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ペン回し部は廃部です!  作者: 中二病でも小説が書きたい!
第二章 兎澤文乃の日常
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4.1 ××限定ベリーベリーストロベリーハートシュークリームプリン事件①

 

「それじゃあ、ペン回し部には入ってくれませんか」


 食堂を出てそれぞれの教室に戻る途中。2年生の教室がある3階の階段に差し掛かるところだ。


 昼飯中、俺は兎澤先輩をペン回し部に勧誘していた。先輩が仲間なら何かと心強いし、何かの接点で繋がっていたかった。なんなら普通に仲間入りする流れだと思っていた。


「せっかくのお誘い嬉しいがね」


 俺の横を並んで歩いていた兎澤先輩は、ちらりと上目遣いでこちらを見た。相変わらずの無表情で考えが読めない。


「あたしの戦いは終わったんだ。鷹爪高校のテロリストは一年前に死んだ」


 先輩が加わってくれないのは残念だが、それが先輩の美学なら仕方ない。先輩はヨーヨーを取り出してループザループを何周かして、戻ってきたヨーヨーをパシッと掴んだ。


「困ったことがあったらあの掲示板に書き込みな。こんな能力ちからで良ければ、いつでも貸す」


「いやLINEとか教えてくれた方が――」


「ヤボだぜパーコ」


「えーキャロちゃん先輩のLINEほしーな〜」


「……」


 先輩は黙ってスマホを取り出した。チョイチョイとパーコの腰のあたりをつつくと、QRコードの映った画面を見せた。パーコは先輩のLINEゲットに成功していた。


「やったー!」


 先輩の画面を覗き見たユニ助が噴き出した。


「ぶははっ、キャロパイ友だち2人ってマジすか!?」


「笑うな!」


「両親」


「言わなくていいですから!」


「じゃあ俺とシロー追加したら友だち2.5倍じゃないっすか! アマゾンスーパーセールくらいお得っすね!」


「……」


 先輩はユニ助と俺を見比べて、俺と目が合うと露骨に逸らした。何で俺嫌われてんの? と傷ついていると、先輩は持っていたヨーヨーを突然ぶん投げ、まるで威嚇するようにループザループを繰り出した。


「情けは受けぬ」


「わ、分かったっすよ……笑ってスイマセン」


 ユニ助はタジタジになって謝った。そうこうしていると3階にたどり着く。先頭を歩く先輩は「そうだ」とつぶやいてくるりと振り返った。こういう所作があどけなくてかわいい。


「顧問にアテは?」


「ないっす!」


 即答するユニ助。


「最後に餞別をくれてやる。狙い目は亀掛川きけがわ先生」


「……って、誰だ?」


「1年3組担任の女の先生でさ、あの、若くてゆるふわーな感じの」


「ああ! あの人か! カワイイ先生な!」


「確か地学だったよな、教えてんの」


「あの人熱血だし、顧問やってない。去年もヨーヨー部の話、真面目に聞いてくれた」


「マジっすか! 激アツじゃないっすか!」


 はしゃぐユニ助を見て先輩はわずかに口角を上げた、ように見えた。ふいと俺たちに背を向けて自分のクラスに戻っていく。「ありがとうございます!」というユニ助の礼を背中で聞いて、先輩は振り返らずに親指を立てた。




 * * *




 放課後は地学準備室にいるという先輩の言葉をもとに、俺たちは2階の廊下を歩いていた。俺たちは亀掛川先生のことをよく知らない。一年生は地学をやらないし、学年は同じでもクラスが違うので、集会のときに顔を見たかもしれないというくらいだ。


「どんな人なんだろうな」


「だから、カワイくて熱血で顧問までやってくれるサイコーの先生だよ!」


「んな人いたっけなぁ……」


 そんな理想的な人なら、先輩に言われるまでもなく真っ先に候補に上がりそうなものだが。漠然とした違和感が襲う。それを確かめる暇もなく、地学準備室に行き着く。先頭に立ったユニ助がコンコンとドアをノックする。


「失礼しまーす」


 返事がない。もう一度ドアを叩くも、うんともすんとも言わない。出直すか、と言おうとしたら、ドアの向こうから靴の底と床が擦れる音がした。スリッパを引きずるような、気だるげな足音だ。


