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ペン回し部は廃部です!  作者: 中二病でも小説が書きたい!
第二章 兎澤文乃の日常
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4.5 ××限定ベリーベリーストロベリーハートシュークリームプリン事件⑤

 

 俺とパーコは洋服売り場にいた。仲良くなったんじゃない。カップルのフリをする、という設定で芝居をしているだけだ。側から見れば友達のように見えるかもしれないが、俺は今だにコイツと本心で向き合えずにいる。


 大きな鏡の前に立ったパーコは、ハンガーにかかったままのシャツを自分の体にあてがっている。ふたつのうちのどちらにするか迷っているようだ。


「ねーシロー、これとこれどっちがいいー?」


「安い方」


 俺はスマホを眺めながら答えた。女性服売り場なので目のやり場に困る。針のむしろのような場所で40分も待ちぼうけ食らって愛想良くできるほど俺は仏じゃない。


「ちゃんと見てよー、シローはどっち好き? この可愛い系のピンクと、オトナ系の黒だったら」


「黒。汚れが目立たない」


「えーつまんなー」


 鏡の向こうでパーコが頬を膨らませる。俺の意見なんか採用されないだろうし、どうせ何着ても似合っちまうんだから、考えるだけ時間の無駄だ。


「どっちでもいいよ」


「ちっとは興味持とうよ! 可愛い彼女がおめかししてんだよ!? ってか、私が彼女やってんだから、あんたも彼氏ちゃんとやってよ!」


 確かに、ポーズだけでも合わせるべきだな。俺はスマホから目を離した。


「わかんねーんだよ。なに、彼氏ってのは彼女の服選びに付き合うのがそんなに楽しいのか? それは過去の経験的に?」


「そ、そんなんじゃないけど! ただ、そうだったら嬉しいなー、って」


「……は?」


「うっさいなあ! 私も初めてなの! 中学の頃は部活の助っ人ばっかやってたから、そういう経験する暇なかった、っていうか……」


 才能を使い潰された過去を思い出したのか、パーコのハイテンションが鳴りをひそめる。こんな時どんな顔したらいいのか、義務教育しか詰まっていない俺のチンケな脳みそでは答えを割り出せなかった。だから、俺はせいぜい嫌味ったらしく「フンッ」と笑い飛ばした。


「つまり、俺もお前も大して変わんないってことだな?」


「はあ!? 一緒にすんなし! ネットで勉強したり、友達からいろいろ話聞いてるもん!」


 パーコは顔を赤くして抗議してくる。その反応はまるで足元にじゃれつく犬のようで、友達に向けられるような親しみが感じられた。


 ありふれたリアクションだな、と思うと一気に親近感がわく。パーコのこと、住む世界が違うと思ってたけど、中身は割と普通なんじゃないか? そう思うと、胸の奥底から何かむらむらっとしたものが湧き上がってくる。


 俺はスマホをジャケットの内ポケットにしまうと、キザな仕草で黒のシャツを指さした


「黒がいい。なぜなら俺は黒が好きだからだ」


「へえーそっか! ピンクにしよ!」


 ……ほらな、言った通りだろ。




 * * *




 次に向かったのはファンシーな雑貨屋だった。入口に置かれた巨大な加湿器が煙を吐き出していて、通り過ぎるといい匂いがする。


「妙な加湿器だな」


「アロマディフューザーだし」


「さいで」


 1人だったら絶対に近寄らないような店内にどんどん進入していく。名前も分からないようなおしゃれなアイテムが棚に並び、店内は若い女性客が大多数を占めている。ここも俺の居場所ではないように感じる。帰りたい。


「まずはペアアイテムね! 着いてきて!」


 パーコは迷いなき足取りでどこかに向かう。立ち止まったのは、色とりどりのシュシュが並ぶ回転棚だった。パーコはその中のひとつを手に取って、なぜか俺の顔と見比べている。


「冗談きついぜ」


「い~から!どれが好き?」


「マジで勘弁してくれ」


「おっけー、じゃあ黄色ね!」


 パーコは小ぶりな黄色いシュシュを取り、俺の後ろ髪をひっつかむと後ろで一つにまとめて結んだ。首の後ろの頭皮が引っ張られて少し痛い。棚のちょうど目線の位置に取り付けられている鏡で恐る恐る仕上がりを見る。


