第17章「名前の呼び声」
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森を抜けた先に、小さな丘が広がっていた。
朝の霧はもう晴れ、遠くの空が青く澄み渡っている。
レオンは歩を止め、振り返った。
子狼が遅れて駆け寄ってくる。前足を泥で汚しながら、それでも楽しそうに。
「……お前、本当に元気だな」
腰を下ろし、木剣を取り出す。
刃はない。だが、その手入れはかつての鋼の剣と変わらない。
布で磨き、油を染み込ませる。
子狼はまた、興味津々でその手元を覗き込んでいた。
ふと、記憶の奥に火花が散る。
鍛冶屋の親方が言っていた言葉。
――「名は願いだ。どうあってほしいかを込めてやるんだ」
その時、自分は剣に“守護”と名を付けた。
守るためだけに生きていた自分に相応しい名だった。
だが今、隣にいる小さな命に、その同じ願いを重ねるのは違う気がした。
「……そうだな」
木剣の柄を撫でながら、呟く。
「お前には、お前にしかない名前が要る」
子狼は首をかしげ、短く鳴いた。
その声はまるで「じゃあ、どんな?」と問うているようだった。
レオンは笑って首を振る。
「すぐには決めないさ。……旅を続ける中で、いつかしっくり来る名を見つけよう」
風が丘を渡る。草が揺れ、鳥が飛び立つ。
その光景の中で、名もなき相棒はただ静かに寄り添っていた。
名を与えるということは、願いを与えること。
かつて剣に与えた“守護”という名ではなく、まったく新しい願いを込めた名を探すために――旅は続いていく。
次章では、町へ向かう道の中で、彼らを待つ“人との出会い”が描かれる。