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神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第2部:その手はまだ繋がって
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新たな名

 

 ベッドに身を投げ出してから、どれほど時間が経ったのかは分からなかった。眠っていたのか、ただ目を閉じていただけだったのか――。


 ぼんやりとした頭に響くのは、またしてもあの冷たいアナウンスの声だった。



『S2型対象は全員、通路に出てください。これより基礎適性のチェックを行います。繰り返します――』



 私は思わず身を起こし、深く息を吐いた。



 扉を開け、無機質な通路に足を踏み出す。


 その時、目が合った。


 リリィ――いや、今は彼女も違う名前があるはず。


「……リリィ」



 思わず呼びかけると、彼女はふわりと笑って駆け寄ってきた。私も、ほっとしたように駆け寄る。


「名前……今は、どうなってる?」


 少しだけ戸惑いながら尋ねると、リリィは静かに、しかし確かに答えた。


「S2型‐016、セリス。……それが今の、わたしの名前」


 言いながらも、その笑顔の奥に一瞬だけ影のようなものが差すのを私は見逃さなかった。


 私も、名乗り返す。


「……S2型‐015、セラ。……たぶん、それが私」


 互いの名前を、確認し合う。名乗ることで、自分が“何者なのか”を少しでも確かめるように。


 リリィ――いや、セリスは、どこか落ち着いていた。こんな状況の中で、表情を変えることなく自然体でいられる彼女に私は不思議な感覚を抱いていた。



「注目」



 鋭い声が響く。再び、先ほどの女性教官

 ――カティア中尉だ。


 整えられた軍服に、無駄のない所作。


 今は鉄の扉の前に立ち、私たちの名前がすでに確認されていることを告げる。



「識別名の確認が済んだな。次は、基礎適性テストだ。従順に、私の指示に従え。勝手な行動を取るな。理解できた者から、扉の外へ出るように」



 無慈悲な命令口調。その言葉が否応なく背中を押す。



 鉄の扉が、重く軋む音を立てて開かれる。

 その先には、また別の世界がある――そんな錯覚を覚えるほど、空気が違って感じた。



 皆、どこか無言のままに歩き出す。知った顔もいれば、まったく見覚えのない少女もいる。年齢も雰囲気もばらばらで、私たちはただ“選ばれた”という共通項でここに集められているのだと実感する。



 中には、ひそひそと話し合っている者もいるが、多くは沈黙している。


 誰もが手探りの中で、状況を測っている。



「行きましょ?」



 セリスが振り返って、私に手を差し出すように言った。


 その横顔は、以前の“リリィ”と変わらないのに、どこか遠くを見つめているようでもあった。


「うん……!」



 私は返事をして、先を行く彼女に駆け足で追いついた。



 走る足音だけが、灰色の床に小さく響いていた。

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