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ペン回し部は廃部です!  作者: 中二病でも小説が書きたい!
第三章 遊仁或波の野望
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5.2 札付きの猫柳②

お久しぶりです。先週は投稿できずにすみません。世の中を相手に一世一代の大勝負を繰り広げていました。致命傷で済みました。

 

 今日の放課後も、俺たちは空き教室に集合していた。


「むむむむ……」


 うなり声がする方を振り返ると、パーコが真面目な顔をしてルービックキューブとにらめっこしていた。持ち込んだ宿題をやるときよりも真面目な顔で相変わらずものすごいスピードでガチャガチャやっている。


 プリン事件以来、変わったことが2つあった。1つ目は、パーコが部室でルービックキューブを使うようになったことだ。今も、俺たちが座っている窓際席の近くに陣取って黙々と練習をしている。喫茶店での一件がきっかけなんだろうが、俺はやつが今までそれを隠していたことが逆に驚きだった。あいつもあいつなりに、タピオカミルクティーしか詰まっていない脳みそで考えて日々生きているんだろう。


「――おい聞いてんのかよ!? ったく、パーコのことばっかり見やがってよ!」


 わめき声がする方を見ると、一つ前の席に座るユニ助が憮然とした顔で俺を見上げている。俺はユニ助に『シャドウ』というペン回しの技を教わっている最中だった。


「見てねーよ。そんでなんだっけ?」


「もっかいやるから見てろよ!? いいか!? シャドウっつーのはこうやって――」


 ユニ助はペンを中指と薬指に挟み、薬指がペンの下にくるようにして手を伏せた。薬指側に重心を傾けた状態で薬指を沈めると、人差し指側のペン先が手前に出る。ゆっくりとペンを移動させる所在が、刀に手にかけて身をかがめる、居合い斬りの姿勢を取る侍を連想させる。


 移動が止まったと思うと、薬指を跳ね飛ばすようにしてペンを弾き、回転したペンを中指の第二関節に乗せる。その後、1.5回転したペンを人差し指と中指の間に挟んでキャッチ。


 薬指でペンを弾くまでは手を伏せたソニックと同じ。回転エネルギーを与えた後はソニックのようにキャッチせず、中指の背に預ける。頭では分かっているのだが、いざペンが薬指を離れるとそれをどうしても普通のソニックと同じように人差し指と中指で掴んでしまい、中指に預けられない。何度やっても普通のソニックになるか、でたらめに回転してキャッチできない。


「ムズいな」


「癖になっちまってんだな、ソニックの動きが。うーん、なんて言えばいいかなー……」


 ユニ助はペンを左手に持ち替え、シャドウを回してみせた。右よりはややぎこちないが、それでも俺とは天と地ほどの技術の差がある。


「両利きだったのか」


「ペン回しだけな! 部活作るために俺もいろいろ考えてっからよー、最近特訓してんだよ。こうすりゃ俺のすごさが分かりやすいだろ?」


 芸術作品を鑑賞するにも知識がいるというし、マニアックな技を見せられるよりも分かりやすいだろう。なんとかソニックとなんたらソニックの違いって言われても素人にはわかんねーからな、とユニ助が俺に同意を求めたが、俺はそのどちらも聞いたことがない。


「あれはどうなんだ、フリースタイル」


 フリースタイルとは、複数の技を自由に組み合わせた十数秒のパフォーマンスだ。入学式の自己紹介でユニ助が見せたフリースタイルは俺の度肝を抜くものだった。


「おお、それが最終目標よ! 両手でフリースタイル!」


「持ち替えるのか? マジで曲芸の域だな」


「いや、同時に2本両手でやる! そしたら、1本しか回せないやつより2倍すげーってことだろ!?」


「……付き合いきれん。バカみたいな理屈だな」


 ユニ助はふと斜め上を見た。視線の先には、教室前方の掛け時計がある。つられて俺も時計を見ると、時刻は16時になろうとしていた。


「わり、俺もう出るわ」


 プリン事件以来変わったことの2つ目は、ユニ助が放課後すぐに帰ってしまうことだ。あれから毎日、根古屋ねこやの家に訪問するのがやつの新たな日課になっている。


 本当なら部員である俺たちには等しく責任があるはずだが、なぜかユニ助は自分に任せろと言ってきかないのだ。赤髪のパンクスに戦いを挑むのはありったけの勇気をかき集めても嫌だったので内心ピースしている反面、ユニ助に甘えている現状に気まずさを覚え始めている。


