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ペン回し部は廃部です!  作者: 中二病でも小説が書きたい!
第三章 遊仁或波の野望
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5.5 札付きの猫柳⑤

 

「……うなぎいぬPと聞いて」


 床に垂れたストリングを元通り巻きながら、兎澤先輩は言い訳のようにつぶやいた。


「キャロパイ、知ってんすか?」


「最古参」


 無表情なのにどこか誇らしげである。まあ、界隈の有名人を売れる前から知っていたことの優越感は得難いものだ。


「うなぎいぬP。2年前から活動を開始、Xのフォロワーは本日零時時点で7541人。使用ソフトは重音テトおよび重音テトSV」


「へえ」


「代表作の『留守番電話』は王道のギターロックに社会となじめない人間の哀愁を代弁した歌詞がネット民の共感を呼び、ニコ動のイベントで入賞経験がある。エレキギターは一発撮りの生演奏で、息遣いまで感じられるハイスピードのカッティングは打ち込みでは到底対抗できない同氏最大の武器。サウンドは嵐のようでいて、歌詞はストレートなのに文学的。イラスト、動画作成すべてを個人で手掛けるそのセンスの多彩さには新作が投稿されるたび驚かされる。俗っぽい表現は好きじゃないが、推しを聞かれたらあたしはその名を答えるだろう。投稿時間からファンの間では学生説も唱えられていたが……まさか、同じ学校だったとは!」


 おお、急に饒舌だ。すごいテンション上がってる。学生説と聞いてパーコとユニ助が色めき立つ。


「マジすか!? これはもうねこやなちゃん確定っしょ!」


「よっしゃDM送るぞ!」


「バカやめろ!」


 ユニ助の暴走を俺は咄嗟に制した。ユニ助は俺に否定されたことへの驚きを通り越して、え、何この人怖……みたいな引き気味の視線を向けてくる。けっ、この脳みそ小学3年生がよ。


「現状、これが根古屋と俺たちの唯一の接点だ。もっと慎重に扱わないと。俺たちがこれを知ってるなんて絶対気づかせちゃダメだ」


 言うなれば、これは根古屋の心の覗き窓だ。こっそり見てるだけでもやつの考えていることがほんの少しでも分かるかもしれない。もしこれを鍵垢にでもされたら、俺たちは根古屋との接点を完全に失うことになる。それはもう、光のない真っ暗闇に放り出されるのと同じだ。


「うーん、あのさーシロー」


 すると、パーコが口を挟んだ。


「頭ではわかってても面と向かうと素直になれないことってあるじゃん? ねこやなちゃんにはこのくらいの距離感がちょうどいいのかもよ?」


 コミュ強のこいつには、俺には見えないいろんなものが見えているんだろう。言葉に詰まったところで、ユニ助が「俺はよお〜」と切り出した。


「この2週間くらいずっと根古屋の家に通ってるけど、無視され続けてるんだ。今日こそ話そうと思ってインターホン鳴らしても手紙書いてもダメだ。2週間だぞ! 俺は根古屋と話せるならもうなんでもいい!」


 まあ、毎日通ってるコイツのフラストレーションは相当だろう。丸投げして何もせずにいる俺が口を出すようなことでもなかったか。いいだろう、条件付きの譲歩だ。


「お前の気持ちは分かったけど、いきなりDMはなんかアレだろ。怖いわ」


「それな! ねこやなちゃん気難しそうだし、いきなりDM飛ばしても無視されて終わると思うよ?」


 これはパーコと意見が合った。少しホッとすると同時に、俺だけずっと何の役にも立ってないんじゃないかと思わずにはいられなかった。


「ええええ!? じゃあどうすんだよ!?」


「まずはいいねとかリプからじゃん? 例えば……」


 焦るユニ助をなだめるようにパーコが講釈を垂れる。その横で先輩が何か言いたそうにそわそわしているので視線で促す。


「うなぎいぬ氏は猫褒めると反応してくれる」


 先輩はそう言い、自分のスマホ画面を俺たちに見せた。


 それはつい昨日ポストされた40秒ほどの猫の動画だった。茶色に黒い縞模様が入った一匹の雑種の猫が、赤いカーペットが敷かれた床の離れたところに背を向けて座っている。何かを察した猫が耳をぴくんとさせてカメラを構えたこちらに気付き、テトテトと駆け寄ってくる。それにしてもふてぶてしい顔をした猫である。撮影者の笑い声が入り込んでいるが、この鼻にかかる生意気な声は間違いなく根古屋のものだ。やつの言動からは想像もつかないほど、ほのぼのとした動画だ。


 先輩は画面をスクロールしてコメント欄を見せる。




『駆け寄ってくるうなぎいぬ先輩かわいすぎる』


『ごはんの気配がしたんだにゃあ(=^・ω・^=)』




『全視聴者に求められてることをしてて偉い!』


『良い子も楽じゃにゃい(=^・ω・^=)』




 あの根古屋がフォロワーのリプに返信している。しかも猫語だ。猫の顔文字とか使ってるし。なんだこいつ、ラリってんのか?


「かわいっ! え、ねこやなちゃんギャップ萌えなんだけど!」


「よっしゃ、俺もアカウント作って猫ほめるぞ!」


 よくわからんモチベーションでユニ助はXのアカウントを作成している。その様子をパーコが後ろからのぞいて言った。


「女子設定で行こう! 男の人からDM来たら警戒すると思うから!」


「犯罪者の思考……」


 なんとなく思ったことを先輩が代弁してくれた。そうこうしているうちにアカウントができたようなので、スマホ画面を確認する。どれどれ、アカウント名は、っと……。




『ゆにこ』




「コロコロコミックでももっとマシな偽名考えんぜ?」


「なんだっていいだろこまけぇな!」


「あははー、まあメッセージは任せて!」


 パーコはユニ助から半ば強引にスマホを奪い取ると、ものすごいスピードでメッセージを入力しだした。


『フォロー失礼します!めっちゃかわいいです!すごいご主人になつかれてますけど、お迎えして何年目なんですか?』


 メッセージを送信すると、1分足らずで通知音が鳴る。




『フォローありがとにゃん(=^・ω・^=)

 今年で4年目だにゃあ(=^>ω<^=)』




「……マジで来た。しかもなぜか好感触だぞ」


 そんな懸念をよそに、ユニ助はスマホを眺めてご満悦だ。


「っしゃあ! ついに根古屋と話せたぞ!」


「これ会話カウントなのか、お前ん中で」


「よし! いい反応! この勢いでDMかましちゃおっか!」


 パーコは目にも止まらぬスピードでスマホを叩き、根古屋に送るメッセージを作成していく。集中してるからなんだろうが、ハイテンションな文面を打つ間ずっと無表情なのが怖い。




『はじめまして! 猫ちゃんもですけど、曲もかっこよくて好きです!いちファンですけど、よかったら仲良くしてください~!』




 今更だけど、これ、ユニ助が送ったって知ったら根古屋のやつどんな顔すんだろうな。


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