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ペン回し部は廃部です!  作者: 中二病でも小説が書きたい!
第三章 遊仁或波の野望
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6.2 遊仁或波VSオメガマン②


 2日目は数学と英単語の小テストを解かされることから始まった。その後ホテルの宴会場に学年全体で集められて進路指導の講習会だ。


 5、6人用の折りたたみの長いテーブルとパイプ椅子がだだっ広い宴会場に何列も並んでいる。座席はクラスごとに固まって出席番号順に割り振られるので、クロサキシローの近くにユニアルハはいない。


 予備校から招かれた講師がパワーポイントの資料をスクリーンに映して大学入試本番までに残された時間うんぬんといった話をした後、講習の話題が将来の目標に移った。俺は毛の長いカーペットが敷かれた床を無意味に靴の底で撫でて、毛先と靴底が触れるぎりぎりを探してみる。要するに退屈なのだ。


 進路に関する当たり障りない前置きが終わると、次に代表の生徒に話を聞きましょうとなる。事前に仕込まれていた別のクラスの優等生っぽい男子生徒の手にハンドマイクが渡る。


 そいつは不自然なほどはきはきと自分の夢を語っている。将来は外交官になってグローバルに活躍できる人材になりたいです。幼少期にオーストラリアで過ごした経験から海外に目を向けるようになって……なんてご大層なことを並べている。


 俺からすればコイツもペン回し部の設立を夢見るユニ助も同じだ。でも、もしここでユニ助が立ち上がって同じような演説を始めても聴衆は決してやつに尊敬の眼差しなど向けず、せいぜいアホだコイツと笑うのがオチだろう。


 俺からすればコイツもペン回し部の設立を夢見るユニ助も同じなのに。恋でもするみたいに何かを追いかけているコイツらが羨ましい。一体、この部屋に集められて眠たそうにしている100人以上のうちのどれだけが将来の目標なんて持っているのだろう。そして、何者かになるという俺の目標はどうしたら達成できるのだろう。


 そんなことをうすぼんやりと考えながら、優等生の演説を右から左に聞き流していた。




* * *




 ありがたいお話の後に、どこかの会社が作ったマークシートのアンケートを500問くらい解かされ、それが終わると昼休憩に入る。食堂にクラスごとの大テーブルがあり、座席は自由。俺はユニ助の隣に座った。


「お前、小テストどうだった?」


 カレーライスをつつきながらユニ助に訊ねる。


「サイアクだぜ! テスト中ペン回ししてるヤツ探してたら、キョロキョロすんなって先生に怒られてよー!」


「そりゃそうだろ、じゃなくて点数は?」


 俺は今までユニ助の学力を知らなかった。ちなみに小テストはそれぞれ20点満点だ。点数のことを聞かれたユニ助は神妙な顔を作って言った。


「だいたい15……」


「意外とやるな」


「……パーセント」


「3点かよ!?」




 * * *




 午後はホテルでお勉強だが、その前に腹ごなしにクラス対抗でドッヂボールなんかをやらされるらしい。クラス間で競わせることで団結を深めようというのだろう。やれやれ、小学生のお楽しみ会やってんじゃねーんだよ。レクリエーションでドッヂボールなんて浅はかもいいところだ。


「……ふっ」


 そう思っていたがいざ始まるととても楽しい。いくつになってもドッヂボールはハラハラドキドキする。ちょうど太陽も顔を出してきて日差しが暖かい。俺は運動音痴ではないが決して得意でもない、まあ普通なのでもっぱら逃げ専だ。


 我が6組男子軍は運動神経枠がサッカー剣道バドミントンと、ボールを投げられるヤツが1人もいない。そのため攻撃力に欠け、守りのドッヂを余儀なくされた。


 敵陣にボールが渡り、流れるようにアタッカーが受け取る。明らかに運動部っぽいそいつは俺とユニ助のいるあたりに狙いを定めた。


「よっしゃ! 来い!」


 ユニ助は中腰になる。こうなったらタイマンだ。敵のアタッカーはユニ助にボールを投げる。取りにくい低弾道で、ものすごいスピード。当たったら痛そうだ。よせばいいのにユニ助はそれを無謀にもキャッチしようと両手を広げ、案の定キャッチし損ねる。