「じゃあなパーコ! シロー、ちゃんと練習しとけよ!?」


 そう言うとユニ助は荷物をまとめて部室を後にした。そして、今日も今日とてパーコと2人、部室に残される。俺はユニ助からの宿題をこなし、パーコはルービックキューブの自主練をしている。部活らしくて結構だが、そんな放課後も3日過ぎれば、だんだん飽きてくるものだ。


「つまんない!つまんないつまんないつまんない!シローと2人じゃつまんなーい!」


 数日にわたる沈黙に耐えられず、ついにパーコが爆発した。椅子にもたれかかり、長い手足をジタバタとさせている。もう少し配慮してくれてもバチは当たらんと思うぜ?


「どーしよっかなー、ツレはもういないしー、そうだ、キャロちゃん先輩呼ぼっと!」


 パーコはものすごいスピードでスマホをパタタタっと叩いて先輩にメッセージを送信した。そんな簡単に呼ばれる人じゃないと思うけどな……。


 その予想を裏切り、5分後、部室のドアがノックされた。控えめな音をしてドアが開くと、兎澤先輩がおずおずと顔を出した。俺、というかパーコの姿を認めると、物珍しそうにきょろきょろと室内を見回しながらこちらにやってきた。


「わーい! キャロちゃん先輩だー! ようこそ我が秘密基地に! 何して遊びます?」


「……部活の存続について相談があると聞いて来た」


「あーそうだった、いやーもうほんっと大変なんっすよー! 亀掛川先生が顧問引き受ける代わりにヤンキーの子入部させろっていうんですけど、まだまともに話せてもなくてどーしよっかなーって!」


 パーコはぺらぺらと軽口を叩き、先輩に自分の隣の椅子を勧める。身長180センチを噂されるパーコと、ちんまりとした小動物のような先輩。この2人が並んで立つと、身長差がありすぎて先輩後輩ってより歳の離れた姉妹に見える。


「……遊仁部長がいないのは」


 先輩がそう訊ねるので、これには俺が答える。


「あいつ1人で根古屋――ヤンキーの名前です――そいつの家行ってんですよ。この数日毎日通ってるらしいっすけど、完全に無視されてるって。文字通りの門前払いっすね。つーか、そもそもヤンキーが日中家にいるかも疑問ですけどね」


「亀掛川先生はなんて言ってる?」


「それが、自分たちで解決しないと意味がないってそればっかりで! それで、どうしたもんかと思って先輩を呼びました!」


「ふむ……」


 先輩は顎に手を当てて考えた。その横顔はとても知的で、肩まで伸ばした黒髪が清楚さに磨きをかけている。とてもヨーヨーをぶん回す危険人物には見えない。


「先輩、心当たりありますか?」


 俺がそう訊くと、先輩は視線だけをちらりとこちらに向けた。相変わらずの無表情で考えが読めない。


「いや。でも、そのヤンキーが君たちに心を閉ざしているのは明らか。それを解くには本音でぶつかり合えばいい。つまり」


「つまり?」


 パーコが促す。


「決まってる。拳で語り合うまで」


「なるほどー! ……え、こ、拳!? 私たち、ねこやなちゃんとバトルするんですか!?」


「ヤンキーはそれの他に、人と向き合うすべを知らない……最悪、倒して分からせればいい」


「ほんとに最悪ですね。もっとこう、仲良くなるアプローチに心当たりありませんか?」


「……あったらあたしはぼっちじゃない」


「すいません」


「まあそんな感じでマジでヤバい状態です! そうだ、ヤバいと言えばコイツの私服マジでヤバいんですよ! センス終わってるっていうか! あークソ、写真撮っとけばよかったな!」


「……私服?」


「全身真っ黒でマジ殺し屋みたいになってて――」


 それきり根古屋の話は終わり、その後はプリン事件での俺の一挙手一投足を面白おかしくこきおろす時間に変わった。まあ、俺がピエロになって先輩の退屈が紛れるなら何も言うまい。


「あとこいつ、シュシュ似合うんですよ!」


「……シュシュ?」


「お前が無理やりつけさせたんだろ!」


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