静かな戯れ
少しの沈黙が流れた。
ふと気づけば、私たちはまったく同じ衣装を身にまとっている。
黒のレオタード、肌にぴたりと沿う柔らかな生地。足首までを包むレッグカバー。
露出は多くないはずなのに、不思議と隠しているはずの何かが、逆に強調されているように見える。
私はつい、視線を落としてリリィの身体をまじまじと見てしまっていた。
首筋から鎖骨、しなやかに伸びた腕と、露出した脇。
レオタードの際どいラインが太ももの付け根を描き、思わず生唾を飲み込む。
衣装の上からでもわかる胸の起伏と、引き締まったくびれ。そして足首に向かって流れるように細く整ったライン。
全部が目を奪ってくる。
大会で華やかな衣装を着ていたときには、こんな風に感じたことはなかった。
むしろ、あの時のほうが露出は多かったはずなのに。
……黒は、女性の魅力を引き立てる。
そんな言葉をどこかで聞いたことがある。もしかしたら、それは本当なのかもしれない。
そんな私の視線に、リリィが気づいていないはずがなかった。
わざとらしいくらいに一歩、また一歩と近づいてきて、ふわっとした声で話しかけてくる。
「ねえ、そんなに見ると恥ずかしいよ?」
「い、いや、そんな、べつに……っ」
しどろもどろになった私の返事に、リリィの唇が悪戯っぽく歪む。
「……えいっ」
突如として、彼女の指が私の肋をツンと突いた。
「ひゃ、ぁッ……!」
咄嗟に上がった自分の声が、思っていたよりずっと情けなくて、あられもなくて。
自分でもびっくりするくらいの反応に、リリィはその場で肩を震わせて笑い出した。
普段のお淑やかな雰囲気とは打って変わって、まるで悪戯っ子みたい。
からかってやろうという気持ちが、全身からあふれていて……それがまた、可愛くて、ちょっと悔しい。
私は言葉にならない言葉を慌てて口にしながら、顔を真っ赤にして手を振る。
「な、なにすんの、リリィ……!」
「だってアイリス、顔真っ赤だったから……ふふっ」
笑いながらリリィが一歩引いた、その瞬間だった。
「――全員、通路に出てください」
またしても、あの無機質な女性のアナウンスが頭上のスピーカーから響いた。
冷たく感情のない、命令だけを伝える声。
空気が少し、張りつめた。
私とリリィは、目を見合わせた。




