適性評価
鉄の扉の先には、想像よりもずっと広い空間が広がっていた。無駄に広く、無機質で、整然と並ぶテストブースはまるで兵士の訓練場のようだった。
「個別に配置につけ。テストは一度きり。測定は正確に、やり直しは認めない」
冷たい声で指示する。
最初に行われたのは、反応速度の測定だった。
重たいヘッドギアを被せられ、モニターの前に座らされる。
視界の端に突然現れる光、耳元で鳴る不快な電子音。
それらに対して、手元のボタンを瞬時に押して反応する。
「反応速度:平均域。評価――B」
傍の職員は無感情な声が告げた。
その言葉に胸がざわつく。少し遅れただけ、それだけのはずなのに、まるで私の価値が下がったような錯覚すら覚える。
次は運動適応テスト。
不安定な足場を渡り、わざと傾いた足場を進む。壁に手をついても、職員からは鋭く注意が飛ぶ。
「それでは意味がない。自立で進め」
アスレチックのようなコースを進み、次に乗せられたのは回転性めまい誘発マシン。
強い遠心力で視界が歪む。吐き気をこらえながら下ろされたあと、白い線の上をまっすぐ歩けと命じられる。
ぐらりと視界が揺れる。
一歩、二歩。足元が歪むような感覚に、思わず目をつむる。
「平衡感覚:やや不安定。評価――B」
またBだ、と胸の奥がきゅっと締めつけられる。
次に始まったのは、精神強度検査だった。
個室のような空間に通され、ヘッドホンをつけられる。
そこで再生されたのは、凄惨なスプラッター映像――悲鳴、裂ける音、怒鳴り声、壊れていく人の顔。
まるで悪夢を無理やり叩き込まれるようだった。
背筋が冷たくなった。指先がわずかに震える。
「精神判定――A。正常判断を確認」
――嘘だ。正常なんかじゃない。
でも、“そうである”と記録されたなら、それがすべて。
すべてのテストが終わると、それぞれの結果が渡された。
紙ではない。個別の識別カードにデータが記録され、私たちはその数字と共に「価値」を定義される。
リリィ――セリスのカードには、全項目A評価が並んでいた。
私のカードには、反応速度と平衡感覚がB、他はA。
テストが終わっても、リリィは何も言わなかった。ただカードを眺めて、私の目を見て、小さく微笑んだだけだった。
その笑顔は、慰めのようにも、鼓舞のようにも見えた。
けれども私はわかっていた。
このテストは“ただの評価”じゃない。
けれども私はわかっていた。
このテストは“ただの評価”じゃない。
この場所で生き延びるための最初の足切りだ。
部活や試験のように、できなければ、できるまで――。
私は、拳を握りしめた。
「……いいさ。なら、もっとできるようになればいいだけだろ」
誰に聞かせるでもない言葉を口の中で呟く。




