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ペン回し部は廃部です!  作者: 中二病でも小説が書きたい!
第二章 兎澤文乃の日常
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4.3 ××限定ベリーベリーストロベリーハートシュークリームプリン事件③

 

 日曜日。俺は待ち合わせ場所の駅前のベンチに座っていた。文庫本のページを繰ると、腕時計を睨みつけた。組んだ足をぶらつかせると、蝶結びにしたブーツの紐の先端が光沢のある黒革の表面とぶつかって軽い音を立てる。


 午前10時28分。集合時間の2分前。俺の他には誰もいない。当然、はしゃいで早く来たんじゃない。貴重な日曜をショッピングに費やすなんざ悪い冗談もいいところだが、隙を見せてアホコンビにとやかく言われたくないので約束の15分前に待ち合わせ場所に到着しちまったのだ。


 俺はハッカのロリポップをくわえながら、改札から吐き出される人間の群れを眺めていた。


「……お」


 すると、その他大勢の群衆の中で、ひときわ目を引く姿があった。その辺の男よりも背が高く、大型犬を思わせる金髪のふわふわしたショートボブに包まれた顔はモデル並みに小さい。活発そうな大きな瞳が俺を捉えることはなく、俺に見られているとも知らずにパーコはのんきに歩いていた。


 俺は文庫本をジャケットの内ポケットにしまうと、ベンチから腰を浮かせてパーコのもとに向かう。


「よお」


「……」


 パーコはちらりとこちらを見たが、なぜかかたくなに目を合わせようとしなかった。そればかりか、俺を避けるように別方向にターンしやがった。まるでナンパに失敗したみたいでとても不本意だ。なんだこいつ。まさか、俺の私服がカッコよすぎて俺だって気づいてないのか?


 俺はロリポップを手に持ち替えると、足早にパーコを追いかけ、目の前に回り込む。


「俺だよ! 俺!」


 ハンチングのつばを指で押し上げながら言うと、パーコは目をまん丸にして俺をまじまじと観察し、目の前の人間が黒崎シローだということにようやく気づいてほっと溜息をついた。


「なんだシローか! 不審者かと思った! マジでびびったわ~! いきなりこっち来るからさあ!」


「不審者だと? 失礼な。春のお出かけコーデなんだが?」


「どこが!? 全身真っ黒で殺し屋みたいになってるよ!? 怖い怖い! どーいうセンスしてんのっ!?」


 そんなふうに言われるなんて。せっかく一軍の服でカッチリ決めてきたっていうのに。ダークなジャケットのセットアップに紫のシャツ。足元は黒光りするレザーのブーツ。黒のハンチングに肩まで伸ばした髪がこのファッションに説得力を持たせている。


 それに、私服のいかつさで言ったらパーコだって負けてない。パンツ見えるんじゃねーのってくらい破れたダメージジーンズに、ひらひらしたブラウスを合わせている。街で合ったら目を逸らしてしまうような派手な格好だ。


「けっ、そっちこそボロ雑巾みたいな恰好しやがって」


「ダメージ加工!! それとも、シローくんには刺激強めだったかな?」


 パーコはニヤニヤしながら俺を見ている。こいつと話すとペースが乱されるのがどうも苦手だ。さて、そろそろこいつの相手をするのも疲れてきた。再びベンチに座る。パーコも横に座り、スマホをいじっている。5分くらいそうしていたが、ユニ助は一向に現れなかった。


「ユニ助まだー?」


 スマホから目を離さずにパーコが独り言のように呟いた。


「まだ来ねえ」


「もう時間過ぎてるけどなー。シロー電話しなよー」


 ユニ助に電話をかける。


「今どこ?」


 フラットなトーンで電話の向こうのユニ助に話しかける。頭ごなしに怒るより先に事情を聞こう。親しき仲にもなんとやら、だ。


『だはは! スマン! 今起きた!』


「はぁ!? 寝ぼけてんのかクソチビが! こっちはとっくに集合してんだよ!」


『今から出るから12時には着くわ! ホントごめんな!』


「ちっ、おせーよアホ!」


 スマホのマイクに向かって叫び、俺は通話を切った。


「いつごろ来そう?」


「2時間かかるとよ。どこ住みだあのヤロー」


「マジ? 家めっちゃ遠いじゃん」


「……」


「……」


「……」


「……え、じゃあ行く?」


 パーコは遠慮がちに聞いてくる。ユニ助なんかのためにあと2時間このベンチで日曜日を浪費するほど仏に生まれた覚えはない。俺はパーコの提案に乗ってベンチから腰を浮かせた。


