第12章 風の分かれ道
朝の光は森の奥へと差し込み、土の匂いを濃くした。
レオンは背に小さな荷を負い、子狼を連れて歩き出す。
まだ歩き出したばかりの道。
その一歩ごとに問いが浮かぶ。
(本当に、俺は旅をする意味があるのか?
ただ生き延びるだけなら、村に残ればいい。
それでも、剣を失った俺は……あそこに居てもいいのだろうか?)
振り返れば、リリカの「帰ってくるんでしょ?」という言葉が残っている。
答えられなかったその問いが、まだ胸の奥で疼いていた。
──子狼が足元で立ち止まった。
前足を川辺の水に浸け、振り返る。
その仕草に、レオンは小さく笑った。
「お前は迷わないんだな。
俺は、どうしてこんなに迷うんだろうな……」
川のせせらぎに紛れて、答えは返ってこない。
けれど狼の子の瞳はまっすぐで、それだけが不思議に心を落ち着けた。
──◇──
昼下がり。
二人は分かれ道に立っていた。
右は街道へと続く道。人が多く、交易も盛んだろう。
左は森の奥へと続く小道。地図にも載らない、行き先すら分からない。
レオンは立ち尽くし、空を仰いだ。
(剣を振る理由を探すなら、人のいる場所に行くべきか?
それとも、誰も知らない景色にこそ答えがあるのか?)
子狼は小道の方へと歩き出し、鼻を鳴らした。
振り返ると、まるで「お前はどうする?」と問うているようだった。
レオンは笑い、肩の力を抜いた。
「そうだな。剣のときは、選ぶ理由なんて考えたこともなかった。
ただ、殿下を守るために前へ進むだけだった……」
(じゃあ、今の俺は?
誰を守るわけでもない俺は、何を選ぶ?)
長い沈黙の後、レオンは左の道へと歩を進めた。
理由は、まだ見つからない。
けれどその曖昧さこそが、旅の始まりなのかもしれなかった。
──風が分かれ道を通り抜け、森の奥へと誘うように吹き抜けていった。
この章では「レオン自身が何度も問いかける」ことを重視しました。
答えは出ないままでもいい。むしろ出ないからこそ、読者と一緒に歩いている感覚を作れます。
次章では、さらに深い森の中で「不意に訪れる出会い」を描いてみます。