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ペン回し部は廃部です!  作者: 中二病でも小説が書きたい!
第二章 兎澤文乃の日常
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4.4 ××限定ベリーベリーストロベリーハートシュークリームプリン事件④

 

「当商品はカップル限定メニューになっております!」


 若い女の店員さんは営業スマイルで言った。俺たちはほとんど同時に店員さんに背を向けて互いに顔を突き合わせる。


「どーいうことだこの綿毛頭」


「私もわかんないよ! なんかインスタに流れてた情報チラ見しただけだし!」


 俺はため息をついて店員さんの方を振り返った。


「カップルの証明っていうのは例えば……?」


 もしここで、カメラロール漁って初めてのツーショットを見せろとか言われたらおしまいだ。データは誤魔化しようがないからだ。


「恋人つなぎとかで大丈夫ですよ!」


 まあそうか。この人も仕事でやってるだけだし、イベント要素を足したところでモノが売れなきゃ本末転倒だ。


 そんくらいなら、とパーコに目配せする。俺が手のひらをズボンになすりつけると露骨に嫌そうな顔をしたが、そんな顔されると俺だって傷つくのでやめてほしい。


「ほれ」


 だが、もともと女には縁がない人生だ。それに、別世界の住人のコイツに何か期待していることもない。これは単なる事務作業だ。何の感情も入る余地がない。この店員さんも俺たちが本物のカップルかどうかなんて興味がなく、金さえ落としてくれれば文句はないはずだ。


 そう自分に言い聞かせて、無造作に手を開いて差し出す。パーコは頬を赤くしてそれを掴もうか迷っている。ためらった指先がダンスして、苦し紛れに視線をあちこちにふらつかせる。


 落ち着きのない様子だったが、ショーケースの一角を見て動きが止まる。視線の先には小ぶりだが洒落たティーカップがあった。茶渋が目立ちそうな真っ白な表面に店のロゴとキャラクターがプリントされている。


「これなんですか?」


 パーコがそれを指さして聞くと、店員さんの顔色が変わった。


「ふふふ、お客さまお目が高い! そちらはですねー、カップル認定試験を合格した真のカップルにのみ贈られる限定ティーカップでございます!」


「試験?」


「こちらになります!」


 店員さんは脇にあったA4のボードを引き寄せた。なんかデジャヴだと思ったら大喜利する芸人がフリップを立てる仕草にそっくりだった。


「認定されるためには3つの試験をパスしてもらいます! まず、ペアアイテムを身につけていること! こちら、店内のショップでご購入いただいてもOKです! 次に、このモール内のどこかでお写真を撮ってSNSに投稿すること! ち、な、み、にっ、一階のカフェ『檸檬堂』で提供されている期間限定のコラボパフェがとってもステキで写真映え間違いなし、です! 最後に、今日の素敵な思い出を記録するためにゲームコーナーでプリクラを撮っていただきます!」


 ……なるほど。一気に金の匂いがしてきやがった。店員さんは心なしかノリノリでまくしたてる。


「さあ! この試験、受ける覚悟はありますかっ!?」


「やろうよ、なんか面白そうじゃん」


「はあ? やらね〜よ」


「いや! やる。シローこれは運命だよ! 先生が好きそうなプリン買いに行ったら、先生が好きそうなティーカップまであるんだよ!? これはゲットするしかないっしょ!」


「え〜……」


「それに、これならあんたと手ぇつながなくて済みそうだし」


「……わかったよやりゃいいんだろ」


 時折見せるこいつのドライさはなんなんだ。温度差で風邪ひくぞ。


 試験を受けるために出直す旨を告げて店を後にする。帰り際に店員さんにこっそりウインクされたのだが、まさかとは思うが背中を押したつもりじゃあるまいな?