「おぉ……っ!」


 思ったより悪くない。むしろ、黒をベースにした今の格好に小さくても鮮やかな黄色がアクセントになっていて、まるでカップ焼そばのからしマヨネーズみたいに全体を引き締めている。この格好もいいけど、ちょっとした遊び心があってもいい。結んだ髪が後頭部からしっぽのように垂れている様子は、まるで。


「気に入った?」


「香港の刺客みたいだ」


「……うん、まぁいいや」


 パーコも揃いの黄色のシュシュを手に取り、レジに向かうのかと思ったら奥の方に進んでいった。


「もういいだろ」


「せっかくだから見てこーよ! 今だけ彼氏でしょ?」


 仕方なく後に続くと、生活雑貨の向こうにアナログゲームコーナーが見える。俺たちはそこに向かっていく。店内の一角を陣取ったスペースには、見たこともない外国のパズルゲームや、シュールなモチーフのカードゲームなどが、豊富なジャンルごとに並んでいる。


 その中で見覚えのあるシルエットを見つける。ルービックキューブだ。オーソドックスなやつが目立つところにあり、キューブが長方形だったり、真ん中に穴が空いていたり、三角形のものまである。


 その中に、自由に遊べるように普通のルービックキューブのサンプルが置いてあった。いい具合に色がバラけている。


 確か、俺は今だけコイツの彼氏だったな。


「ルービックキューブだな」


 それとなく進行方向を誘導する。何を隠そう、俺はルービックキューブを6面揃えられるのだ。


「うーわルービックキューブじゃーん! 私めっちゃ得意なんだー! シローシロー見ててね!」


 パーコはむんずとルービックキューブをつかむと、コロコロと回して青のセンターキューブを探している。俺はその様子を生暖かく見守る。甘いな。青は白か緑の裏側って相場が決まってるんだ。


 パーコはルービックキューブからふと目を離して俺の方をちらりと見た。いつの間にかヘラヘラとしたニヤケ面が消えていた。真剣な眼差しに、思わずどきりとする。


「まばたき禁止だよっ」


 パーコは指先でキューブの端を弾き、目にも止まらぬ速さで回していく。俺が知っているルービックキューブとは全く別の遊びだった。映画で見たマシンガンの連射よりもハイスピードだ。途中で詰まることなく軽やかに回し続けていく。宣言通り、まばたきする暇もなく揃え終えやがった。測ってないが30秒も経ってないだろう。


「……やるな」


「昔ちょっと、ね。怪我で入院してたとき極めた」


 パーコは右手だけでキューブを無造作に崩して、手品のように再び揃えてみせた。


「ねーちゃんすっげー!」


「プロだよプロ!」


 いつの間にかガキどもが群がっていた。俺は傍に追いやられる。


「あはは! まあ磁石入りだからねー」


「磁石?」


「ほら、コーナーに磁石仕込んでんだよ。キレイに90度回転するようにね」


「ほんとだ! すげー!」


「やっぱプロだ!」


 パーコがガキどもに囲まれてヒーローになっている様子を見ていると、なぜか冷や汗が出てきた。暗い道に1人取り残されたような、根源的な強い不安に襲われた。


 俺はコイツと同じくらいだと思っていた。異端人間ランキングがあったとしたら、一位はユニ助だとしても、俺とパーコは横並びだと。むしろ、ペン回しに打ち込み、技術を積み重ねてきた経験だけは勝ったつもりでいた。その一点を心の支えにして別世界の住人のコイツとマトモに渡り合ってきた。バレー部で活躍したのは身長のためだと、本人もそう言っていた。


 俺はコイツの上っ面だけを見て、勝手に勝った気でいたのだ。まるでわざと相手が負けていることに気づいていない子供の将棋だ。鷹の爪を知らぬ小鳥、大海を知らぬ井の中の蛙。なんと浅はかで、恥知らずなんだろう。


 コイツは、乾涼夏は、俺の傲慢を浮き彫りにし、自尊心をぶち壊していった。


「どしたシロー? 私のテクに言葉も出ない的な?」


「驚いたんだ。お前みたいな単純脳みそに似合わない特技で」


「マジでうざいわこのロン毛。私服殺し屋のくせに」


「なんでだよ殺し屋カッコいいだろ」


 普段通りの軽口を飛ばしながら、心は冷え切っていた。これでは恥の上塗りだ。でも、裸の王様の俺には道化を演じることしか残されていなかった。


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