 そのままふたり連れだってショッピングモールへと歩を進める。特に何も話さず、ただ近くにいて同じ方向に歩いているだけ。俺たちは別に友達じゃない。


「……」


 歩きながら、こっそり隣を見る。パーコは無造作に両手をぶらつかせながら前を向いて歩いている。ぼんやりとした表情で何を考えているのか分からないが、いつも騒がしいやつが喋らなくなると、なんだか退屈そうに見える。


 俺がそれとなくパーコを見ているのと同じように、パーコも俺を横目で意識している。会話をするにも接点がなさすぎてきっかけが掴めずにいる。そう言えば、パーコと2人きりになるの、これが初めてだ。間にユニ助がいないとなんか気まずい……って、何で俺がこいつに気を遣わなきゃいけねえんだ。


「シローってさあ」


 パーコはふらりとこちらを向いて話しかけてきた。


「あん?」


「女子とこういうとこ来んの、初めてっしょ?」


「硬派だからな」


「じゃあ、初めての相手が私みたいな可愛い子でよかったね?」


「けっ! よく言うぜ。あと初めてじゃねえし」


「妹とかはナシだよー」


「……」


「へえ、きょうだいいるんだ? 意外、ひとりっ子だと思ってた!」


「俺の話はいいだろ。それよりほら、あれじゃねーのか」


 前方に大型ショッピングモールの巨大な外壁がそびえている。壁には出店している洋服屋や雑貨屋などのロゴが貼り付けてあり、遠くからでも分かるようになっている。入口前には噴水とベンチしかないだだっ広い芝生の広場がある。


 広場を素通りして店内に入る。軽く冷房の効いた構内に進み、背後で自動ドアが閉まると外界の喧騒が遮断された。通路を歩くと、店内には幅広い世代の客がいた。ベビーカーを押した子連れ、老夫婦、中学生くらいの男子グループ、知らない制服姿の女子高生、外国人、あとはカップル。行き交う人々に俺たちはどんな風に見られているんだろう。そう思うと急激にむずがゆい気分に襲われた。


 隣を盗み見ると、私服姿のパーコが当然のように俺と並んで歩いていた。うっすらと化粧した目元なんかを見ていると、気まぐれにこちらを見たパーコと目が合った。


「どしたんシロー?」


「別に? で、どこにあるんだ? そのビアードなんとかっていうのは」


「ビアーアンドママね。一階のイベントブースだって!」


 よくわからんのでパーコに着いていくと、開けた空間の一角に人だかりが見えた。近づいてみると、『期間限定!ビアーアンドママ POP UP SHOP』という看板の下に、商品棚の付いたレジカウンターがあった。おそらく、いろんなショップが居抜きみたいに使いまわしてるんだろう。店先はいろんな人たちで賑わっていて、早くも十数組ほどの行列が並んでいる。


 行列の最後尾に並ぶ。手持ち無沙汰で周りを見ると、やけにカップルが目につく。これがカラーバス効果か。


 隣のパーコと特に何か会話することもなく順番を待ち、行列が進むにつれて甘い匂いがほのかに漂ってくる。透明なショーケースに並んだ何種類かのシュークリームはどれも美味そうで、妹のために土産を……いや、そうじゃなかった。あくまで俺たちの目当てはこの期間限定の……ええと、なんだこれ?


「……『ベリーベリーストロベリーハートシュークリームプリン』。今までの人生で発した中で一番バカな単語だな」


「あの、これください」


 パーコはショーケースの中のそれを指さして若い女性の店員さんに言った。そんなことしたら、フルネームを唱えた俺がバカみたいじゃないですか。店員さんは俺たちを見ながら洗練された営業スマイルをした。


「かしこまりました! それでは、カップルだと証明できるものをお出しください!」


「……え?」


 パーコの動きが止まる。っていうか、今なんつった?


「当商品は()()()()()()()()()()となっております!」


「「はああああ!?」」


 俺とパーコは同時に叫んだ。どいつもこいつも、人の日曜日を何だと思ってやがる!


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