 なんであれ、やると決めたらやるしかない。この3つの試験をなるべく楽にクリアするには……。


「ゲーセン行くか」


「プリ撮るん?」


「いや、全部やる」


「?」


 俺はパーコを連れてゲーセンに行くと、真っ先にクレーンゲームの台に向かった。ショベルの下の回転テーブルには、親指サイズの小さなヒヨコのぬいぐるみが山のように積まれている。黄色と白の2種類だけだ。


 100円玉を投入すると軽快な電子音が鳴る。俺は適当にボタンを押してヒヨコのぬいぐるみを3匹ゲットした。2種類から3つ取ったのでダブりができる。


「これでペアアイテムはクリア」


 俺は黄色のヒヨコをパーコに押し付けた。次にゲーセンの奥に歩を進める。初めて来た店だが、難なくプリクラコーナーに行き着いた。わりと賑わっていて、人気の台は数組待ちだ。


 その列に並ぼうとしているパーコを無視して俺はスマホを取り出してプリクラの筐体を撮影した。


「ちょいちょい、お兄さん何してんの?」


 気づいたパーコに突っ込まれる。


「分かんねーか? ()()()()()()()()()()


「……」


「あとはこれをフォロワー0人の捨て垢に投稿してっと。はいミッションコンプリート」


「……」


 パーコはもはや呆れ顔で俺を見ていた。確かに少々解釈が飛躍した部分があるかもしれないが、俺は店員さんの指示に忠実に従った。っていうか俺が何個ティーカップをもらおうとあの人の給料が上がるわけじゃないし、とやかく言われる筋合いはない。


 再びプリンの行列を並び、あの店員さんにスマホ画面を見せる。店員さんは営業スマイルを崩さずに言った。


「転売目的ですかー?」


「えっ? いや」


「私どもはお客様に楽しんでいただきたくてやっているのに、こんなことをされたら困りますよ。そう言えば、本当のカップルかどうかも怪しいような……」


 店員さんは疑いの目を向けてくる。背筋に冷たいものが走る。マズい。もしバレたらティーカップ以前にプリンすら買えなくなってしまう。


「ですよねダメですよね! いやーすいません! コイツ照れちゃって! ちゃんとやってくれなくて私も困ってたんですよ!」


 アドリブでフォローしたパーコにバシンと肩をはたかれる。普通に痛い。


「ってことは彼氏さん釣った魚に餌やらないタイプですか? うっとおしいのは好きじゃないって、あんたが好きにさせたのに!?」


 ……どうやら、この店員さんの何かを刺激してしまったらしい。


「と、に、か、く! ちゃんとやってください! 彼女さんを悲しませないで! でないと、私は何もお売りすることができません!」


 店員さんが無理やり次の客を呼ぶものだから、俺たちはカウンターから弾き出された。行列からはぐれた俺たちはしばらく途方に暮れていた。が、パーコが再び俺の肩を強く叩いた。


「バカ! 店員さん怒らせちゃったじゃん!」


「しゃーねーだろやりたくなかったんだから」


「またそうやって!」


「お前もヤだろ? 俺みたいなのと踊らされんの。知り合いにでも見られてみろ。明日から居場所なくなるぜ」


「は、はあ!? 変な気ぃ遣うな!」


 そう言ったきりパーコの糾弾は終わった。これ以上俺と話しても時間の無駄と気づいたのだろう。分かればよろしい。


「シローがモテない理由わかったわ。こっちは置いてけぼりで全部自分でやっちゃうんだもん」


「うぬぼれんな、ホントのデートでこんなことするかよ。ってかそこまで言うならお前やれよ」


「……えっ?」


「いや、え、じゃなくて。そんなに人をコケにする自分は完璧なエスコートできんだろうなってきいてんの」


「はあ!? よ、よゆーだし! カンペキなデートできっから!」


 パーコはなぜか頬を赤らめながら強気の発言。そこまで言われると逆に、教えてほしい気持ちが素直に湧いてくる。


「じゃあ教えてくれよ、その完璧なデートをよ。彼女役やってくれよ、俺彼氏やるから」


 青春ドラマってよりはコントに入る前振りみたいになっちまったが、どうせ俺たちにラブコメなんざ似合わない。


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