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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第2部:その手はまだ繋がって
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S2型-024 トゥヴァ  〜セリス視点〜

謎に別視点を作るというね…

自己満っすね…

 

 みんなが散っていく中で、私はまだ少し余韻に浸っていた。射撃試験の空気は、まだ空間にふわふわと残っていて、時折こちらに向けられる視線がくすぐったい。



 けれどそんなことは、どうでもよかった。


 私はセラのそばに立ち、さっきの射撃について、自然と口を開いていた。


「あそこはもっとこう構えれば安定したかもね。あと、セラが撃ったときの反動の抑え方、ちょっと私も真似してみたいな」



 そんな風に言葉を交わすのが、私は好きだった。


 体操演技のときもそうだったけれど、セラと並んでいると、どんな話も特別になる。たとえそれが些細なテクニックの話でも。



 静かで淡々としていると思われがちな私だけど、本当は、信頼している子には少しくらいお茶目になってもいいんじゃないかって、そう思ってる。




 ……アイリスも、きっとそれに気づいてる。



 でも、そのときだった。突然、セラが誰かに手首を掴まれた。



「ちょっと!」




 振り返ると、そこには背の低い――でも態度だけはやたら大きい少女が立っていた。勢いに任せて怒鳴るその子は、私たちをキッと睨みつけながら、まくし立てた。



「なんでそんなに射撃がうまいのよ! ズルしてるでしょ! 努力する人をバカにするのって……論外だわ!」



 ……ああ、私は小さく息をつく。




 怒っているようで、でもどこか必死で。きっとこの子、すごく真面目なんだ。努力して、でも報われなくて……だから、こうしてぶつけずにはいられなかったのだろう。




「え……なに?誰?なんでそんなに怒ってるの」



 セラが困ったようにそう言うと、少女は突然しどろもどろになって、胸に手を当てながら自信なさげに名乗った。


「えす……ぅ……型、ぜろ……よん?……ぐ……トゥヴァ! 私はトゥヴァよ!!……今、馬鹿とか思ったでしょ!」




 正直、ちょっと可愛かった。




 彼女――トゥヴァと名乗ったその子は、今度は私を睨む。


 その目に込められた疑問。怒り。嫉妬。それら全部を、私はただひとつの言葉で返した。


「どうして、そう思ったの?」




 真っ直ぐに聞きたかった。その子がどうして、そんなに苛立っているのか。ただ、私は――知りたかった。



 どうしてこの子には、あれが「できない」と思ったのかを。




 そして、もう一歩だけ近づいてみた。


 その瞬間、彼女の表情がピッと強ばったのがわかる。




「え、ちょっ……なに、近い……」




 私は一呼吸だけ間を置いて、そっと言った。






「……向こう向いて」




「は? な、なんでよ――」




 言い終わる前に、私は彼女の背に手を回し、そっと銃を持つ形に導いていった。ちょっと驚かせたかな。でも、これは言葉じゃ伝わらないから。




「こう、持って……パン、パンッって」




 手の感覚で覚えてもらうのが一番だと思った。


 私はあまり説明が得意じゃない。うまく言葉にするより、感じてもらったほうが早いと思う。



「反動でズレるから、ここで脇を締めて……右手はこう。わかんないけど、これで真っすぐ狙えるの」




 頭で考えるより、感じてみて欲しかった。自分の体がちゃんとできることを、知ってほしかった。




「わかったから!もういい、離して!……胸が当たってるから!やめて、論外だわこんなの!!」




 ……逃げていっちゃった。


 彼女は顔を真っ赤にして、逃げるように走っていった。


 その背中を見送りながら、私は小さく微笑んだ。


 ――可愛い子だったな。


「あ、セラ。ね、なんだか、可愛い子でしょ?」


 振り返ったセラの顔は、ちょっと複雑そうで。

 でも、きっと彼女も気づいているはずだ。


 あの子が不器用なだけで、根は――悪い子じゃないって。


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