第4章「守れない距離」
盗賊団の噂が現実のものとなり、レオンは再び“剣を握る場”に立たされる。
だが、その手には木剣しかなく、あの頃の力もない。
それでも──彼は立ち止まらなかった。
北の街道沿いに盗賊団が出没している──そんな噂が、村中を駆け巡っていた。
畑に出る農夫も、街へ買い出しに向かう商人も、その話を避けるように口を閉ざす。
表面上は穏やかに見える村も、どこか張りつめた空気が漂っていた。
レオンは村の広場で木剣を握っていたが、振ることはなかった。
剣を振る理由がない。
それに、この手で誰かを守れる自信も──今は、なかった。
「レオン、ちょっと!」
駆け足でやってきたリリカが、息を切らしながら声を上げた。
小さな布袋を抱えている。
「父さんが薬草を届けてほしいって。隣村のマルタおばさん、熱を出したらしいの」
「俺が行くのか?」
「うん。あんた、最近暇そうだし。それに……」
リリカは言葉を濁し、視線を伏せた。
彼女の心配を察して、レオンは短く頷いた。
──◇──
隣村への道は、街道から外れた森の小道を通る。
風の音と、足元の落ち葉の感触だけが耳に残る。
やがて森を抜けると、小さな川沿いに人影が見えた。
粗末な革鎧に、刃こぼれした剣を腰に下げた男たち──三人。
「……盗賊、か」
足が止まった。
かつてなら、迷うことなく飛び込んでいた距離。
けれど今は、ただ木剣を握る手がじっと汗ばむだけ。
一人の男がこちらに気づき、にやりと笑った。
「坊主、いい荷物持ってんじゃねえか。置いてけ」
レオンは呼吸を整えた。
戦うべきか、逃げるべきか──
しかし、戦うにしても、この手にあるのは木剣ひとつ。
その一瞬の迷いの間に、盗賊が一歩、また一歩と近づく。
風が吹く。
木の葉が舞った。
レオンは何も言わず、木剣の柄を握りしめた。
心臓の鼓動が、耳の奥でやけに大きく響いた。
守るべき距離と、守れない距離。
その間で揺れる心こそ、レオンが生きる意味を探す旅の中核となる。
次章では、この小さな衝突が、彼の心に新たな決意を芽生えさせる。
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