勝ったらお前、逆モヒカンにしろ!」


「……は?」


「あたりまえだろ! 負けたら解散って、どー考えても俺だけ割に合わなすぎだろ!」


 想定外の要求に芽ヶ崎がうろたえる中、ユニ助の主張にギャラリーが沸いた。


「ははははっ! やれやれーっ!」


「負けたら逆モヒカンの刑だーっ!」


「いいぞおチビーっ! ぶっ殺せー!」


 無責任にギャラリーが煽る。こいつらは同好会潰しの手先というよりも単に面白いものを見たいだけだろう。狂ったルールを成立させるための衆人環視が仇になったな。


 言葉を失う芽ヶ崎に、ユニ助は悪魔のような笑顔をして言った。


「逃げるのか? こんな大勢の前で?」


「野郎……後悔すんぜ」


 芽ヶ崎は額に青筋を浮かべて指の関節を鳴らしている。ユニ助の隣の椅子に座り、ペンを回して準備運動を始める。いよいよカオスになってきた場を眺めていると、後ろから肩を掴まれる。振り返るとパーコが焦ったような顔をしていた。


「シロー、なにこれ!?」


「実在しやがったんだよ、同好会潰しが」


 ユニ助を取り囲んで意地の悪い笑みを浮かべるやつらが同好会潰しなのは疑いようがない。人を集めるときに話を大きくしたのも奴らの仕業だろう。


「全員運動部っぽいね、意外と」


 運動部。それに芽ヶ崎が最初に口走った『伝統』という単語が不意に脳内に蘇る。


 同好会潰しは大昔から伝統として引き継がれてきた。ということは、目障りとか感情的な理由じゃなく、もっと明確な利害関係が発生するはず。同好会を潰すと運動部が得をする。


 坂本龍馬が現代の日本にやってきたら何が起こる? というなぞなぞがある。答えは『日本の人口が1人増える』だ。鷹爪おうそう高校にペン回し部が新設されたら何が起こる? 答えは、鷹爪高校の部活動がひとつ増える。……結成一年目だから正確には同好会か。部に昇格するには条件があって、権利にも制限が――


「――活動費か!」


 反射的に口を突くと、斜め前に座る芽ヶ崎はぐるりと首をめぐらせて、初めて俺と目を合わせた。


「気づくのが遅えよ脇役ザコ


 部活動には学校の予算から活動費が支給される。同好会が部に昇格すると活動費を得る権利が生まれる。しかし、学校が支払う総額は変わらないので、既存の部活の取り分が減るというわけだ。設備費など運動部は何かと入り用だろう。


「糞が……!」


 このからくりを暴いたことで、ひとつの決定的な事実が浮かぶ。芽ヶ崎は同好会潰しを止めない。つまりこの勝負、ユニ助が必ず負けるように仕組まれている。


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