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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第2部:その手はまだ繋がって
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揺れるテーブル 〜セリス〜

 


 トゥヴァちゃんの声が、ふるふると震えていた。




「なんで……そんな、平気な顔してるのよ」





 その問いは、鋭くも、少しだけ弱々しかった。




 彼女の中で感情が爆発しそうになって、それでもぎりぎりのところで抑え込まれているような、そんな危うさがあった。





 隣に座っているオルエちゃんは、というと――





「え?だって……みんな初めてでしょ〜?」




 ふわふわとした声で、悪気なんて欠片もなさそうに答えた。




 何も知らない子どもが、目の前の不思議に疑問を持つような、そんな素直さだった。





「私も頑張ったの、うん。反射測定はちょっと遅れてD、足場から落ちてD、怖い映像で叫んでD、射撃は当たらなかったけどたくさん撃ったよ。でもD、あれぇ?おかしいなあ、ねえ?」




 あの笑顔には、一切の羞恥も落ち込みもなかった。




 むしろ、無邪気で、純粋で、だからこそ――きっと、トゥヴァちゃんには許せなかったのだろう。





「……論外よ」





 涙を堪えた声。



 私はそっと、トゥヴァちゃんの横顔を見つめる。



 目元がわずかに赤くなっていて、彼女がどれだけ今のやりとりで傷ついたかが分かる。




 でも――




 私は、オルエちゃんのことが、少し面白いと思っていた。




 普通、ああいう評価を受けたら、恥ずかしがったり、悔しがったりするのに。


 彼女は違う。Dという評価すら、純粋な事実として受け止めている。




 まるで、成績表を見た小学生のように。





「どうしてそんな風になれるのかしら……」


 無意識に、私は観察していた。



 彼女の指の動き、姿勢の傾き、言葉の抑揚――それらが全て、私にとっては一つの“ヒント”だった。



 どうすればああなれるのか。


 どうすれば、あの子のように何も気にせずに笑えるのか。




 たとえD評価でも、彼女は今、アイスクリームを美味しそうに頬張っている。



「んふふ〜、おいし〜いっ」




 私の隣にいるセラは、というと、やや困った顔でスプーンを動かしていた。

 場の空気に押されているようにも見えたけど、何も言わない。


 みんな違って、みんなが少しずつ揺れていて、

 でも、私は――今、この空気をただ記録していた。心の中で、静かに。




 このテーブルには、いろんな“温度”がある。



 熱かったり、冷たかったり、重たかったり、軽かったり――


 そういうのを感じ取るのが、私はきっと得意なんだ。



 ……でも、それをどうすればいいかまでは、まだ分からないのだけど。

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