揺れるテーブル
「なんで……そんな、平気な顔してるのよ」
トゥヴァの声が、震えていた。
怒っているのか、悲しんでいるのか、言葉に乗せきれないほどの感情が滲み出ている。
眉間には深い皺が刻まれ、胸の奥に蓄積した思いが今にも零れ落ちそうだった。
至極真っ当な問いだった。
だが、それを向けられたオルエはというと、首をかしげて、小さな笑みすら浮かべている。
「え?だって……みんな初めてでしょ〜?」
口調はのんびりとしたものだった。
「私だって頑張ったんだからね? 反射測定はちょっと遅れてD、よろけて足場から落ちてD、怖い映像見て叫んじゃってD、射撃もね、いっぱい撃ったんだよ? 当たらなかったけど。でも頑張ったの、うん。なのにD……おかしいなぁ。私、頑張ったのに」
そこに一片の悪意も、皮肉もなかった。
ただ事実を並べ、疑問を口にしただけの、素直な“感想”だった。
トゥヴァは唇をギリ、と噛みしめる。ぐらぐらと心が揺れているのが見て取れた。
言いたいことが喉まで出てきて、でも言ったところで届かないと、無意識に理解してしまったのだろう。
吐き出す代わりに、そっと、涙をにじませながら言った。
「……論外よ」
その言葉には、敗北にも似た苦さが滲んでいた。
スプーンを手に取り、無言で、ぱくぱくと食べはじめる。怒りや悔しさを押し込めるように、口に運んでいく。
セリスはというと、隣のオルエをじっと見つめていた。
その瞳には怒りも呆れもなく、ただただ純粋な「関心」が宿っている。
「どうやってそんな結果が出せるの……指の動き?体勢のとり方?思考の流れ……ふふっ、面白い子」
まるで未知の研究対象を目の当たりにしたかのように、彼女はわずかに目を輝かせる。そこに悪気など一切ない。ただ、セリスは“理解したい”だけなのだ。
そして、私はと言えば――この空気に、ただただ取り残されていた。
ぐちゃぐちゃな感情、淡々とした事実、無邪気な関心。
同じテーブルに並んだ四人の少女たちは、それぞれの「違い」を突きつけ合っているようだった。
私はスプーンを動かしながら、ふと考える。
……学校、どうしてるかな。
私とリリィが突然消えたんだから、何か問題になってもおかしくない。
行方不明届とか、親が騒いでたりしないだろうか。
だけど、本当のところを言えば……この生活、そんなに嫌いじゃない。
家で食べるご飯よりもずっとおいしいし、寝心地のいいベッド、そして何よりリリィがそばにいる。
悪くない。




