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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第2部:その手はまだ繋がって
88/123

射撃シュミュレーション

 


「これより模擬戦闘シミュレーションを行う。各員、聞いて覚えろ」


 無機質な空気を切り裂くように、カティア中尉の張りのある声が響く。言葉一つひとつが鋭利な刃のようだった。


「使うのはペイント銃。目標は制限時間内に何体倒せるか。命中精度、そして頭部ヒットの3点で評価する。

 命中ごとに+2点。全30体。

 命中精度は+10点。無駄撃ちは5発ごとに−5点。

 頭部ヒット1体につき+1点。最大で100点満点。


 Aは85以上、Bは75以上、Cは65以上、Dは55以下」


 淡々と説明されるルールに、私たちは誰も言葉を挟めずにただ頷いた。



 つまり――無駄撃ちをせず、確実に当てる。それだけでも70点には届く。




「やりたい者から前に出ろ。ぐずぐずするな」




 カティア中尉が鋭く促すと、誰もが一瞬戸惑った。


 銃、たとえ模造であっても、本物に似た形をしている。重く、冷たく、そして――怖い。



 リリィ――セリスがそっと私の袖を引いた。


「ねぇ、すごい。本物、なのかな?」


 小声で問いかけながら、興味ありげに銃を覗き込んでいる。瞳は好奇心にきらめいて、どこか楽しげですらあった。



「セリス、自信あるの?」


「んー、やってみないとわかんないかも?」


 指先を顎に当てて考えるような仕草。そして、ふわりと笑ってみせる。


 その無邪気な笑みが、不思議と私の肩の力を抜いてくれた。



 私とセリスは、先に進んだ誰かのテストを眺めながら、後方で順番を待った。



 パシュッ、パシュッ。


 ペイント弾が飛ぶたび、乾いた音と共に小さな反動が銃を揺らす。



 照準が安定せず、連射のたびに弾が外れる。


 的が倒れず、動揺してさらに外す――そんな悪循環に陥っているのが見て取れた。



 評価は軒並みD、たまにC。


 射撃経験などあるはずもない私たちにとっては、当然の結果かもしれない。



 そんな中、セリスが前に出た。

 一瞬だけ私の方を見て、目が合う――まるで「見ててね」とでも言いたげな眼差し。


 カティア中尉が開始を告げる。



 パシュ、パタン。パシュパシュ、パタンパタン。



 弾と音と、的が倒れる音がリズムよく響く。


 迷いも戸惑いもない、綺麗な連続動作。


 その中に、いくつかの的は見事に頭部に命中していた。



 結果は89点。

 静かな感嘆の声が周囲に漏れた。


「良い腕だ。今後に期待しているぞ」


 カティア中尉が珍しく笑みを見せると、セリスはお淑やかに返事をし、跳ねるように戻ってくる。



「アイリス。リラックス、リラックス。演技のときと一緒だよ。まっすぐ、前を見て集中するの」



 ボソリとささやかれる言葉に、私は目を見開いた。


 今にも泣き出しそうなくらい緊張していた胸が、すっと静かになる。

 ――あぁ、そうか。私はずっと舞台の上にいたんだ。


 鼓動を落ち着け、私は前に出る。

 重たい銃を受け取り、構える。



 カティア中尉の声が響いた。


「始め!」



 パシュ、パタン――



 一発目は命中。けれど、次の的には反応が遅れた。倒れたのは的の側で、私の弾が届くよりも早かった。


 ――しまった。一体、逃した。



 焦る気持ちを押さえて、私は集中する。



 落ち着けば当たる、落ち着けば――


 パシュ、パシュ。


 ヘッドショットを狙い、無駄撃ちは避けて慎重に――



 結果は76点。


 ヒット29、無駄撃ち4発、ヘッドショット8。


 B判定。けれど、この場では決して悪くない評価だった。


「まぁまぁだな。だが、この中なら上出来な方だ」


 カティア中尉の声に、周囲の空気がわずかに変わる。



 セリスと並んで立つ私に、ざわめきが向けられる。


 私は思わず、片腕を上げてガッツポーズをしてみせた。

 すると、セリスがフフッと笑って、ほんの少しだけ、胸を張ってみせた。

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