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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第2部:その手はまだ繋がって
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S2型-024 トゥヴァ  〜トゥヴァ視点〜

誰かの視点ってなかなか面白いなって、戯言…を残しておく

 

 射撃試験の終わり、私は黙って、遠くからその様子を見ていた。


 他の子たちは、もう解散しはじめていて、ざわざわとした空気がまだ残っていた。けれど、私は動けなかった。気づけば、あの二人を目で追っていた。


 ――うますぎる。


 ズルい、って思った。みんな初めてすることなのに、私もちゃんと一生懸命に取り組んでいたはずなのに…。なのに。



 あの子たちは、簡単そうに、余裕の顔で撃って、しかもあんなに当てて――




 許せなかった。





 悔しかった。




 だから、気づいたときには、足が勝手に動いていて、手が勝手に伸びていた。





「ちょっと!」





 彼女の手首を掴んで、勢いのままに言葉を吐き出した。




「あなた達、なんで? どうして射撃があんなにうまいのよ。おかしい! ズルしてるでしょ! 努力する人をバカにするのって……論外だわ!」




 ――あ、ちがう。こんな言い方がしたかったんじゃなかった。




 でももう止まらない。止め方がわからない。




 彼女は、ぽかんとしていた。そりゃそうだ。突然怒鳴られて、誰だってそうなる。




「え……なに? 誰? なんでそんなに怒ってるの」




 ……やばい。こんなときこそ、名乗らないと。でも名前が、型番が、口の中でぐちゃぐちゃになって出てこない。




「えす……ぅ……型、ぜろ……よん?……ぐ……トゥヴァ! 私はトゥヴァよ!!……今、馬鹿とか思ったでしょ!!」




 ――最悪だ。ちゃんと名乗れてないし、恥ずかしさで顔が熱くなる。




 彼女――セラは、呆れたように名乗った。



「S2型-015、セラ」



 その横にいた、もう一人の子も続ける。




「S2型-016、セリスです」



 ……セリス。




 この子が、特にずるいと思っていた。あんな風に撃てるの、天才みたいな子。人の心に土足で踏み込んでくるような、でも嫌な感じがしない子。




 そして彼女は、笑ってもいなければ怒ってもいない声で聞いてきた。



「どうして、そう思ったの?」







 ……え?








 なんでって……それは、






 って考える間もなく、彼女が一歩、近づいてくる。




 ちょっと、近いってば。




「え、ちょっ……なに、近い……」




 距離感って知ってる!?って言いかけた瞬間、彼女がふっと言う。




「……向こう向いて」



「は? な、なんでよ――」






 ……と思ったら、背中にぴったりと腕の感触が来て――



「う、ちょ……!?」


 は!? ちょっと!? ちょっと待って!? なにこれ!?




「こう、持って……パン、パンッって」




 彼女は、私の手に自分の手を重ねて、銃の構えを再現しながら、さらっと教えてくる。




「反動でズレるから、ここで脇を締めて……右手はこう。よくわかんないけど、これでちゃんと、真っすぐ狙ったところに飛ぶから」




 なにそれ……そんな簡単に言われたら……!




 身体が動かない。心臓が、やけに煩くて、変な汗が出る。




 ……っていうか、ちょっと待って!?




「わかったから! もういい、離して! ……胸が当たってるから! やめて、論外だわこんなの!!」




 顔が熱い。何も考えられない。なにもかも論外!




 私はその場から逃げ出すように走った。誰にも見られたくない顔だった。もう、なにもかもが、ぐちゃぐちゃで――



 ……でも、ほんの少し、あの感触は、心のどこかに残ってしまった。

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