大浴場
結局――セリスは自分のアイスクリームを、オルエに半分あげていた。
「食べる?」と差し出した時の彼女の笑顔は、いつもと変わらない穏やかなもので、そこに憐れみや同情といった感情は見えなかった。ただ、そうするのが自然だと信じて疑っていないような、不思議なやさしさだった。
……やれやれ、私も影響されてるのかな。
ため息を一つ吐いて、私はトゥヴァの方を見た。まだ少し涙を残した顔で、鼻をすすりながら、うつむいてスプーンを握っている。
「……仕方ないな」
私はそう呟いて、自分のアイスを半分、空いた皿にすくって置いた。
「えっ……いいの?」
驚いたようにこちらを見るその目は、さっきまでとは少し違っていた。戸惑いの中に、わずかな嬉しさと安心が混じっていて、子供のような表情だった。
「いいから、食べて」
そう言ってから、私は自分のスプーンを手に取る。
サクッとすくったアイスクリームを口に運ぶと、甘さと冷たさがじんわりと舌に広がる。
ああ……美味しい。こんな時に食べるには、ちょっと優しすぎる味かも。
食事が終わると、私はセリスと並んで、通路フロアの一角でくつろいでいた。彼女の隣にいると、時間が緩やかに流れる気がする。
ぼんやりとその時間に身を任せていると、静かにアナウンスが流れた。
――『大浴場に入浴される方、S2型、S2a型、S2b型の3グループずつ15分、15分後にS2c型以降も呼び出しますので、それまでに入浴を終えてください』
「……お風呂!? しかも時間、短っ!」
慌てて立ち上がると、隣のセリスの手をがっしりと掴んで引っ張る。
人の流れを目で追い、浴場へ向かう道を辿ると、そこには見覚えのある厳格な姿――カティア中尉が立っていた。
「入りたい者はすぐに入れ!」
軍人のような張りのある声が響き渡る。
「湯船は次に入る者と共有することとなる!十分に頭と体を洗っておけ!石鹸もシャンプーも適切に使え、無駄は許さん!時間は15分だ、さっさと済ませろ!!」
……風呂すら訓練の一部なのかと思わせる勢いに、思わず背筋が伸びた。
セリスが、私の手を見つめながら、ふと柔らかく語りかける。
「……行きましょ?」
私はハッとして、自分の手を見下ろす。
彼女の手を、ずっと握ったままだったことに今さら気づく。
「あ……っ」
ぱっと手を離すと、セリスはくすりと笑った。
「ふふっ」
照れたように逸らした視線の先、彼女はすでに歩き出していた。
その背を追いかけながら、私は少し遅れて脱衣所へと足を踏み入れる。




