射撃シュミュレーション
「これより模擬戦闘シミュレーションを行う。各員、聞いて覚えろ」
無機質な空気を切り裂くように、カティア中尉の張りのある声が響く。言葉一つひとつが鋭利な刃のようだった。
「使うのはペイント銃。目標は制限時間内に何体倒せるか。命中精度、そして頭部ヒットの3点で評価する。
命中ごとに+2点。全30体。
命中精度は+10点。無駄撃ちは5発ごとに−5点。
頭部ヒット1体につき+1点。最大で100点満点。
Aは85以上、Bは75以上、Cは65以上、Dは55以下」
淡々と説明されるルールに、私たちは誰も言葉を挟めずにただ頷いた。
つまり――無駄撃ちをせず、確実に当てる。それだけでも70点には届く。
「やりたい者から前に出ろ。ぐずぐずするな」
カティア中尉が鋭く促すと、誰もが一瞬戸惑った。
銃、たとえ模造であっても、本物に似た形をしている。重く、冷たく、そして――怖い。
リリィ――セリスがそっと私の袖を引いた。
「ねぇ、すごい。本物、なのかな?」
小声で問いかけながら、興味ありげに銃を覗き込んでいる。瞳は好奇心にきらめいて、どこか楽しげですらあった。
「セリス、自信あるの?」
「んー、やってみないとわかんないかも?」
指先を顎に当てて考えるような仕草。そして、ふわりと笑ってみせる。
その無邪気な笑みが、不思議と私の肩の力を抜いてくれた。
私とセリスは、先に進んだ誰かのテストを眺めながら、後方で順番を待った。
パシュッ、パシュッ。
ペイント弾が飛ぶたび、乾いた音と共に小さな反動が銃を揺らす。
照準が安定せず、連射のたびに弾が外れる。
的が倒れず、動揺してさらに外す――そんな悪循環に陥っているのが見て取れた。
評価は軒並みD、たまにC。
射撃経験などあるはずもない私たちにとっては、当然の結果かもしれない。
そんな中、セリスが前に出た。
一瞬だけ私の方を見て、目が合う――まるで「見ててね」とでも言いたげな眼差し。
カティア中尉が開始を告げる。
パシュ、パタン。パシュパシュ、パタンパタン。
弾と音と、的が倒れる音がリズムよく響く。
迷いも戸惑いもない、綺麗な連続動作。
その中に、いくつかの的は見事に頭部に命中していた。
結果は89点。
静かな感嘆の声が周囲に漏れた。
「良い腕だ。今後に期待しているぞ」
カティア中尉が珍しく笑みを見せると、セリスはお淑やかに返事をし、跳ねるように戻ってくる。
「アイリス。リラックス、リラックス。演技のときと一緒だよ。まっすぐ、前を見て集中するの」
ボソリとささやかれる言葉に、私は目を見開いた。
今にも泣き出しそうなくらい緊張していた胸が、すっと静かになる。
――あぁ、そうか。私はずっと舞台の上にいたんだ。
鼓動を落ち着け、私は前に出る。
重たい銃を受け取り、構える。
カティア中尉の声が響いた。
「始め!」
パシュ、パタン――
一発目は命中。けれど、次の的には反応が遅れた。倒れたのは的の側で、私の弾が届くよりも早かった。
――しまった。一体、逃した。
焦る気持ちを押さえて、私は集中する。
落ち着けば当たる、落ち着けば――
パシュ、パシュ。
ヘッドショットを狙い、無駄撃ちは避けて慎重に――
結果は76点。
ヒット29、無駄撃ち4発、ヘッドショット8。
B判定。けれど、この場では決して悪くない評価だった。
「まぁまぁだな。だが、この中なら上出来な方だ」
カティア中尉の声に、周囲の空気がわずかに変わる。
セリスと並んで立つ私に、ざわめきが向けられる。
私は思わず、片腕を上げてガッツポーズをしてみせた。
すると、セリスがフフッと笑って、ほんの少しだけ、胸を張ってみせた。




