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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第2部:その手はまだ繋がって
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大浴場

 


 結局――セリスは自分のアイスクリームを、オルエに半分あげていた。





「食べる?」と差し出した時の彼女の笑顔は、いつもと変わらない穏やかなもので、そこに憐れみや同情といった感情は見えなかった。ただ、そうするのが自然だと信じて疑っていないような、不思議なやさしさだった。





 ……やれやれ、私も影響されてるのかな。




 ため息を一つ吐いて、私はトゥヴァの方を見た。まだ少し涙を残した顔で、鼻をすすりながら、うつむいてスプーンを握っている。




「……仕方ないな」


 私はそう呟いて、自分のアイスを半分、空いた皿にすくって置いた。




「えっ……いいの?」



 驚いたようにこちらを見るその目は、さっきまでとは少し違っていた。戸惑いの中に、わずかな嬉しさと安心が混じっていて、子供のような表情だった。




「いいから、食べて」




 そう言ってから、私は自分のスプーンを手に取る。


 サクッとすくったアイスクリームを口に運ぶと、甘さと冷たさがじんわりと舌に広がる。





 ああ……美味しい。こんな時に食べるには、ちょっと優しすぎる味かも。







 食事が終わると、私はセリスと並んで、通路フロアの一角でくつろいでいた。彼女の隣にいると、時間が緩やかに流れる気がする。




 ぼんやりとその時間に身を任せていると、静かにアナウンスが流れた。




 ――『大浴場に入浴される方、S2型、S2a型、S2b型の3グループずつ15分、15分後にS2c型以降も呼び出しますので、それまでに入浴を終えてください』





「……お風呂!? しかも時間、短っ!」




 慌てて立ち上がると、隣のセリスの手をがっしりと掴んで引っ張る。



 人の流れを目で追い、浴場へ向かう道を辿ると、そこには見覚えのある厳格な姿――カティア中尉が立っていた。






「入りたい者はすぐに入れ!」



 軍人のような張りのある声が響き渡る。






「湯船は次に入る者と共有することとなる!十分に頭と体を洗っておけ!石鹸もシャンプーも適切に使え、無駄は許さん!時間は15分だ、さっさと済ませろ!!」





 ……風呂すら訓練の一部なのかと思わせる勢いに、思わず背筋が伸びた。






 セリスが、私の手を見つめながら、ふと柔らかく語りかける。





「……行きましょ?」




 私はハッとして、自分の手を見下ろす。

 彼女の手を、ずっと握ったままだったことに今さら気づく。


「あ……っ」


 ぱっと手を離すと、セリスはくすりと笑った。


「ふふっ」


 照れたように逸らした視線の先、彼女はすでに歩き出していた。

 その背を追いかけながら、私は少し遅れて脱衣所へと足を踏み入れる。

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