白き檻
まるで広いフロアのように錯覚する通路だった。
無機質な灰色の壁、整然と並ぶ蛍光灯の光が、足元を白く照らしている。
窓一つない閉鎖空間。その無音の冷たさに、私は胸の奥がぞわりとするのを感じた。
これはまるで、監獄だ。
足音だけが通路に響く中、リリィと私は先頭に並ぶように歩いていた。
私たちと同じように黒衣をまとった少女たちが、背後にぞろぞろと続いている。
その黒の衣装は、身体のラインを容赦なく浮かび上がらせる。
無骨な鉄の扉の前に、一人の女性が立っていた。背筋を伸ばし、隙のない軍服を纏った姿。名札に刻まれたその名は――カティア・ブラームス。
横に控える兵士は無言で、警戒するように少女たちを見渡している。
カティア中尉は、我々を一瞥し、そして淡々と口を開いた。
「確認。全員揃っているか」
無表情な声。その抑揚のなさが、かえって威圧感を持って響いた。隣の下士官が頷くと、彼女はわずかに顎を引き、再び前を向いた。
「君たちは選ばれたのではない。ただ“適合”した、それだけのこと」
「戦術兵器・量産型神代兵器の運用において、感情や誇りは不要だ。模範や教訓を示す必要もない」
「君たちは、命令に従い、機能する。それだけが求められている」
声は冷たく、まるで機械のようだった。言葉の一つひとつが、私たちの胸に針のように突き刺さる。
「今後、ここでの呼び名を通達する。個人名は不要。必要なのは識別と従順。与えられた名で動け」
誰かが小さく息を呑む音がした。
「各自の部屋に戻れ。命令を逸脱する者、逃走を企てる者には、相応の罰則を与える。見せしめになりたい者だけ、好きにするがいい」
そう言い終えると、カティア中尉は一歩も動かぬまま、まるで壁の一部のように沈黙した。
しばしの静寂の後、リリィが私の袖を小さく引いた。
「……戻ろっか。逆らったって、今はどうにもならない」
私は頷いた。喉が渇いているのに、言葉が出なかった。
「でも……」
それでも、と続けかけて、私は言葉を飲み込んだ。リリィは私をじっと見て、小さく微笑んだ。
「……それじゃ、またね」
その声は震えていたけれど、目だけは真っ直ぐだった。
私たちは無言で部屋へと戻る。その背後で、再び鉄の扉が軋む音を立てた。まるで、牢の扉が閉じるように。




