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ペン回し部は廃部です!  作者: 中二病でも小説が書きたい!
第三章 遊仁或波の野望
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5.6 札付きの猫柳⑥

 

 『うなぎいぬP』にDMを送った後、みんなして根古屋の家に赴く。勝手知ったるユニ助が先頭を行き、やつと雑談するためにパーコがそれに並ぶ。その後ろを俺と先輩が付いていくという構図。先輩と放課後をご一緒するのは妙な気分だ。根古屋とのファーストコンタクトを控えた先輩は、普段の無感情な佇まいはどこへやら道中ずっとそわそわしていた。


「……緊張する」


 根古屋宅の最寄り駅を降りたあたりで、先輩はとうとう俺に話しかけてきた。


「楽しんでません?」


「イメージと違ったらどうしようシロー」


「それを受け入れてこそのファンじゃないんですか? 推しいたことないから分かんないっすけど」


 さりげなく下の名前で呼ばれるが、あえて無反応を決め込んだ。ただ変なテンションになってるだけで、俺に対する好感度が上がったわけではないだろうから。そもそも先輩は俺の苗字なんか忘れちまってんじゃないだろうか。


 インターホンを鳴らし、反応を待つ。昨日俺は根古屋に、ユニ助と話してやってくれないかと伝えた。それがほんのわずかでも、根古屋がユニ助と話す建前というかきっかけになるんじゃないか、という甘い考えを抱いていた。例えそれが二度と来るなと塩をまくためであっても、今までずっと無視していたのに急に態度を変えるのは不自然だ! という半ば自意識過剰な心理が仮に根古屋に働いていたとしたら、俺の昨日の玉砕は無駄ではなかったといえるだろう。


 さすがに都合が良すぎるか、と思ったらインターホンからブツッというスピーカーの咳払いのような音が聞こえた。一同に緊張が走る。


『もう来ないでくんない? 迷惑なんだけど』


 マイクの向こうで、根古屋が無造作に言葉を放ってきた。突き放すような、棘のある言い方だ。


「おお! 根古屋! ひさしぶり! ようやく声聞けた!」


 昔からの友達のようになれなれしいユニ助。マイクの向こうの根古屋は言葉を切った。おそらく苛立ちと困惑が同居しているんだろう。そうそう、コイツにはこういうところがある。俺も初対面のときはずいぶんなれなれしい奴だと思ったもんだ。


『なにニヤついてんだよ』


「嬉しいんだよ! やっと声聞けて!」


『はあ? きもちわりー嘘つくなよ、亀掛川先生に頼まれて来てるくせに』


 インターホン越しだからか、前会ったときより威圧感が少ない。それもそうか。こんなにツンツンしてるのに、ネットの世界じゃにゃんにゃんしてんだもんな。


『いいか? これだけははっきりしとくぞ。ボクは困ってないし、助けを求めてもない。お前らの物差しにボクをあてはめて、かわいそうなあの子も仲間に入れてあげましょうみたいなことはやめてくれ』


 それを受けたユニ助は1秒くらい考えてから言った。


「かわいそーとかはわかんねーけどさ、学校行ってないと話題についてけないと思ってな! 来週の宿泊研修の班決めの結果、亀掛川きけがわ先生から聞いてきたぜ!」


『んなもん誰が行くか』


「ええええええ!? なんで!? お泊まりだべ!? 絶対楽しいのに!」


『……ダルいんだよ。学校も、お前らも』


 根古屋は吐き捨てるようにそう言い、それきりインターホンのスピーカーは沈黙した。俺なんかしたかな!? とユニ助は終始おろおろしていた。



 * * *




 その後もユニ助は根古屋の家を訪れたが、研修前に会話したのはあれが最後だったそうだ。放課後、空き教室にて俺たちは集合していた。宿泊研修前日。ついに根古屋は学校に一度も訪れなかった。


「ねこやなちゃんまた猫の動画上げてるね!」


 空き教室のドアがガラリと開くと、リプトンの紙パックを持ったパーコが現れた。すると、ユニ助が待ち構えていたように席を立ち、スマホを持ってやつのもとに駆け寄る。


「パーコ先生! コメント書いたんだけどこれ送っていいか!?」


 そう言ってパーコにスマホの画面を見せている。やつらの間でどんな取り決めがされたのか知らないが、『ゆにこ』を動かすときはパーコの許可が必要なんだろうな。パーコは神妙な面持ちで画面を指差し確認している。


「うーん、送ってよし!」


「っしゃあ!」


 パーコから謎のお許しをもらったユニ助はスマホに向き合い、メッセージを送信している。その様子をパーコがストローを刺したリプトンを飲みながら見守っている。あの野郎、自由にリプもできないのか。不憫だ。まあアホだからな。


 俺も自分のスマホで『うなぎいぬP』のポストをチェックする。投稿時間は午後の2時だ。2時といえば5時間目の古典か。俺たちが変格活用で苦しんでいるときにコイツときたら。


「平日の昼間っから他にやることねーのかよ」


 誰に聞かせるでもなく言ったのだが、それを聞いたパーコはリプトンを噴き出した。汚い。口元を拭いながら軽く咳き込むと、なぜか俺に引き気味な目を向けてくる。


「あんた鬼!? 不登校の子に向かって!」


「……根古屋って不登校なのか?」


「え、そうじゃないの? 学校来てないんだし」


 当たり前のことのようにパーコが言った。言われてみると確かに、今まで俺は根古屋の髪色とか、繁華街での補導とかの表面的なイメージに引っ張られてやつを判断していたことに気付いた。俺は根古屋に学校さぼってる怖いヤンキーという簡単なレッテルを貼り付けて思考停止していたのだ。目から鱗が落ちたとたんに、根古屋のことがまるで飴細工のように繊細な女の子みたいに思えてきて、悪態をついた自分が急激に恥ずかしくなった。


「……そんなもんか」


 内心の動揺を隠して俺はペンをくるりと回した。出来損ないのシャドウはあらぬ方向に飛んでいき、キャッチできずにポトリとペンが机に落ちる。その情けないペンの軌道を見たユニ助が飛んでくる。


「ああ!? おいシロー、ちゃんと練習してんのかよ!?」


「してんだよ。してこれなんだよ。お前と一緒にすんな」


「別に焦ることはねーよ! まあ俺は左手でもできちゃうんだけどな! だはははっ! ほら見ろシロー! 俺レベルになるともはや両手でシャドウしちゃうぞ! ほらほらほら!」


 普段通りのくだらないやり取りをこなす。時間が来たら今日もユニ助は根古屋のところに行くんだろう。パーコと2人教室に残されたら、やつはルービックキューブの自主練か動画撮影に励み、それが飽きたら俺を雑談や宿題に付き合わせたりする。そうやってまた今日が終わっていく。


「おおっ、返事来た!」


「はやっ!?」


「猫好きすぎだろあいつ」




 なんやかんやあり、宿泊研修が訪れる。この2泊3日の出来事がきっかけで、のちにペン回し部が廃部に追い込まれることを、その時の俺たちは想像すらしなかった。




 第5話 札付きの猫柳 完


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