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ペン回し部は廃部です!  作者: 中二病でも小説が書きたい!
第三章 遊仁或波の野望
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5.1 札付きの猫柳①

 

 俺たちは亀掛川きけがわ先生に賄賂を渡し、ペン回し部の顧問を頼んだ。先生は俺たちにチャンスを与えた。顧問を引き受ける条件とは、ある生徒を入部させることだった……。


「それがこの子」


 パーコはハガキより一回り大きな集合写真を机に置いた。入学してすぐに校庭でクラスで撮った記憶がある。


 放課後、俺たちはペン回し部の部室である3階隅の空き教室『2-9』に集合していた。半ば物置きのようなこの教室が俺たちの居場所だった。


 パーコはこの写真を受け取りに1人で先生のところまで出向いていた。そのときに、入部させるやつのことを色々聞いてきたというので、その情報を共有することになっている。


 パーコが指差したそれは女子生徒だった。小さくてよく見えないが、顔はなかなかいいと思う。ツインテールも似合っている。部活関係なくぜひともお近づきになりたいタイプだ。髪の毛がド派手な赤に染まっていなければ。


「ヤンキーじゃねーか」


 俺はそう言わずにはいられなかった。校則違反はそれだけでなく、ブレザーの下にピンク色のパーカーをまとい、ヘッドホンを首からさげている。周りの人たちは思い思いのポーズを取ったりしているが、写真の中の彼女は棒立ちで笑顔を見せていない。


「『根古屋ねこや なぎ』ちゃん。亀掛川先生の担任の1年6組の子。めちゃくちゃ問題児らしくて、先週繁華街で補導されたらしいよ。オニヅカも手ぇ焼いてるって」


 オニヅカといえば生活指導の大塚先生だ。その人の手を煩わせるような奴を俺たちがどうにかできるとは思えないのだが……根古屋もユニ助並みのペン回しフリークなんだろうか?


「ふ〜ん、とりあえず話してみようぜ!」


 ユニ助は考えなしにそう言った。コイツの辞書の警戒心とか危機回避の文字が書かれたページは、破り取って鼻紙にでもされちまったんだろう。冗談じゃない。誰が好き好んで繁華街の野良猫にちょっかいなんかかけるもんか。


「それが、学校来てないんだって」


「けっ、話が見えてきやがった」


 俺は口の中に入ったゴミを吐くようにして言い捨てた。プリンを渡したあの一瞬でこの絵を描いたんだから、ゆるい顔して亀掛川先生はかなり頭が切れる。それに……いや、今それを言うのは早すぎるか。


「部活の意義を証明するなんざとんだ御託だぜ。あのタヌキ、俺たちにヤンキーの更生丸投げしたんだよ」




 * * *




 とりあえず一度会ってみようということで、先生に教えてもらった住所に赴く。電車に揺られている間、俺はずっと気乗りしなかった。派手髪の同世代は何を考えているのか分からなくて怖い。髪型で遊ぶのは分かる。俺もやってる。でも、髪を染めるのは目立ちすぎるし、後戻りができないって感じがする。


 学校に真っ向から喧嘩を売るほどの強烈な自我や、そもそも校則なんか気にしない反社会性は、どちらも一般的な感性を備えた俺には理解しがたいものだ。だから、何をしでかすか予想できない危なっかしさがある。


 パーコは明らかにこちらに敵意がないからまだいいが、根古屋がパーコと同じとは思えない。少なくとも歓迎はされない。招かれざる客の俺たちがヤンキーのお宅に突撃訪問するなんて、悪い冗談もいいところだ。


 地図アプリに従って道をゆき、人っこ1人通っていない閑静な住宅街に行き着く。やがて、根古屋と彫られた大理石の表札を見つける。質素だが掃除の行き届いた二階建ての一軒家だ。意外と素朴なところに住んでいる。


 玄関は小さな庭の奥にあり、インターホンが傍に付いた門で隔たれている。アジトに着いたはいいが、さてどうしたものか。そもそも、根古屋が在宅かどうかもわからない――


「任せて! 私こーいうのめっちゃ得意だし!」


 パーコは威勢よく言い放ち、軽快な打鍵音とともにインターホンを鳴らした。スピーカーの向こうから返事が来るのを腕を組んで待ち構え……一歩下がり、なぜか俺の方を振り返った。


「シロ〜、やっぱ代わりに喋って〜……」


「は、はあ!? ラリってんのかこの毛玉! 責任持ってテメーが面倒見ろよ!」


「ぷふっ、冗談じゃん。なにうろたえてんの」


「はあああ!?」


「だははは! 仲良いな!」


「だからよかねえって――」


 茶々を入れるユニ助の胸ぐらを掴もうとしたその時、玄関のドアが勢いよく開けられた。俺たちは一斉に玄関に注目した。


「はーい!!」


 元気な声とともに1人の女の子が現れた。ワンピースほどの裾の長さのピンクのプルオーバーパーカーに、下はラフなジャージ姿。首にはヘッドホンをかけ、耳の下で結われたおさげ髪は赤色に染まっている。足元は裸足にサンダル、手にはシャチハタが握られている。俺と目が合い、笑顔が凍りつく。


「……」


 どうやら宅配便と勘違いしたようだ。笑顔が急速に消えると、写真で見た根古屋そのものだった。


「あ、あぁ……突然悪い、俺たちは……」


 なぜか俺が対応しなきゃいけない雰囲気なので、ごにょごにょと言い訳のようなことをつぶやく。ふらつかせた右手のやり場に困って門をつかむと、根古屋はぎろりと俺を睨みつけた。


「気安くヒトんに手ぇかけんなよ」


 こ、こえぇ〜!


 この場にユニ助とパーコがいなかったら平謝りして逃げていたところだ。俺は精一杯の虚勢でもって、顔がひきつらないように注意しながら、右手をゆっくりと下ろした。根古屋は、玄関のドアに体を預けて半開きにしたまま、俺たちを品定めでもするみたいに眺めた。


「はいはい、また亀掛川先生の回し者ですか」


「回し者っていうか、ペン回しをしてる者なんだけどさ!」


「はあ? すっこんでろクソチビが。あの人に何吹き込まれたか知らないけどさ、来るだけ無駄って伝えてくれよ」


 根古屋は気だるげに首を鳴らし、首にかけたヘッドホンを耳に装着した。イヤーパッドの辺りに付いた複数のボタンを音もなく操作して、もう俺たちと話すつもりはないということを態度で示していた。


「そっかあ、でもさ〜ねこやなちゃん! 学校行かなきゃマズいっしょ?出席足りないと留年じゃね?」


 こんなときだけは、パーコの性格が心強い。こちらを拒絶している根古屋にもお構いなくグイグイと距離を詰めてくる。根古屋はパーコを見て、あざけるような笑みを浮かべた。


「いいんだよ。ボクは学校辞めて音楽で食ってくから」


 薄い笑みを口元に貼り付けた根古屋は玄関のドアの向こうに消えた。ドアが閉まると、それきり何の音も聞こえなくなった。


毎週月曜日の投稿が暗黙の了解になりつつありましたが、明日は投稿休みます。週二投稿は守ります。

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