「はいはいは〜いっと……」


 部屋の中からくぐもった声がしてガチャリとドアノブが押し下げられる。薄く開いたドアから真っ先に飛び出したのはミルクティーの香りだった。


 ドアが完全に開かれて亀掛川先生が姿を現した。白のブラウスにカーディガン。私服のようなパンツルック。鎖骨にかかる栗色の髪をゆるく巻いている。


 パーコが元気いっぱいの美少女なら、亀掛川先生はオトナの美人だ。生徒には許されていない化粧を使いこなしているからか、手の届かない別の生き物みたいに見える。


 見た目はふわふわっとして可愛らしいが、気だるげに開かれた半目の奥には、ドライアイスみたいにひやりとするものがあった。女子大生でも通用する、というかつい数年前までそうだったんだろう。足元はモコモコのスリッパ。ゆるい先生だな。


「こんにちは! 1年6組の遊仁ゆに 或波あるはです! キャロ……兎澤先輩の紹介で来たんすけど――」


「詳しくは、中で聞きましょうか〜……」


 亀掛川先生はドアをユニ助に預けると、つかつかと室内に戻っていった。俺たちもそれに続く。地学準備室は普通の教室と同じような奥行きで、幅は両手を広げて少し余るくらい。プリントの挟まった教科書や参考書、ドミノ倒しみたいに重なった数十冊の分厚いリングファイル、古い段ボール箱、よくわからん模型などで室内は散らかり返っていた。狭い室内が余計に狭苦しく感じる。


「紅茶?」


 鼻をひくつかせてパーコが呟く。その香りの正体は、ごちゃついた部屋の奥に進むと明らかになった。


 壁と向かい合う形で設置された作業場らしいデスクがあった。その上には、ノートPCとプリントの山、ペンスタンドが申し訳程度に置かれている。そのデスクの真ん中にはなぜかカセットコンロがあり、その上には小さな片手鍋があった。


 薄い皿の上に置かれたティーカップ。白い陶器のティーポット。細い金属の支柱でタワー状に連なった3枚の小皿。その上には、個包装のクッキーやチョコレートなど。どうやら優雅な放課後ティータイムの真っ最中にお邪魔してしまったようだ。


 奥の方の棚の中をよく見たら、お茶っ葉の入ったラベリングされた瓶がいくつも並んでいる。何かしらの古い模型の隣には、紅茶を淹れる器具や別のティーカップがいくつか収納されている。本棚には漫画本が揃い、部屋の隅には小さな冷蔵庫まであった。完全に私物化している。


 先生は俺たちにパイプ椅子をすすめると、どこからか持ってきた紙コップにティーポットを傾けて紅茶を注ぎだした。デスクの上に湯気の立った紙コップが3つ並ぶ。


「ロイヤルミルクティですよ〜……一応、牛乳入ってます〜……」


 よくわからんが、おもてなしを受けたのならありがたく頂く。……うむ、うまい。


「うわ、うっま! インスタントと全然違う!」


 良いリアクションをするパーコに、亀掛川先生はにやりと笑った。このくらい喜んでくれたら作り甲斐もあるだろう。


「クッキーもどうぞ〜……」


「うっま!! 先生天才!!」


「ふふ、ミルクティーとロイヤルミルクティーの違いって知ってますか〜……?」


「作り方ですよね?」


「そう、お湯で抽出した紅茶に牛乳を入れたのがミルクティー、お湯と牛乳で抽出するのがロイヤルミルクティーです〜……」


 先生とさっそく仲良くなるパーコ。第一印象は最高だ。コイツのコミュ力の高さは何かと役に立つ。紅茶の種類に合ったお菓子があるんですよ〜、みたいな蘊蓄を先生が語り出したので、俺はユニ助を肘でつついた。紙コップを持ってほんわかしていたユニ助は夢から覚めたように体を震わせた。


「先生! 俺たち今、部活作ろうとしてて」


「すごいですね〜……」


「ペン回し部っていうんですけど」


「そうなんですね〜……」


「顧問になってくれませんか?」


 亀掛川先生はティーカップを煽った。カチャリ、とそれを皿の上に置くと、大きなため息をついた。


「顧問〜……? ヤですよ面倒くさい〜……」


 違和感の正体が今更分かった。熱血とゆるふわは両立しない。


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