揺れるテーブル 〜セリス〜
トゥヴァちゃんの声が、ふるふると震えていた。
「なんで……そんな、平気な顔してるのよ」
その問いは、鋭くも、少しだけ弱々しかった。
彼女の中で感情が爆発しそうになって、それでもぎりぎりのところで抑え込まれているような、そんな危うさがあった。
隣に座っているオルエちゃんは、というと――
「え?だって……みんな初めてでしょ〜?」
ふわふわとした声で、悪気なんて欠片もなさそうに答えた。
何も知らない子どもが、目の前の不思議に疑問を持つような、そんな素直さだった。
「私も頑張ったの、うん。反射測定はちょっと遅れてD、足場から落ちてD、怖い映像で叫んでD、射撃は当たらなかったけどたくさん撃ったよ。でもD、あれぇ?おかしいなあ、ねえ?」
あの笑顔には、一切の羞恥も落ち込みもなかった。
むしろ、無邪気で、純粋で、だからこそ――きっと、トゥヴァちゃんには許せなかったのだろう。
「……論外よ」
涙を堪えた声。
私はそっと、トゥヴァちゃんの横顔を見つめる。
目元がわずかに赤くなっていて、彼女がどれだけ今のやりとりで傷ついたかが分かる。
でも――
私は、オルエちゃんのことが、少し面白いと思っていた。
普通、ああいう評価を受けたら、恥ずかしがったり、悔しがったりするのに。
彼女は違う。Dという評価すら、純粋な事実として受け止めている。
まるで、成績表を見た小学生のように。
「どうしてそんな風になれるのかしら……」
無意識に、私は観察していた。
彼女の指の動き、姿勢の傾き、言葉の抑揚――それらが全て、私にとっては一つの“ヒント”だった。
どうすればああなれるのか。
どうすれば、あの子のように何も気にせずに笑えるのか。
たとえD評価でも、彼女は今、アイスクリームを美味しそうに頬張っている。
「んふふ〜、おいし〜いっ」
私の隣にいるセラは、というと、やや困った顔でスプーンを動かしていた。
場の空気に押されているようにも見えたけど、何も言わない。
みんな違って、みんなが少しずつ揺れていて、
でも、私は――今、この空気をただ記録していた。心の中で、静かに。
このテーブルには、いろんな“温度”がある。
熱かったり、冷たかったり、重たかったり、軽かったり――
そういうのを感じ取るのが、私はきっと得意なんだ。
……でも、それをどうすればいいかまでは、まだ分からないのだけど。




