第24章「昼下がりの市場にて」
……「生きる」って難しいですね。題材が難しいので不定期更新になるのは申し訳ない!!
翌日、町の市場は昼の熱気に包まれていた。
屋台には焼き立てのパンの香り、干し魚の匂い、色鮮やかな布が並んでいる。
道を行き交う人々の声が重なり合い、まるでひとつの大きな音楽のようだった。
レオンは子狼を抱え、人混みを避けながら歩いた。
まだ名を持たないその小さな命は、目をぱちぱちと瞬かせながら、果物の山や香草の束を興味深そうに見つめている。
「おや、その子……連れて歩いて大丈夫かい?」
声をかけてきたのは、果物を売る年配の女商人だった。
レオンは軽く頭を下げる。
「怪我をしていたのを見つけて。……まだ放っておけなくて」
女商人は目を細めて笑った。
「ふふ、いい顔をしてるね。その子は、あんたを選んだのかもしれないよ」
「選んだ……?」
レオンが問い返すと、女商人は少し首を傾げた。
「この町じゃね、“名付け”は親と子の誓いだ。でもな、ほんとの始まりはいつも“出会い”なんだよ。名を呼ぶ前から、もう絆は芽生えてるもんさ」
その言葉に、レオンは胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。
抱えた子狼が小さく鳴き、鼻先を彼の胸に押し当てる。
市場を歩きながら、レオンはふと立ち止まった。
かつての自分は剣でしか世界を測れなかった。
だが今、名もない小さな命と共に、人々の笑い声や匂いに囲まれて歩いている。
それが不思議と、剣を握っていた頃よりも「生きている」と感じられた。
陽が傾き始める頃、レオンは市場の外れにある小さな井戸の縁に腰を下ろした。
子狼は楽しげに水面を覗き込み、飛び跳ねる水のきらめきを追っている。
「……いつか、この町で名前を呼ぶ日が来るのかもしれないな」
呟いた言葉に、子狼はまるで応えるように小さく鳴いた。
市場という人の営みの中で、レオンは「剣以外の世界」の息づかいを肌で感じました。
子狼との絆も少しずつ深まり、“名付け”が現実味を帯びてきています。
次章では、市場の裏で起こる小さな出来事が、レオンに「名前を与える覚悟」をさらに迫ることになるでしょう。
以下「作者感想」(読まなくても大丈夫です。)
これまで私は、絶望や苦しみ、嘆き、別れ、復讐、恐怖……そんな“負の感情”を描く物語ばかりを書いてきました。
なので実は今回の作品は、自分にとってちょっとした挑戦です。
「人生ってなんだろう?」
書いていると、登場人物だけじゃなく、私自身もふと立ち止まって考えてしまうことがあります。(これ本当に)
それが難しくもあり、同時に面白くもあるところです。
そしてもう一つの挑戦は、“笑い”。
ギャグやユーモアって、どんなふうに描けば「面白い」と思ってもらえるのか……まだ手探りの状態です。
だから、もしかしたら拙い部分もあるかもしれません。
けれど、あれこれ悩みながら書いている時間そのものが、今の私にとって新鮮で大切な旅になっています。
どうか肩の力を抜いて、この挑戦を一緒に見守っていただけると嬉しいです。