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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第2部:その手はまだ繋がって
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休憩時間

 


 広く無機質な通路フロアに、私たちは戻ってきていた。



 コンクリートの壁に囲まれたこの場所にも、訓練の余韻が静かに漂っている。



 先ほどの射撃模擬戦を終えた私たちS2型の一団に向けて、カティア中尉が前に出る。



 その瞳は鋭くも冷静で、言葉の端々に規律と実務の重みが滲んでいた。



「次は、S2型兵装の体験訓練を行う。それまでは自室、またはこの通路フロアで待機していろ」



 一拍の間を置いて、カティア中尉は視線を私たち一人ひとりへと巡らせる。



「なお、今回の模擬戦の結果――成績、評価、順位に応じて、内部通貨を支給する。多く得る者もいれば、少なくしか得られない者もいるだろう。内部通貨は食堂、衣類、アクセサリーなどの購入に使用可能だ。好きに使えばいい」



 その言葉に、ざわ…と軽いざわめきが広がった。

 ご褒美とも罰とも取れるその仕組みに、誰もが少なからず反応を示していた。



 その中で、一人の少女が静かに手を挙げる。



 彼女は他の子たちより少しふっくらしていて、足カバーがやや窮屈そうに見えた。


 豊かな胸元を抱え、声を少し上ずらせながらも意を決して口を開く。



「あの…質問いいですか」


 カティア中尉は、間髪入れず応じた。


「許可する。言え」


「もし…その、内部通貨がなくなったら……ご飯、食べられないんですか?」



 その問いに、少し空気が張りつめる。だが、カティア中尉はすぐに、はっきりとした口調で答えた。



「心配するな。食事は午前と午後の二食、決まって出る。内部通貨を使うのは、配給時間外の追加食事、嗜好品や菓子類の類いだ。他に質問は?」



「……よかったぁ~」

 彼女は頬をゆるめて、にへらっと笑った。


「……ないなら解散だ。寝る前に歯を磨くように」



 ぽつりと、カティア中尉が締めくくるように言い放つと、すぐ後ろの下士官に目配せする。



 その合図とともに、場内にアナウンスが響いた。


「S2a型、次のグループは通路に出てきてください」



 訓練区画へ向かう次のグループの呼び出しが、無機質な声で告げられる。



 そして私たちは、束の間の自由を与えられた。



 私は一歩だけ後ろに下がって、無意識に周囲を見回す。


 セリスは――


 見つけた。



 彼女はすでに人だかりに囲まれていた。


 射撃訓練でのあの圧倒的な精度が自然と注目を集めているのだろう。



 近寄りたくても近づけない様子で、少し困ったように眉を下げて笑っている。



 その光景に、胸がちくりとした。

 懐かしい感覚だった。かつての学校で似たようなことがあったのを思い出す。



 もやもやを吹き飛ばすように、私は大きく手を振って叫んだ。



「セーリースッ!!」



 声がフロアに響いた。

 注目が一斉にこちらに集まり、ざわめきが広がる。



 セリスは少し驚いたように目を見開き、すぐに口元を緩めると「ごめんね」と周囲をかき分けて小走りにこちらへやってくる。


「ありがとう」


 静かに、けれども確かに。

 彼女の声は、まるで風に乗るように、やさしく私の耳に届いた。

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