表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神を殺した世界にて  作者: ほてぽて林檎
第2部:その手はまだ繋がって
83/123

静かな戯れ

 

 少しの沈黙が流れた。



 ふと気づけば、私たちはまったく同じ衣装を身にまとっている。



 黒のレオタード、肌にぴたりと沿う柔らかな生地。足首までを包むレッグカバー。


 露出は多くないはずなのに、不思議と隠しているはずの何かが、逆に強調されているように見える。



 私はつい、視線を落としてリリィの身体をまじまじと見てしまっていた。



 首筋から鎖骨、しなやかに伸びた腕と、露出した脇。

 レオタードの際どいラインが太ももの付け根を描き、思わず生唾を飲み込む。



 衣装の上からでもわかる胸の起伏と、引き締まったくびれ。そして足首に向かって流れるように細く整ったライン。


 全部が目を奪ってくる。



 大会で華やかな衣装を着ていたときには、こんな風に感じたことはなかった。


 むしろ、あの時のほうが露出は多かったはずなのに。



 ……黒は、女性の魅力を引き立てる。

 そんな言葉をどこかで聞いたことがある。もしかしたら、それは本当なのかもしれない。



 そんな私の視線に、リリィが気づいていないはずがなかった。



 わざとらしいくらいに一歩、また一歩と近づいてきて、ふわっとした声で話しかけてくる。


「ねえ、そんなに見ると恥ずかしいよ?」


「い、いや、そんな、べつに……っ」


 しどろもどろになった私の返事に、リリィの唇が悪戯っぽく歪む。


「……えいっ」


 突如として、彼女の指が私の肋をツンと突いた。


「ひゃ、ぁッ……!」


 咄嗟に上がった自分の声が、思っていたよりずっと情けなくて、あられもなくて。


 自分でもびっくりするくらいの反応に、リリィはその場で肩を震わせて笑い出した。



 普段のお淑やかな雰囲気とは打って変わって、まるで悪戯っ子みたい。


 からかってやろうという気持ちが、全身からあふれていて……それがまた、可愛くて、ちょっと悔しい。


 私は言葉にならない言葉を慌てて口にしながら、顔を真っ赤にして手を振る。


「な、なにすんの、リリィ……!」


「だってアイリス、顔真っ赤だったから……ふふっ」


 笑いながらリリィが一歩引いた、その瞬間だった。


「――全員、通路に出てください」


 またしても、あの無機質な女性のアナウンスが頭上のスピーカーから響いた。


 冷たく感情のない、命令だけを伝える声。


 空気が少し、張りつめた。


 私とリリィは、目を見合わせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