「きゃああああああーっ!!」


 突き指でもしたのか、ユニ助は指を押さえて悲鳴をあげている。アホか。なんて気を取られていたらユニ助が弾いた流れ弾が俺にもぶつかり、2人同時アウトになった。


 すごすごと外野に移動すると、目の前の騒ぎが蚊帳の外みたいに感じられて急激にやる気がなくなる。俺はそのへんのフェンスにもたれかかって試合を眺めながらユニ助と雑談に興じることにした。


「いってえ〜! マジでいてえ! くそっ!」


 ユニ助は悪態をつきながら中指に息を吹きかけている。突き指なんかペン回しでは命取りだろう。俺は皮肉混じりにユニ助に話しかける。


「天は二物を与えずとはよく言ったよな」


「そうだな! まあ俺にはペン回しがあるから!」


「割に合わんだろペン回しの才能じゃ」


「いいや合うねっ! どんなに勉強できなくてもボール取れなくてもクソチビって言われても、俺はこれだけは誰にも負けねえってもんが一個あるだけで人生ずいぶん救われんぜ!?」


「……けっ」


 こーいうことを恥ずかしげもなく言っちまうんだからな、コイツは。


「だからってテストで3点取っていい理由にはなんねーよ」


「――コンビそろって戦力外?」


 声がした方を振り向くと、パーコがにやにやとした顔をしていた。やつのクラスは休憩中のようだ。体操服姿を見るのは初めてだった。ジャージのファスナーを胸の下あたりまで開けて袖まくりしている。下は短パンでくるぶしソックスに白のスニーカー。


「うるせ。コイツと一緒にすんな」


 やつの特徴としてアイコン化しているふわふわした金髪のショートボブ。それを後ろでひとつに結んでいるのに気づく。パーコがわざとらしくくるりと後ろを向いた。髪を結んでいるのはいつぞやのショッピングモールで買った黄色のシュシュだった。よく見ると水玉模様になっている。


「……」


「あ、気づいちゃった!? そう、髪結んでみたんだ! ねえシロー似合う!? ねえねえどうかな!?」


 パーコはさながら犬の尻尾のように後頭部の髪を自慢げに揺らす。しかしなぜ俺に聞く?


「はあ、まあいんじゃね」


「ええーあのときは似合うって言ってくれたのにー」


「どのときだよ。変な記憶を捏造するな」


「だははっ! シローは照れ屋さんだからな!」


「偉そうにすんな。ペン回しできねーお前なんか飛べない鳥、いやインク切れのボールペンにも劣るただのアホなクソチビだぞ。この小学3年生が」


「そっ、そりゃあんまりだぞシローくん!?」


 それはさておき、俺はパーコとの会話をさっさと打ち切りたかった。周囲の視線が痛いのだ。なぜお前みたいなもんが乾涼夏との会話を許可されている!? みたいな恨みを買いまくっている気がしてならない。




 * * *




 ドッヂボール大会が終わった。ホテルに戻ってお勉強だ。今は休憩時間中。宴会場は緊張のほぐれたざわめきに満ちている。行動班で集まっていたので、俺はユニ助の隣にいた。長テーブルに横並びのパイプ椅子。女子連中はいなかった。


「軽傷で済んでよかったな」


「おーいてえ、こりゃしばらくペン回しはお預けだぜぇ……」


 ユニ助はお医者さんに大げさにテーピングしてもらった中指に息を吹きかけている。商売道具に無頓着なやつだ。


「ユニスケクン!」


 元気な声をかけられる。真っ白なテーピングから視線を上げると、別のクラスの男子が数人、群れをなしてこちらに向かっていた。先頭にいるのが声をかけたやつだろう。日焼けした肌、背が高くガタイがいい。キツイパーマのツーブロックにいかつい印象を受ける。運動部特有の精悍な佇まいが全員から感じられる。全員見たことないが、クラスのリーダーをやれそうなやつばかりだ。そんな連中がつるんで俺たちに何の用だ?


 そいつはにこやかに笑った。


「ちょっといいかな? ペン回し部の部長サン?」


「おお、なんだなんだ!? 入部希望か!?」


「違えよ」


 そいつは笑顔のまま、嘲るようにして言った。それを合図に、やつらの雰囲気が変わった。俺たちは取り巻きに囲まれて逃げ場をなくしていた。


「俺が誰かなんてどうでもいい。大事なのはお前が俺たちを知ってるかだ。はっきり言おうか。俺たちは『同好会潰し』だ」


 どうやら、部活設立記念日はとうぶん先らしい。


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