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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第2部:その手はまだ繋がって
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湯けむり素肌の距離 〜セリス〜



扉が開いた瞬間、ふわりと広がるあたたかな空気に包まれた。




ほのかに漂う湯の匂い。心地よい湿気が肌に吸いついて、思わず肩の力が抜けてしまいそうだった。




脱衣所の中では、服を脱いだ少女たちが楽しそうに笑いながら、次々に浴場へと駆けていく。


どこか懐かしいような、けれど初めて見る光景。私の胸の奥が、ふわっと熱を帯びた。




「……私、こういうところに来るの、初めてなの」




ぽつりとつぶやいた言葉に、隣を歩いていたセラがすぐに応えてくれる。




「じゃあ、説明するね」



セラの声は、こういう時ほんとうに頼もしい。


彼女は並ぶロッカーを指さしながら、使い方を一つひとつ説明してくれた。


――未使用のロッカーには鍵がついていて、鍵のないのは誰かが使っている印。鍵には番号札が付いていて、それを紐で手首に掛けておくこと。





「ありがとう」



自然と笑みがこぼれていた。


セラの説明は、どこか先生のようで、それでいて優しかった。



ふたり並んで未使用のロッカーの前に立ち、私は腕を動かしてカバーを外す。



布地が滑り落ち、バングルを外して、そっとロッカーの中へ。



足元に手を伸ばし、ストッキングを脱ぐと、ひんやりとした空気が肌に触れた。


思わず背筋がぞくりとしたけれど、それすらも不快じゃなかった。


すぐ横で、セラが自分の服を勢いよく脱ぎ、ロッカーに放り込んでいた。


「……ふふ」



セラらしいな、と思う。

いつもまっすぐで、少し照れ屋で、不器用なほど素直。




私は肩にかけていたレオタードの端を指でつまんで、そっと引き下ろす。

そのまま丁寧に畳んで、ロッカーへとしまう。




その時、視線を感じて顔を上げると――目が合った。


「そんなに見て、どうしたの? 私、太ったかしら?」



軽口を叩いてみせると、セラが一瞬固まって、少しうつむき加減に答える。




「ううん、違う。……綺麗だなって」



まっすぐな言葉に、私の胸の奥がくすぐったくなった。

きっと、彼女は無意識に言っているんだろう。

けれど、その無自覚な優しさが、私は――とても好きだった。



「ほら、行こっ。時間、なくなっちゃう!」



焦るように言うセラの後ろ姿。


彼女の手首に巻かれたロッカーの鍵が、カチリと揺れて光を反射していた。


私も鍵を手首にかけると、そっと一歩、湯気の向こうへ足を踏み出した。

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