湯けむり素肌の距離 〜セリス〜
扉が開いた瞬間、ふわりと広がるあたたかな空気に包まれた。
ほのかに漂う湯の匂い。心地よい湿気が肌に吸いついて、思わず肩の力が抜けてしまいそうだった。
脱衣所の中では、服を脱いだ少女たちが楽しそうに笑いながら、次々に浴場へと駆けていく。
どこか懐かしいような、けれど初めて見る光景。私の胸の奥が、ふわっと熱を帯びた。
「……私、こういうところに来るの、初めてなの」
ぽつりとつぶやいた言葉に、隣を歩いていたセラがすぐに応えてくれる。
「じゃあ、説明するね」
セラの声は、こういう時ほんとうに頼もしい。
彼女は並ぶロッカーを指さしながら、使い方を一つひとつ説明してくれた。
――未使用のロッカーには鍵がついていて、鍵のないのは誰かが使っている印。鍵には番号札が付いていて、それを紐で手首に掛けておくこと。
「ありがとう」
自然と笑みがこぼれていた。
セラの説明は、どこか先生のようで、それでいて優しかった。
ふたり並んで未使用のロッカーの前に立ち、私は腕を動かしてカバーを外す。
布地が滑り落ち、バングルを外して、そっとロッカーの中へ。
足元に手を伸ばし、ストッキングを脱ぐと、ひんやりとした空気が肌に触れた。
思わず背筋がぞくりとしたけれど、それすらも不快じゃなかった。
すぐ横で、セラが自分の服を勢いよく脱ぎ、ロッカーに放り込んでいた。
「……ふふ」
セラらしいな、と思う。
いつもまっすぐで、少し照れ屋で、不器用なほど素直。
私は肩にかけていたレオタードの端を指でつまんで、そっと引き下ろす。
そのまま丁寧に畳んで、ロッカーへとしまう。
その時、視線を感じて顔を上げると――目が合った。
「そんなに見て、どうしたの? 私、太ったかしら?」
軽口を叩いてみせると、セラが一瞬固まって、少しうつむき加減に答える。
「ううん、違う。……綺麗だなって」
まっすぐな言葉に、私の胸の奥がくすぐったくなった。
きっと、彼女は無意識に言っているんだろう。
けれど、その無自覚な優しさが、私は――とても好きだった。
「ほら、行こっ。時間、なくなっちゃう!」
焦るように言うセラの後ろ姿。
彼女の手首に巻かれたロッカーの鍵が、カチリと揺れて光を反射していた。
私も鍵を手首にかけると、そっと一歩、湯気の向こうへ足を踏み出した。




