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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第2部:その手はまだ繋がって
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適性評価

 鉄の扉の先には、想像よりもずっと広い空間が広がっていた。無駄に広く、無機質で、整然と並ぶテストブースはまるで兵士の訓練場のようだった。


「個別に配置につけ。テストは一度きり。測定は正確に、やり直しは認めない」


 冷たい声で指示する。




 最初に行われたのは、反応速度の測定だった。


 重たいヘッドギアを被せられ、モニターの前に座らされる。



 視界の端に突然現れる光、耳元で鳴る不快な電子音。


 それらに対して、手元のボタンを瞬時に押して反応する。



「反応速度:平均域。評価――B」


 傍の職員は無感情な声が告げた。


 その言葉に胸がざわつく。少し遅れただけ、それだけのはずなのに、まるで私の価値が下がったような錯覚すら覚える。




 次は運動適応テスト。


 不安定な足場を渡り、わざと傾いた足場を進む。壁に手をついても、職員からは鋭く注意が飛ぶ。



「それでは意味がない。自立で進め」



 アスレチックのようなコースを進み、次に乗せられたのは回転性めまい誘発マシン。



 強い遠心力で視界が歪む。吐き気をこらえながら下ろされたあと、白い線の上をまっすぐ歩けと命じられる。



 ぐらりと視界が揺れる。


 一歩、二歩。足元が歪むような感覚に、思わず目をつむる。



「平衡感覚:やや不安定。評価――B」



 またBだ、と胸の奥がきゅっと締めつけられる。



 次に始まったのは、精神強度検査だった。



 個室のような空間に通され、ヘッドホンをつけられる。


 そこで再生されたのは、凄惨なスプラッター映像――悲鳴、裂ける音、怒鳴り声、壊れていく人の顔。

 まるで悪夢を無理やり叩き込まれるようだった。



 背筋が冷たくなった。指先がわずかに震える。


「精神判定――A。正常判断を確認」



 ――嘘だ。正常なんかじゃない。


 でも、“そうである”と記録されたなら、それがすべて。


 すべてのテストが終わると、それぞれの結果が渡された。


 紙ではない。個別の識別カードにデータが記録され、私たちはその数字と共に「価値」を定義される。



 リリィ――セリスのカードには、全項目A評価が並んでいた。



 私のカードには、反応速度と平衡感覚がB、他はA。



 テストが終わっても、リリィは何も言わなかった。ただカードを眺めて、私の目を見て、小さく微笑んだだけだった。



 その笑顔は、慰めのようにも、鼓舞のようにも見えた。


 けれども私はわかっていた。

 このテストは“ただの評価”じゃない。



 けれども私はわかっていた。

 このテストは“ただの評価”じゃない。


 この場所で生き延びるための最初の足切りだ。

 部活や試験のように、できなければ、できるまで――。



 私は、拳を握りしめた。


「……いいさ。なら、もっとできるようになればいいだけだろ」


 誰に聞かせるでもない言葉を口の中で呟く。

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