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ペン回し部は廃部です!  作者: 中二病でも小説が書きたい!
第三章 遊仁或波の野望
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5.3 札付きの猫柳③

 

「宿泊研修?」


 俺はユニ助の言葉を繰り返した。昼休みの教室にて、俺は弁当を広げていた。


「おお! 来週やんだろ? 新入生がなじむようにってよ! 楽しみだよな! 根古屋ねこやにも教えてやろーと思ってんのによ、あれからぜんっぜん会えねーんだよな!」


 研修というと大げさだが、1年生が2泊3日のお泊り会を4月末にするのだ。ちょうど今週の土曜のホームルームで班決めをする予定だ。班といっても特に何か競ったりするわけでもなく、一日目のハイキングで行動を共にするだけだ。男女混合の4、5人程度ときいている。昼休みの教室を見回すと、男女問わず2、3人のグループが出来上がり始めている。一体このグループのうちどれだけが今年度が終わるまで残っているだろう、などと余計なことを考えた。


「へえ」


「あれ、なんだそのリアクション? あーわかった、パーコはクラス違うから同じ班になれないのか! ドンマイドンマイ! だはははっ!」


「マジでやめてくんない? そんなんじゃねえから」


「じゃあなんだよ、他に好きなやつでもいんの? 一緒の部屋なったら寝る前に恋バナしような! ぷっくくく」


「ああ、そんときゃ永遠の眠りにつかせてやるよ」


 普段通りの会話をしながら、俺は弁当をつつく。会話が途切れると、ユニ助が何も食べていないのに気づいた。


「あれ、お前メシは?」


「だはは、忘れた!」


「いや、お前いつもなんか買ってんじゃん。金欠か? ヴィンテージのシャーペンでも買ったのかよ」


「ちげーよ! 根古屋んとこ通う電車賃でお小遣いなくなっちまうからよ! メシ買ってる余裕ねーんだよ!」


「弁当作ってもらえよ」


「俺朝はえーからよ、親に弁当とか作ってもらえねーんだ」


「……」


 それを聞くと、何気なく口に放り込んでいる弁当がやけに貴重なものに思えた。


「これ、食えよ」


 俺は弁当に入ったカツサンドを指して言った。


「え!? いやいいよ、お前のメシじゃん」


「今日食欲ないから」


「いいのか!? マジでいいんだな!? あとで怒るなよ!? いややっぱり悪いなムシャムシャ」


 ユニ助はカツサンドに食らいついた。こんなことで、根古屋のことをユニ助に押し付けている罪悪感を晴らそうとしている自分が浅ましいと思った。


 俺にできることはなんだろう。昼休みが終わっちまえば、放課後までゆっくり考える時間はない。俺は残りのカツサンドを全部ユニ助に押し付けると、ブレザーの内ポケットからハッカのロリポップを取り出した。




 * * *




 放課後。俺は根古屋が補導されたという繁華街に出向いた。学校の最寄駅から電車を3本も乗り継いでようやくたどり着いたその場所は、このあたりで一番都会的、というか治安の悪い街だった。


 降り立った駅前にはギラギラした居酒屋やカラオケの看板が並び、聞いたことのないブランドのアパレルショップが磨かれたショーケースの中でマネキンを着飾らせている。高そうなスーツ姿のビジネスマンや、パーコをさらに悪くしたような若者たち、路上生活者、何かの演説者、募金活動をしている集団など日常ではお目にかかれない刺激的な人々が満載していた。まるで外国に来たみたいで強い疎外感に襲われた。


 俺はせいぜい舐められないようにポケットに手を突っ込んで、なるべくキョロキョロせずに歩いた。いろんな商業施設が所狭しと立ち並ぶ、繁華街を当てもなくさまよう。行き交う人々の賑やかな話し声や車が走る音、排気ガスと焼肉屋の煙の臭い、絶え間なくすれ違う人々の顔。誰かが足元に唾を吐き、アスファルトの上にはわざとらしい白の真ん中に黒いものが混じった鳥のフンがびっしりとこびりついている。飛び込んでくる情報が多すぎる。根古屋はこの喧騒に自分の居場所を見出したのだろうか。俺は今すぐにでも帰りたい気分だ。


 30分くらい歩いたが、疲れただけで何も得られなかった。根古屋を見つける当てはなかった。本気で見つける気もなかったのかもしれない。ただ、根古屋が見た街の風景を自分の目で確かめたかったのだ。向こうに小さな公園が見える。あのベンチで少し休んで、もう帰ろう。


 そう思って公園に近づくと、植え込みの向こうに隠れていたベンチがだんだんとその全貌を現していく。そのベンチには先客がいた。ピンク色のパーカーに下はジャージをラフに合わせ、目を引く赤髪のツインテールにヘッドホン。その女子はベンチに座ってぼんやりとスマホを眺めている。


 ベンチに座っていたのはなんと根古屋だった。小さな公園の中は、まるでそこだけ街の喧騒から切り離されたようで、俺と根古屋の他に誰もいなかった。こちらに気づく前に退散しよう。


 回れ右して逃げ出そうとした足が止まる。これは二度とないチャンスだ。むらむらっと何かが湧きたち、俺はここで根古屋に話しかける、いや話しかけねばならないというヤケクソな覚悟が俺の思考を染めていった。


 うつむいてスマホを見ている根古屋に一歩また一歩と近づくたびに冷や汗がにじむ。正面に回り込む。今にも根古屋が顔を上げて目が合う気がして、心臓が破裂しそうだ。けっ、プッツンガールにナンパかますとは、野郎のアホが俺にもうつったか?


「根古屋」


 声が震えないように腹に力を込めて呼びかける。根古屋はスマホから顔を上げた。ヘッドホンをかけたまま何も言わず、じっと俺を睨みつけている。ここまできたらもう逃げられない。どうにでもなれ。


「……この前、家に来たモンだがよ」


「ハア?」


「俺の他に1人、背が低いやついただろ。あいつ、毎日お前の家通ってるらしい」


「だから?」


「一回、話してやってくれ」


 柄にもなく頼み事をすると、根古屋は思いっきりバカにしたような顔をして言った。


「は? 寝ぼけんなよクソロン毛。なんでボクがそんなボランティアしなきゃいけないんだ?」


 ここで素直に聞いていたらユニ助も手こずらない。俺はパーコみたいに他人の心の壁を飛び越える術を知らないし、根古屋に小手先が通じるとも思っていない。だから俺は、せめて誠実に言葉を紡いだ。


「まあ、なに、確かに野郎はアホで下品で恥知らずで、ペン回ししか能がないような奴だけどさ……」


「……」


「だから、そこまで警戒する価値もないっつーか。いい奴だぜ、普通に。気楽に話せる。お前んち通ってんのもさ……」


「亀掛川先生に抱き込まれたからだろ。あまり人を舐めるな」


 根古屋はベンチを立ってスタスタとどこかに去ってしまった。パーコならもっと上手くやれたんだろう。緊張が解けると、どっと疲れが押し寄せる。無意識に全身に力を込めていたようだ。俺はひとりでベンチに腰掛け、ロリポップをくわえながら、電線だらけの空を見上げた。


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