第5章「初めての一歩」
盗賊との遭遇は、レオンにとって初めて“今世で戦う”経験だった。
結果は惨めなものだったが、その中に芽生えたものがあった。
盗賊たちの足音が、土を踏み鳴らして近づく。
木剣を握る手のひらが汗で湿っていた。
レオンは目を細め、相手の動きを計る──けれど、その視線の奥にあるのは恐怖と迷いだった。
「坊主、置いてけって言ってんだろうが!」
怒声とともに、一人が飛び出してくる。
鈍い金属音。盗賊の剣が鞘から抜かれる音が、妙に耳に響いた。
レオンは踏み込みかけた足を止め、深く息を吸い込む。
今の自分に、どこまで出来る?
その問いの答えは、まだ見えなかった。
盗賊が腕を振り上げる。
瞬間、レオンは体を横にひねり、肩をかすめるように木剣を突き出した。
刃ではない衝撃が、盗賊の腹に鈍く響く。
「ぐっ……!」
ひとりがうめき声をあげて後退する。
しかし残る二人が同時に動いた。
レオンは必死に木剣を構えるが、腕が震える。
押し込まれれば一瞬で終わる距離。
──その時。
「おらぁッ!」
怒鳴り声とともに、後方から大柄な影が突っ込んできた。
鉄槌のような拳が盗賊の一人を吹き飛ばす。
「大丈夫か、坊主!」
振り向くと、村の荷運びをしている壮年の男──ガルドが立っていた。
太い腕と深い声が、今は何より頼もしかった。
「俺が相手する! お前は引け!」
レオンは木剣を握ったまま、後ずさる。
その手に残ったのは、戦ったという感触と、守れなかった悔しさ。
やがて盗賊たちは逃げ去り、森に静けさが戻った。
ガルドが肩で息をしながら笑う。
「無茶するなよ、まだ若ぇんだからよ」
レオンは頷くだけだった。
自分がどれだけ非力か、痛いほど思い知った。
それでも──胸の奥に、小さな熱が芽生えていた。
もう一度、剣を握れる自分になりたい。
無力を知ることは、力を求める第一歩。
次章では、レオンが自分を鍛えるための小さな決意を固める。
それは、ただの剣術稽古ではなく──生きる意味を探すための行動となっていく。




