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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第2部:その手はまだ繋がって
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湯けむり素肌の距離

 




 脱衣所の扉を開けると、そこには温かな湿気と、ほんのりとした湯の香りが広がっていた。思わず鼻がくすぐったくなる。




 目の前に広がるのは、白いタイルの床と、壁際にずらりと並ぶロッカー。そして、楽しげに駆けていく同世代の少女たちの笑い声。




 彼女たちは脱いだ服を手に、すぐさま浴場へと消えていく。




 ――そうだよね。

 誰だって、温かいお風呂には飢えていた。




 私たちは、冷たい水が当たり前の生活だった。



 シャワーからお湯が出るなんて夢のまた夢で、家では水をちょろちょろと出して体を拭き、髪を流す。暖かさよりも寒さに耐える方が日常だった。





 だから、"大浴場"なんて言葉を聞いたとき、胸の奥から自然と高鳴りがこみ上げてきたのも当然だった。






「……私、こういうところに来るの、初めて」


 セリスが、ぽつりとこぼす。


「じゃあ、説明するね」




 私は目の前に並ぶロッカーを指差す。



 鍵のついたものが未使用のサイン。番号シールの貼られたロッカーの鍵は、紐で手首に掛けておく。鍵のないものは使用中ってこと。




「ありがとう」




 セリスは微笑むと、素直に頷いてロッカーを開けた。

 彼女の動きは、まるで一連の儀式のように静かで丁寧だった。




 腕を覆っていたカバーがスルリと外され、音もなくロッカーの中へ。バングルも外して並べると、今度は足元へと手が伸びる。太ももを包む足カバーをつまみ、するりと脱ぐと、その下の白い肌が目に飛び込んできた。





 ……うわ、すご……




 いやいや、違う、何考えてんの私。

 リリィの着替えなんてこれまで何度も見てきたのに、風呂だからって何を動揺してるんだか。




「はあ……やめやめ、考えるのやめ」



 そう呟いて、私も勢いよく足カバーを脱ぎ捨て、レオタードを乱暴に脱いでロッカーに放り込む。



 両手をパンッと叩いて気合を入れ直す。




「これで、ヨシ!」




 視線の先、セリスはまだ静かに着替えを続けていた。

 肩にかけていたレオタードを指先で引っ張り、滑らかに脱ぎ下ろして、優しく畳んでロッカーに収める。




 長い髪がふわりと揺れて、その下から白く滑らかな肌と、やわらかな曲線がちらりと見えた。




 あ……。



 思わず視線が吸い寄せられてしまった私に、セリスがふいに気づく。



「……そんなに見て、どうしたの? 私、太ったかしら?」



 腰とくびれあたりに手を当てて、冗談めかして首をかしげる。



「ううん、違う。……綺麗だなって」



 素直にそう答えてから、私は慌てて話題を切り替えるように口を開いた。




「ほら、行こっ。時間、なくなっちゃう!」



 ロッカーの扉を閉め、鍵を手首に巻きつける。

 セリスもまた、静かにうなずくと、微笑んだ。


 扉の向こう、白い湯けむりがゆらゆらと揺れていた。

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